第13話 「準優勝バンドの音」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/11 📚 シリーズ: 『Shine Stars』 📝 2,078文字 ✅ 全年齢

あらすじ

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」夏川ソラの叫び声が、音楽室どころか廊下まで響き渡る。「じゅ、準優勝ぉぉぉ!?」「去年のStarlight Festivalですよね!?」カノンまで混乱していた。

本文

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」

夏川ソラの叫び声が、音楽室どころか廊下まで響き渡る。

「じゅ、準優勝ぉぉぉ!?」 「去年のStarlight Festivalですよね!?」 カノンまで混乱していた。

ミオは完全に固まっている。

「え、ちょ、待って」

「準優勝って、あの全国の……?」

三条シオンは真顔で頷いた。

「そう」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

二回目。

「うるさい」 レイが頭を押さえる。

ユウだけは黙っていた。

でも。

心臓は少し速かった。

(去年の準優勝)

つまり。

本物だ。

今まで自分たちが“すごい”と思って見ていた場所に、実際に立った人。

しかも。

そのギタリスト。

ソラが勢いよく前へ出る。

「サインください!!」 「ない」 「写真!!」 「断る」 「冷たい!!」

ミオが慌ててソラを引っ張る。

「ちょ、ちょっと落ち着いて!?」

カノンはもう限界だった。

「ろっく界の有名人です……!!」

「界ってなんだよ」 レイが呆れる。

シオンは軽くため息をついた。

「別に大したことじゃない」

「いや大したことだよ!?」 ミオが即ツッコミ。

「去年の準優勝って、動画再生数すごかったじゃん!!」

シオンは少しだけ黙る。

その空気が、一瞬だけ変わった。

ユウは気づく。

(……あ)

その話題。

多分、触れられたくない。

レイが低い声で言う。

「……もう解散した」

空気が静まる。

ソラが慌てて口を押さえる。

カノンも固まった。

ミオも言葉を止める。

シオンは窓の外を見た。

「ボーカル脱退」

「そのまま終わり」

短い説明。

でも。

そこに詰まってるものは重かった。

ユウは少しだけ視線を落とす。

(また、壊れた話)

この世界には、それが多すぎる。

上手くいった話より。

終わった話の方が、ずっと多い。

ミオが静かに聞く。

「……後悔してる?」

シオンは少し驚いた顔をした。

まっすぐ、その質問をされたのが意外だったみたいに。

長い沈黙。

やがて。

「してる」

小さい声。

でも本音だった。

「もっとやれた」

「もっと上に行けた」

「……そう思ってる」

レイが目を閉じる。

空気が重い。

でも。

誰も目を逸らさなかった。

そのとき。

ソラが小さく手を挙げた。

「あ、あの!!」

全員が見る。

「じゃあ今って、その……」

「シオン先輩、バンドやってないんですか?」

シオンは首を横に振る。

「やってない」

「ギターも、最近あんまり触ってない」

音楽室が静かになる。

カノンがぽつりと言った。

「もったいないです……」

シオンの目が少し動く。

「だって」

カノンは真剣だった。

「シオン先輩の音、すごく綺麗なのに」

シオンが少し目を細める。

「聞いたことあるの?」 「動画で……!」

カノンは興奮気味になる。

「静かなのに、芯があって……!」

「感情を押しつける感じじゃないのに、ちゃんと残る音で……!」

ユウの視線が少し動いた。

(……似てる)

それは少し、自分の理想に近かった。

シオンは少しだけユウを見る。

「……君」

「ギター、誰かに習った?」

突然の質問。

ユウは眉をひそめる。

「……別に」 「その弾き方」

シオンは静かに言う。

「独学にしては変」

ソラが小声でざわつく。

「変って言われた!?」 「褒めてるんじゃないですか!?」 「多分」 ミオも小声。

ユウは少し警戒していた。

シオンは続ける。

「普通、“綺麗に弾こう”とする」

「でも君、“消えないように弾いてる”」

空気が止まる。

ユウの指先が止まった。

それは。

誰にも言われたことがない部分だった。

「……なんで分かる」

シオンは少しだけ笑った。

本当に少しだけ。

「同じだったから」

静かな声。

「私も、そうやって弾いてた」

その瞬間。

ユウの胸が少しざわつく。

“似てる”。

初めてだった。

自分の音を、理解された気がした。

ミオがその空気を見て、突然ニヤッと笑った。

「じゃあさ」

嫌な予感。

レイが即座に顔をしかめる。

「お前その顔やめろ」 「シオン先輩!」

ミオは机に手をつく。

「私たちに、演奏教えてください!!」

静止。

完全な静止。

ソラが「うわぁ……」って顔をする。

カノンは目を輝かせた。

レイは深くため息をつく。

ユウは頭を抱えたくなった。

シオンは真顔。

「嫌」

即答。

「早っ!!」 ソラが叫ぶ。

ミオは食い下がる。

「えぇぇ!? なんで!?」 「面倒」

「レイと同じこと言ってる!!」

レイが顔をしかめる。

「一緒にするな」

でも。

ミオは諦めなかった。

「お願いします!!」

「私たち、本気でFestival出たいんです!」

「まだ下手なのも分かってる!」

「でも!」

ミオの声が、少しずつ熱を帯びる。

「もっと上手くなりたい」

「もっと、ちゃんと届く音を鳴らしたい」

音楽室が静かになる。

シオンはその目を見る。

まっすぐな目。

諦める気のない目。

長い沈黙。

やがて。

シオンは小さく息を吐いた。

「……一回だけ」

ソラが飛び上がる。

「うわぁぁぁ!!」 「ただし」

シオンの目が鋭くなる。

「本気じゃなかったら、すぐ帰る」

空気が張り詰める。

ミオは一瞬だけ息を呑んで。

そして。

笑った。

「望むところです!!」

夕焼けが音楽室を赤く染める。

アンプのランプが光る。

ギターケース。 譜面。 汗の匂い。

Shine Starsは今。

また少しだけ。

新しい音へ近づこうとしていた。

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