第8話 「歌詞のない気持ち」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/11 📚 シリーズ: 『Shine Stars』 📝 2,296文字 ✅ 全年齢

あらすじ

翌日の昼休み。星ノ宮学園は、いつも通り騒がしかった。廊下を走る足音。購買へ向かう生徒の叫び声。教室から漏れる笑い声。

本文

翌日の昼休み。

星ノ宮学園は、いつも通り騒がしかった。

廊下を走る足音。 購買へ向かう生徒の叫び声。 教室から漏れる笑い声。

でも――

軽音部の空気だけは、どこか落ち着かなかった。

「……で」

黒崎レイが机に肘をつく。

「誰が歌詞書くんだ?」

沈黙。

一瞬で空気が止まる。

夏川ソラがそっと目を逸らした。

白雪カノンはノートを閉じる。

朝比奈ミオは固まった笑顔のまま停止。

天音ユウだけが静かに弦を触っていた。

キィン……

「……いや」

ミオがぎこちなく笑う。

「ノリでなんとかならない?」 「ならない」 レイ即答。

「ですよねぇ!!」

ソラが机に突っ伏す。

昨日できたのは、あくまで“断片”だった。

メロディ。 空気。 感情。

でも、“曲”にするには足りない。

特に歌詞。

それが、一番難しかった。

「ミオ先輩、歌ってたじゃないですか!」

ソラが勢いよく顔を上げる。

「“消えそうな星を〜”って!」

「いやあれ即興だし!?」 「天才では!?」 「違う違う違う!!」

ミオが全力で手を振る。

「なんかこう……その場の勢いっていうか……!」

レイがため息をつく。

「勢いでFestival出る気か」 「うっ」

痛いところを突かれて黙る。

カノンが小さく口を開いた。

「あの……」

全員が見る。

「歌詞って、“上手い言葉”じゃなくてもいいと思うんです」

レイが眉を動かす。

カノンは少し緊張しながら続けた。

「昨日の歌……すごく綺麗でした」

「たぶん、“本当に思ったこと”だったから」

ミオが少し黙る。

「……本当に思ったこと」

その言葉を、ゆっくり繰り返す。

ユウは静かにその会話を聞いていた。

(本当に思ったこと、か)

そんなもの。

音にするのが一番怖い。

言葉にした瞬間、壊れる気がする。

だから今まで、ギターでしか話さなかった。

ミオが突然立ち上がる。

「よし!」

「じゃあ今日は、“みんなの本音大会”しよう!!」

「は?」 レイが露骨に嫌そうな顔をする。

「え!? なにそれ面白そう!!」 ソラは乗り気。

「ろっくは感情です……!」 カノンも謎に納得している。

ユウは嫌な予感しかしなかった。

ミオがホワイトボードを持ってくる。

「はい! じゃあ質問です!」

バンッ!!

『今、一番怖いこと』

「重っ!?」 ソラが叫ぶ。

「なんで最初から重いの!?」 「歌詞ってそういうのできてる気がする!」 ミオは謎の自信。

「じゃ、ソラちゃんから!」 「えぇぇぇ!?」

ソラはしばらく悩み――

「……ミスして、みんなに置いてかれることです」

音楽室が少し静かになる。

ソラは苦笑いした。

「私だけ初心者だから」

「みんなすごいし」

「だから、ちゃんと追いつけるかなって」

その声は、いつもの明るさより少し小さい。

ミオが優しく笑う。

「大丈夫」

「今、一番前でうるさいのソラちゃんだから」 「褒められてます!?」 「多分」 レイが言う。

少しだけ笑いが起きる。

「次、カノンちゃん!」

「は、はいっ」

カノンは胸の前で手を握る。

「私は……」

少しだけ俯く。

「クラシックしか知らなかったので」

「もし皆さんに“合わない”って思われたら怖いです」

ユウの視線が少し動く。

カノンは続ける。

「私はロック初心者だから」

「皆さんみたいに、自由に音を出せなくて……」

その声は震えていた。

でも。

レイが小さく言った。

「お前の音、ちゃんと残ってる」

カノンが顔を上げる。

「え……?」

「昨日のイントロ」

「お前のピアノがなかったら成立してない」

静かな声。

でも本音だった。

カノンの目が少し潤む。

「……っ」

「ろっくって、優しいんですね……」 「勘違いするな」 レイが即否定。

「次、レイ!」

「断る」 「ダメです」

ミオが食い気味に言う。

レイは盛大にため息をついた。

長い沈黙。

やがて。

「……また壊れることだ」

音楽室が静まり返る。

誰もふざけなかった。

レイは窓の外を見たまま続ける。

「最初は楽しい」

「でも段々ズレる」

「気づいたら誰かが無理してる」

低い声。

雨の日の話を思い出す。

「……だから」

「期待しすぎるのが怖い」

その言葉に。

ミオの表情が少しだけ揺れた。

次。

空気が自然とユウへ向く。

「……え」

ユウが露骨に嫌そうな顔をする。

「ユウちゃんは?」 ミオが優しく聞く。

「……ない」 「絶対ある」 「ない」 「ある」

押し問答。

ソラまで乗っかる。

「聞きたいです!!」 「私もです……!」 「……最悪だ」

ユウは深くため息を吐いた。

そして。

小さく呟く。

「……信じること」

空気が止まる。

ユウは俯いたまま。

「仲間とか」

「バンドとか」

「そういうの」

指先が少し震える。

「また壊れたらって思うと」

「……面倒だから」

ミオは何も言わなかった。

ただ、静かに聞いていた。

長い沈黙。

でも、不思議と重くなかった。

ソラが小さく言う。

「なんか……」

「みんな怖いんですね」

レイが鼻で笑う。

「当たり前だろ」 「でも」

カノンが微笑む。

「だから音って、必要なのかもしれません」

ユウは少しだけ顔を上げる。

カノンは続ける。

「言葉にできない気持ちを、音にできるから」

その瞬間。

ミオが目を輝かせた。

「――それだ!!」

全員がビクッとする。

ミオはホワイトボードに勢いよく書き始める。

『言葉にできない気持ち』

「これだよ!! 今の曲!!」

「怖いけど」 「壊れそうだけど」 「でも、音を出したい」

「それがShine Starsじゃん!!」

ユウの心臓が少し跳ねる。

レイも黙っていた。

ソラが拳を握る。

「なんか……急に曲っぽくなってきました!!」

カノンも嬉しそうに頷く。

「はい……!」

ミオは笑う。

まっすぐに。

「じゃあさ」

「この曲、“私たちの気持ち”入れよう」

夕陽が差し込む音楽室。

まだ未完成で。 まだ不器用で。 まだ怖い。

それでも5人は。

少しずつ、“本当の音”に近づいていた。

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