第6話 「Starlight Festival」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/10 📚 シリーズ: 『Shine Stars』 ✅ 全年齢

あらすじ

放課後。雨だった。春の終わりの雨は静かで、校舎全体を薄い灰色に染めている。

本文

放課後。

雨だった。

春の終わりの雨は静かで、校舎全体を薄い灰色に染めている。

窓ガラスを叩く雨音。 廊下に反射する白い光。 湿った空気。

音楽室の中だけが、少しだけ暖かかった。

ドラムスティックの転がる音。 アンプの微かなノイズ。 チューニングの高い弦の響き。

その真ん中で、朝比奈ミオが机に身を乗り出していた。

「――というわけで!」

勢いよく紙を机に叩きつける。

バンッ!!

「これです!!」

夏川ソラがビクッと肩を跳ねさせる。

「うわぁっ!? な、何ですか!?」 「見て見て!!」

ミオが紙を広げる。

そこには大きく書かれていた。

『Starlight Festival

出場バンド募集開始』

白雪カノンの目が一瞬で輝いた。

「……!!」

両手で口を押さえる。

「ほ、本物です……!!」 「テンション高っ」 レイが呆れた声を出す。

カノンは紙を見つめたまま震えていた。

「全国から学生バンドが集まる夢の舞台……去年優勝した“Luminous Arc”はメジャーデビューして……観客は数万人規模で……配信も同時開催で……!」

「詳しすぎない?」 ソラが引く。

「毎年見てます……!」

カノンの頬が赤い。

ユウはその様子を横目で見ながら、静かにギターを調整していた。

(Festival、か)

昨日までなら、ただの遠い話だった。

でも今は少し違う。

“自分たち”の話として聞いてしまっている。

それが少しだけ怖かった。

ミオがぐっと拳を握る。

「出よう!」

「だから簡単に言うな」 レイが即答。

「なんで!?」 「レベルが違う」

レイは紙を指で軽く叩く。

「去年の動画見たことあるか?」 「ある!」 「なら分かるだろ」

空気が少し静かになる。

レイは続ける。

「技術も、完成度も、熱量も全部化け物だ」

その言葉には実感があった。

ただ否定しているわけじゃない。

“知っている人間”の声。

ユウは少しだけ顔を上げる。

(まただ)

レイはFestivalを知りすぎている。

まるで、そこに立ったことがあるみたいに。

ミオもそれを感じたのか、少し真顔になる。

「……レイってさ」

「前、出たことあるの?」

空気が止まった。

ソラが「えっ」と小さく声を漏らす。

カノンも目を瞬かせた。

ユウだけが静かにレイを見る。

レイはしばらく答えなかった。

雨音だけが聞こえる。

やがて、小さく口を開く。

「……ある」

音楽室が静まり返る。

「えええええええええ!?」

ソラが叫んだ。

「マジですか!? すごくないですか!?」 「うるさい」

レイは顔をしかめる。

ミオが机に身を乗り出した。

「え、ちょっと待って!? いつ!? どんなバンド!?」 「昔だ」 「いや気になる!!」

レイは少しだけ黙る。

そして。

「……出た」

短く、それだけ言った。

「でも」

その声が、少し低くなる。

「終わった」

空気が変わる。

ミオの笑顔が少しだけ消えた。

ユウは視線を落とす。

(終わった)

その言い方だけで分かる。

ただ負けたわけじゃない。

もっと、痛い何か。

レイは窓の外を見る。

雨が強くなっていた。

「最初は良かった」

「“このメンバーならいける”って、本気で思ってた」

誰も喋らない。

「でも、ズレ始めた」

「技術の差」 「方向性」 「焦り」 「嫉妬」

低い声が、雨音に混ざる。

「最後はライブ中に演奏止まった」

ソラが息を呑む。

カノンも顔を青くする。

ミオだけが静かに聞いていた。

「……それで、解散したの?」 「した」

即答だった。

「Festivalなんて、そんなもんだ」

レイは笑わない。

「夢見て、壊れる場所だ」

沈黙。

雨だけが鳴っている。

ユウはギターの弦を軽く弾いた。

キィン……

小さな音。

でも妙に響く。

(壊れる、か)

その言葉が胸に残る。

自分も知っている。

仲間が崩れる瞬間。 信じられなくなる感覚。

だからずっと、一人でいた。

その空気を壊したのは――

やっぱりミオだった。

「でもさ」

全員が顔を上げる。

ミオは真っ直ぐレイを見ていた。

「それ、“音楽が悪かった”わけじゃないよね」

レイの眉がわずかに動く。

「……は?」 「人がぶつかったんでしょ?」

ミオは静かだった。

いつもの勢いじゃない。

でも強い。

「だったらさ」

「今度は、“壊れないやり方”探せばいいじゃん」

レイが黙る。

ミオは続ける。

「私たち、まだ全然上手くないよ?」

「でも」 「昨日より今日の方が良かった」

「今日より明日の方が、もっと良くなるかもしれない」

ソラが小さく頷く。

「……私、まだ全然叩けないですけど」

「でも、楽しいです」

カノンも胸の前で手を握る。

「私も……ロック、もっと知りたいです……!」

ユウは何も言わない。

でも。

否定もしなかった。

レイは深く息を吐く。

「……甘いな」

「うん!」

ミオが即答。

「知ってる!」

「開き直るな」 「でも!」

ミオが笑う。

「レイだって、また音楽室来てるじゃん」

その言葉で、空気が止まる。

レイの目が少しだけ揺れた。

「本当に嫌なら、来ないでしょ?」

沈黙。

雨音。

長い間。

やがてレイは、小さく舌打ちした。

「……面倒なやつ」

ミオがニカッと笑う。

「知ってる!」

ユウはその光景を見ていた。

(変なやつだ)

ミオは、怖がらない。

壊れた話を聞いても。 失敗を知っても。

前に進こうとする。

まるで。

“音楽が壊れない”って信じてるみたいに。

ミオが突然手を叩く。

「よし!!」

「じゃあ今日はFestival用に一曲やろう!」

「はぁ!?」 レイが顔をしかめる。

「早すぎる!!」 ソラも慌てる。

「ろっくはスピード感が大事です……!」 なぜかカノンが乗る。

「違うだろ絶対」

ユウは小さくため息をつく。

でも。

少しだけ口元が緩んでいた。

「曲どうする!?」 「まず技術をだな……」 「明るい曲!? 熱い曲!?」 「静かな始まりから爆発する感じとか……!」 「叩ける速さにしてください!!」

会話が一気に騒がしくなる。

その中心で。

ユウはギターを手に取った。

ジャァン。

音が鳴る。

全員が止まる。

ユウは無意識だった。

ただ、頭の中に残っていた音を弾いただけ。

でも。

ミオの目が大きくなる。

「……今の」

カノンが息を呑む。

「綺麗……」

レイも少しだけ表情を変えた。

ユウは我に返る。

「……別に」

誤魔化すように視線を逸らす。

でも。

ミオが笑った。

ものすごく嬉しそうに。

「それだよ」

「Shine Starsの音」

その瞬間。

雨音の向こうで。

何かが、少しだけ始まった。

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