第7話 「はじめてのオリジナル」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
翌日。雨は止んでいた。校舎の窓から差し込む朝日が、濡れたグラウンドをきらきら光らせている。
本文
翌日。
雨は止んでいた。
校舎の窓から差し込む朝日が、濡れたグラウンドをきらきら光らせている。
そんな中。
音楽室では朝から騒ぎが起きていた。
「お、おおおおおおオリジナル曲ぅぅぅぅ!?」
夏川ソラの叫び声が廊下まで響く。
「声でかい」 黒崎レイが即座にツッコむ。
「いやだって!? オリジナルって“自分たちの曲”ってことですよね!?」 「そうだけど……」
朝比奈ミオも少し興奮していた。
「なんか急に“バンド”って感じしてきた!!」
白雪カノンはノートを抱きしめている。
「作曲……芸術……青春……ろっく……!」
「情報量多いな」 レイが呆れる。
その中心で。
天音ユウだけが静かだった。
昨日、無意識に弾いたフレーズ。
頭の中に、まだ残っている。
(なんで弾いたんだ)
今まで、人に聞かせるために弾いたことなんてない。
“自分のため”だけだった。
なのに。
昨日の音は、少し違った。
ミオが机を叩く。
「よし! まずは曲のイメージ決めよう!」
「王道ロック?」 「青春系?」 「泣ける系!?」 「速い曲叩いてみたいです!!」
ソラが元気に手を挙げる。
「いやお前絶対死ぬだろ」 レイが冷静。
「うっ」
ソラが沈む。
カノンがそっとノートを開く。
「私は……“星”がいいと思います」
「星?」 ミオが首をかしげる。
「はい」
カノンは少し照れながら続ける。
「皆さんの音って、まだバラバラなのに……たまに、同じ方向に光る瞬間があって」
「それが、夜空みたいだなって……」
音楽室が少し静かになる。
ソラが目を輝かせた。
「うわぁ……なんかエモいです!!」 「語彙が軽い」 レイが即答。
でも。
少しだけ口元が緩んでいた。
ミオがユウを見る。
「ユウちゃんは?」
ユウは窓の外を見る。
青空。 風。 揺れる木。
少し考えて。
「……消えない音」
ぽつりと言った。
全員が見る。
ユウは少しだけ後悔した顔をする。
「……別に深い意味じゃない」 「あるでしょ絶対」 ミオがニヤニヤする。
ユウは露骨に顔をしかめる。
「うるさい」
でも。
ミオは嬉しそうだった。
「“星”と“消えない音”かぁ……」
カノンも頷く。
「綺麗です……」
レイは腕を組む。
「悪くはない」
ソラが勢いよく立ち上がる。
「じゃあタイトルは!!」
全員が見る。
ソラは満面の笑みで叫んだ。
「『キラキラ☆スターライト青春メロディ!!』とかどうですか!?」
沈黙。
レイが真顔で言う。
「却下」 「早っ!?」
ミオが爆笑する。
カノンも肩を震わせて笑っていた。
ユウだけは小さく吹き出してしまう。
「……ぷっ」
一瞬。
空気が止まった。
ミオが固まる。
ソラも固まる。
カノンも目を丸くする。
レイまで止まった。
ユウは自分で気づいて、顔をそむけた。
(やば)
ミオがゆっくり近づいてくる。
「……今」
「笑った?」
「……笑ってない」 「笑ったよね!?」 「笑ってない」 「いや絶対笑ったって!!」
ミオが机を叩いて大騒ぎする。
ソラも便乗する。
「ユウ先輩が笑ったぁぁぁ!!」 「記念日です!!」 「やめろ!!」
音楽室が一気にうるさくなる。
レイは呆れながらも、少しだけ目を細めていた。
騒ぎが落ち着いたあと。
ユウは静かにギターを持った。
「……少しだけ」
「合わせるぞ」
空気が変わる。
ミオがマイクを握る。
カノンが鍵盤に手を置く。
ソラがスティックを構える。
レイがベースを肩にかける。
ユウは深呼吸した。
そして――
ジャァン……
昨日のフレーズ。
静かな始まり。
少し切なくて。
でも前を向いている音。
カノンがそっと重ねる。
ピアノが星みたいに散る。
レイのベースが低く支える。
ソラは慎重にリズムを刻む。
ミオはまだ歌わない。
ただ聞いている。
音が、ゆっくり重なっていく。
昨日までとは違う。
“偶然”じゃない。
ちゃんと、お互いを聞いている。
ユウは少しだけ驚いていた。
(……合わせてる)
無理にじゃない。
自然に。
気づけば、音が並んでいた。
そのとき。
ミオが歌った。
「♪ 消えそうな星を、まだ探してる――」
全員の音が、一瞬止まりそうになる。
歌詞もメロディも即興。
なのに。
なぜか。
全部そこにハマった。
ドクン。
ユウの心臓が鳴る。
レイが目を見開く。
カノンが震える。
ソラが必死にリズムを繋ぐ。
ミオは歌い続ける。
「♪ バラバラの夜でも、君の音が聞こえた――」
音楽室の空気が変わる。
夕焼けも。 雨上がりの匂いも。 窓から入る風も。
全部、音楽になっていく。
曲が終わる。
静寂。
誰も動けない。
最初に口を開いたのはレイだった。
「……今の」
珍しく、言葉が止まる。
ミオが息を切らしながら笑う。
「なんか……すごくなかった?」
カノンの目には涙が浮かんでいた。
「音が……景色になってました……」
ソラは放心している。
「わ、私ちゃんと叩けてました……?」 「ギリギリな」 レイが答える。
でも、その声は少し優しかった。
ユウはギターを見つめる。
指先が熱い。
(今の……)
“消えなかった”。
ちゃんと残ってる。
音が。
心の中に。
ミオが、静かに言う。
「これ、完成させよう」
誰も否定しなかった。
夕焼けの音楽室で。
Shine Starsは初めて。
“自分たちの曲”を見つけ始めていた。