第4話 「ひび割れたリズム」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/10 📚 シリーズ: 『Shine Stars』 📝 1,810文字 ✅ 全年齢

あらすじ

放課後の音楽室。今日は、最初から空気が違っていた。重い。

本文

放課後の音楽室。

今日は、最初から空気が違っていた。

重い。

誰も何も言わないまま、楽器だけが机の上に並んでいる。

「……出よう、って話」

朝比奈ミオが口火を切った。

「昨日の続きね!」

明るく言っているのに、少しだけ声が硬い。

黒崎レイは、最初からベースを触っていない。

「まだ“バンド”にもなってないのに、何言ってる」

「なってる途中でしょ!」 ミオが即答する。

レイは鼻で笑う。

「途中って言葉は便利だな」

その言葉に、空気が少し冷える。

白雪カノンが小さく手を握る。

「でも……昨日、一瞬だけ揃いました……」

「偶然だ」

レイは即答する。

その声は、いつもより少しだけ強い。

ユウはそれを聞いていた。

ギターケースを開けないまま、床を見ている。

(また、これか)

“できそう”と“無理だ”が、同じ場所にいる感じ。

その中で、ミオだけが前を向いていた。

「偶然でもいいじゃん」

「続ければ、それになるかもしれないし!」

レイがゆっくり立ち上がる。

「ならない」

短い言葉。

でも、重い。

ミオは一瞬だけ黙る。

そして、少しだけ笑う。

「なんでそんなに決めつけるの?」

レイは答えない。

代わりにベースを手に取る。

「俺は見てきたからだ」

その一言で、空気が止まる。

ユウの指が、わずかに動いた。

(見てきた?)

レイは続けない。

でも、その沈黙がすべてだった。

ミオはそれ以上追わない。

ただ、ゆっくり息を吐く。

「じゃあさ」

「今日は“合わせる練習”やめよう」

ユウが顔を上げる。

「またそれか」

ミオは頷く。

「今日は“聞く練習”」

「聞く?」

ソラが首をかしげる。

「うん」

ミオはユウを見る。

「誰かに合わせるんじゃなくて、自分の音をちゃんと出す」

「そのままでいいから」

ユウは少しだけ眉を動かす。

(そのままでいい)

その言葉は、まだ慣れない。

ソラがスティックを構える。

「じゃあ行きます!」

ドンッ。

いつもより少しだけ遅い。

カノンが鍵盤に触れる。

ポロン。

「……聞こえる」

小さく呟く。

レイはベースを弾かない。

弾かないまま、音を“聞いている”。

ミオが歌う。

「♪ まだ名前のない音が〜」

ユウはギターを持ったまま動かない。

(聞く、か)

周りの音が、少しだけ違って聞こえる。

ドラムの癖。 ピアノの揺れ。 ミオの息継ぎ。

全部バラバラなのに。

全部“同じ空間”にある。

ユウはギターを鳴らした。

ジャァン。

遅い。

少しズレている。

でも――

そのズレが、消えなかった。

むしろ。

残った。

ミオの声とぶつかる。

カノンがそこに音を重ねる。

ソラが少し遅れて追う。

レイはまだ弾かない。

ただ見ている。

そして――

ユウは気づく。

(消えない)

今までなら、ズレた瞬間に崩れていた。

でも今日は崩れない。

バラバラのまま、形が残っている。

ミオの歌が終わる。

静寂。

息だけが音楽室に残る。

レイがようやくベースを持ち上げる。

「……なるほどな」

小さく言う。

ミオが振り向く。

「何が?」

レイは少しだけ目を細める。

「“合わせない”ってのは、逃げじゃない」

その言葉に、ミオの目が少しだけ揺れる。

ユウも動きを止める。

レイは続ける。

「でも勘違いするな」

「それで成立するほど、音楽は甘くない」

カノンが息をのむ。

ソラがスティックを握り直す。

ミオは黙る。

レイはベースを弾く。

ボンッ。

低い音が落ちる。

「合わせることから逃げるなら、終わる」

ユウはその音を聞いていた。

(逃げ)

その言葉が、少しだけ刺さる。

でも、その直後だった。

ミオが小さく笑う。

「じゃあさ」

「逃げじゃなくて、“選び方”にしよ?」

レイが眉を動かす。

「選び方?」

ミオは頷く。

「合わせるか、合わせないかじゃなくて」

「“どこで重なるか”を選ぶ」

音楽室が、少しだけ静かになる。

ユウはギターを見つめる。

(重なる場所)

その言葉だけが、残る。

窓の外。

夕焼けが昨日より濃い。

赤じゃなくて、少し紫が混じっている。

ソラがぽつりと言う。

「なんか今日……ちょっと分かんなかったけど」

「でも、嫌じゃなかったです!」

カノンも頷く。

「私も……ちょっとだけ、音が“見えました”」

レイは何も言わない。

ただベースを肩にかける。

ミオがユウを見る。

「ね、ユウちゃんは?」

ユウは少し間を置く。

「……分からない」

正直な言葉。

でも続ける。

「でも」

「昨日よりは、崩れなかった」

ミオが笑う。

「それ、すごいじゃん」

ユウは答えない。

ただギターケースを閉じる。

その日。

まだ“曲”にはなっていない。

まだ“バンド”にもなりきれていない。

でも確かに。

ひび割れたリズムの中に。

消えない音が生まれ始めていた。

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