第11話 「拍手のあと」
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あらすじ
体育館。照明の熱が、まだ肌に残っていた。最後のコードが響き終わる。
本文
体育館。
照明の熱が、まだ肌に残っていた。
最後のコードが響き終わる。
ジャァァン――……
余韻。
ドラムの振動。 アンプのノイズ。 荒い呼吸。
そして。
一瞬の静寂。
そのあと――
パチ……パチパチ……
拍手が聞こえた。
大きくはない。
歓声も、まだ少ない。
でも。
確かにそこに、“届いた音”があった。
「……終わった」
夏川ソラが呆然と呟く。
スティックを持ったまま固まっている。
「わ、私、生きてます……?」 「ギリギリな」 レイが言う。
でも、その口元は少しだけ緩んでいた。
白雪カノンは胸を押さえている。
「し、心臓がまだライブしてます……」
「それはずっとしてろ」 レイ即答。
ミオが吹き出す。
その瞬間。
張り詰めていた空気が、一気に崩れた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
ミオが叫ぶ。
「終わったぁぁぁぁ!!」
「耳痛っ!?」 ソラが飛び跳ねる。
「やばいやばいやばい!! 私、歌詞飛びかけた!!」 「私はコード飛びかけました……」 「私は全部飛びかけました!!」 「それはダメだろ」
レイが呆れながらベースを下ろす。
でも。
誰の顔にも、少し笑顔があった。
ユウだけは、まだ動かなかった。
ギターを持ったまま。
体育館を見ている。
観客たちは次の準備でざわつき始めていた。
もう自分たちのステージは終わった。
なのに。
胸の奥だけが、まだ熱い。
(……終わった)
それなのに。
(なんでこんな)
手が震えていた。
怖さじゃない。
もっと違う何か。
「ユウちゃん!」
ミオが飛び込んでくる。
「やばかったね!!」 「……近い」 「え、泣いてる?」 「泣いてない」
即答。
でも声が少し掠れていた。
ミオはニヤッと笑う。
「絶対ちょっと泣いてる」 「うるさい」
そのやり取りを見て。
ソラが突然、両手を上げた。
「初ライブ成功ぉぉぉぉぉ!!」
「成功……なんですかね?」 カノンが不安そうに聞く。
レイは少し黙って。
「……ミスだらけだった」
空気が少し止まる。
でも。
続きがあった。
「でも、崩れなかった」
その一言で。
全員の顔が少し変わる。
ミオが小さく笑う。
「……うん」
「最後まで、“私たちの音”だった」
夕方の光が体育館へ差し込む。
汗の匂い。 熱気。 ケーブルの散らばる床。
全部が、少しだけキラキラして見えた。
そのとき。
「……ねえ」
知らない声。
全員が振り向く。
そこには、制服姿の女子生徒が立っていた。
ショートカット。 鋭い目。 腕にはライブスタッフの腕章。
「今の曲」
彼女は真っ直ぐユウたちを見る。
「オリジナル?」
空気が少し変わる。
ミオが慌てて頷く。
「そ、そうです!」
女子生徒は少し黙る。
そして。
「……荒いけど」
「嫌いじゃなかった」
ソラの目が見開く。
「うわぁ!? 感想きた!!」
「静かにしろ」 レイが頭を押さえる。
女子生徒は続ける。
「特にギター」
ユウが少し顔を上げる。
「……感情の乗せ方、変だった」
「は?」 ミオが反応する。
「褒めてる」
女子生徒は真顔。
「普通、あそこまで不安定に弾くと崩れる」
「でもギリギリ残ってた」
ユウは何も言えない。
その感覚は、自分でも分かっていた。
“綺麗”じゃない。
でも。
消えないように弾いた。
女子生徒は少し考えて。
「Starlight Festival、出るの?」
空気が止まる。
ミオが勢いよく前へ出る。
「出ます!!」 「まだ決まってない」 レイ即修正。
女子生徒は小さく笑った。
初めて表情が動いた。
「なら、頑張れば」
「今年、レベル高いから」
その言葉だけ残して、彼女は去っていく。
沈黙。
ソラが口をぱくぱくさせる。
「い、今の何者ですか!?」 「さあ」 レイが短く返す。
でも。
表情が少し険しかった。
ユウはそれを見逃さなかった。
(知ってる顔だ)
ミオが急に笑い出す。
「でもさ!!」
「“嫌いじゃなかった”って、めちゃくちゃ嬉しくない!?」 「お前ポジティブだな……」 レイが呆れる。
カノンも嬉しそうだった。
「誰かに届いたんですね……私たちの音……」
ソラが飛び跳ねる。
「うわぁぁぁ!! バンドっぽい!!」 「今さらかよ」 ユウが小さく言う。
ソラが固まる。
「え」 ミオも固まる。
カノンも目を丸くする。
レイまで止まった。
ユウはハッとする。
(しまっ――)
ミオがニヤァっと笑う。
「今、自分で“バンド”って認めた?」 「……別にそういう意味じゃ」 「認めたー!!」 「うるさい!!」
音がない体育館に。
5人の笑い声だけが響く。
その帰り道。
夕焼けの空。
オレンジ色に染まる坂道を、5人で歩く。
誰も急がない。
ライブが終わったから。
でも。
終わったはずなのに。
ミオがぽつりと言った。
「……もっと、上手くなりたいな」
静かな声だった。
でも。
全員が止まる。
レイも。 ユウも。 カノンも。 ソラも。
誰も笑わなかった。
それは多分。
同じことを思っていたから。
ユウは夕焼けを見上げる。
今日のライブ。
完璧じゃなかった。
むしろボロボロだった。
でも。
“怖いだけ”じゃなかった。
胸の奥に残っている。
拍手。 歓声。 仲間の音。
そして。
“また鳴らしたい”って気持ち。
ユウは小さく息を吐く。
(……面倒だ)
でも。
少しだけ笑っていた。