第14話 「一音目の壁」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
翌日の音楽室。空気は、いつもより静かだった。というより――張り詰めていた。
本文
翌日の音楽室。
空気は、いつもより静かだった。
というより――張り詰めていた。
黒板にはチョークで短く書かれている。
『シオン:特別レッスン(仮)』
「仮ってなんですか仮って」 ソラが早速ツッコむ。
「気分」 黒崎レイは即答。
「雑ぅぅぅ!!」
朝比奈ミオは机の上に正座していた。
「よし、やるぞ……やるぞ……」
「なにその修行」 ユウが呟く。
白雪カノンはなぜかノートを握りしめている。
「ろっく修行……」
「言い方よ」 レイが即ツッコミ。
ガラッ。
扉が開く。
三条シオンが入ってくる。
いつも通り無表情。
「準備は」
「できてます!!」 ミオだけフルテンション。
「じゃあ始める」
一切の無駄がない。
シオンはギターを持つ。
アンプに繋ぐ。
一音。
ジャァン。
それだけで空気が変わった。
ソラが思わず息を呑む。
「え……なに今の音」
軽く弾いただけなのに。
音が“立っている”。
ユウの指が少し動く。
(……違う)
自分たちの音と。
明確に違う。
シオンは淡々と言う。
「まず」
「音、軽い」
レイが眉をひそめる。
「軽い?」
「支えがない」
シオンはユウを見る。
「特にギター」
ユウは一瞬だけ目を細める。
「……」
「“弾いてる”じゃなくて、“鳴らしてるだけ”」
その言葉は刺さる。
ミオが慌てて口を開く。
「でもユウちゃんのギター、カッコいいよ!?」
「カッコいいと上手いは別」
即答。
ソラが「うわぁ……」と顔をしかめる。
カノンは緊張で固まっている。
シオンは続ける。
「次」
「ボーカル」
ミオがピンと背筋を伸ばす。
「はい!!」
「声、前に出すぎ」
「え」
「音を押してる」
ミオの顔が固まる。
「押してる……?」
「曲が受け止めてない」
静かな指摘。
空気が少し重くなる。
レイが低く言う。
「じゃあどうすればいい」
シオンは即答。
「聴く」
「全員で」
その言葉に、全員が黙る。
ソラが小さく呟く。
「聴くって……聞いてるんですけど……」
シオンは首を振る。
「違う」
ギターを軽く鳴らす。
ジャァン。
「今の、誰の音が一番目立った?」
沈黙。
誰も答えられない。
シオンは言う。
「“合わせる”前に、“聴く”」
「今は全員、前に出てる」
「ぶつかってるだけ」
ユウは静かにその言葉を受け取る。
(ぶつかってるだけ)
たしかに。
今の自分たちの音はそうかもしれない。
ミオが少しだけ拳を握る。
「じゃあ……どうすればいいの?」
シオンはギターを構える。
「一回、全員止める」
「え?」
「音を出すな」
空気が止まる。
「今から」
「私の一音だけ聴け」
シオンはゆっくり弾く。
ジャァン……
静か。
でも深い。
揺れていないのに、広がっていく。
音が消えない。
「これを」
「壊さないで重ねる」
カノンが息を呑む。
ソラが小さく呟く。
「え、むず……」
レイが目を細める。
ユウはギターを見たまま動かない。
ミオが一歩前に出る。
「やってみる」
シオンが頷く。
ユウが入る。
ジャ……
一音。
ミオが歌おうとする。
でも、少し止まる。
(今は違う)
“押す”じゃない。
“乗る”。
ミオはそっと歌う。
「……♪」
小さく。
いつもの勢いじゃない。
音の上に置くように。
ソラもドラムを入れる。
タ……タン……
カノンもピアノを置く。
ポン……
レイはベースで支える。
ドン……
音が、変わった。
ぶつからない。
重なっていく。
ユウは気づく。
(聴いてる)
今までと違う。
隣の音が、ちゃんと聞こえる。
シオンは少しだけ目を細める。
「……今の」
「さっきよりいい」
ミオが息を吐く。
「やば……これ、楽しいかも」
ソラが笑う。
「なんか、怖くないです!」
カノンも頷く。
「音が……綺麗に並んでます……」
レイは小さく言う。
「やっとスタート地点だな」
ユウはギターを見つめる。
(スタート地点)
今まで、ここまで来たつもりだった。
でも違う。
まだだった。
シオンが静かに言う。
「その感じを忘れるな」
「忘れたら戻る」
短い言葉。
でも確かな重み。
ガラッ。
シオンは帰ろうとする。
ミオが叫ぶ。
「ありがとうございました!!」
シオンは振り返らずに言う。
「次は」
「Festivalレベルでやる」
扉が閉まる。
静寂。
ソラがぽつりと言う。
「……めっちゃ怖い人だったけど」
「でも」
少し笑う。
「ちょっとだけ、わかった気がします」
ミオも笑う。
「うん」
ユウはギターを握り直す。
(聴く)
ただ弾くんじゃない。
ただ歌うんじゃない。
窓の外。
夕焼け。
音楽室に差し込む光。
Shine Starsはまた一歩。
“バラバラ”から、“重なり方”へ進み始めていた。