第14話 「一音目の壁」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/11 📚 シリーズ: 『Shine Stars』 ✅ 全年齢

あらすじ

翌日の音楽室。空気は、いつもより静かだった。というより――張り詰めていた。

本文

翌日の音楽室。

空気は、いつもより静かだった。

というより――張り詰めていた。

黒板にはチョークで短く書かれている。

『シオン:特別レッスン(仮)』

「仮ってなんですか仮って」 ソラが早速ツッコむ。

「気分」 黒崎レイは即答。

「雑ぅぅぅ!!」

朝比奈ミオは机の上に正座していた。

「よし、やるぞ……やるぞ……」

「なにその修行」 ユウが呟く。

白雪カノンはなぜかノートを握りしめている。

「ろっく修行……」

「言い方よ」 レイが即ツッコミ。

ガラッ。

扉が開く。

三条シオンが入ってくる。

いつも通り無表情。

「準備は」

「できてます!!」 ミオだけフルテンション。

「じゃあ始める」

一切の無駄がない。

シオンはギターを持つ。

アンプに繋ぐ。

一音。

ジャァン。

それだけで空気が変わった。

ソラが思わず息を呑む。

「え……なに今の音」

軽く弾いただけなのに。

音が“立っている”。

ユウの指が少し動く。

(……違う)

自分たちの音と。

明確に違う。

シオンは淡々と言う。

「まず」

「音、軽い」

レイが眉をひそめる。

「軽い?」

「支えがない」

シオンはユウを見る。

「特にギター」

ユウは一瞬だけ目を細める。

「……」

「“弾いてる”じゃなくて、“鳴らしてるだけ”」

その言葉は刺さる。

ミオが慌てて口を開く。

「でもユウちゃんのギター、カッコいいよ!?」

「カッコいいと上手いは別」

即答。

ソラが「うわぁ……」と顔をしかめる。

カノンは緊張で固まっている。

シオンは続ける。

「次」

「ボーカル」

ミオがピンと背筋を伸ばす。

「はい!!」

「声、前に出すぎ」

「え」

「音を押してる」

ミオの顔が固まる。

「押してる……?」

「曲が受け止めてない」

静かな指摘。

空気が少し重くなる。

レイが低く言う。

「じゃあどうすればいい」

シオンは即答。

「聴く」

「全員で」

その言葉に、全員が黙る。

ソラが小さく呟く。

「聴くって……聞いてるんですけど……」

シオンは首を振る。

「違う」

ギターを軽く鳴らす。

ジャァン。

「今の、誰の音が一番目立った?」

沈黙。

誰も答えられない。

シオンは言う。

「“合わせる”前に、“聴く”」

「今は全員、前に出てる」

「ぶつかってるだけ」

ユウは静かにその言葉を受け取る。

(ぶつかってるだけ)

たしかに。

今の自分たちの音はそうかもしれない。

ミオが少しだけ拳を握る。

「じゃあ……どうすればいいの?」

シオンはギターを構える。

「一回、全員止める」

「え?」

「音を出すな」

空気が止まる。

「今から」

「私の一音だけ聴け」

シオンはゆっくり弾く。

ジャァン……

静か。

でも深い。

揺れていないのに、広がっていく。

音が消えない。

「これを」

「壊さないで重ねる」

カノンが息を呑む。

ソラが小さく呟く。

「え、むず……」

レイが目を細める。

ユウはギターを見たまま動かない。

ミオが一歩前に出る。

「やってみる」

シオンが頷く。

ユウが入る。

ジャ……

一音。

ミオが歌おうとする。

でも、少し止まる。

(今は違う)

“押す”じゃない。

“乗る”。

ミオはそっと歌う。

「……♪」

小さく。

いつもの勢いじゃない。

音の上に置くように。

ソラもドラムを入れる。

タ……タン……

カノンもピアノを置く。

ポン……

レイはベースで支える。

ドン……

音が、変わった。

ぶつからない。

重なっていく。

ユウは気づく。

(聴いてる)

今までと違う。

隣の音が、ちゃんと聞こえる。

シオンは少しだけ目を細める。

「……今の」

「さっきよりいい」

ミオが息を吐く。

「やば……これ、楽しいかも」

ソラが笑う。

「なんか、怖くないです!」

カノンも頷く。

「音が……綺麗に並んでます……」

レイは小さく言う。

「やっとスタート地点だな」

ユウはギターを見つめる。

(スタート地点)

今まで、ここまで来たつもりだった。

でも違う。

まだだった。

シオンが静かに言う。

「その感じを忘れるな」

「忘れたら戻る」

短い言葉。

でも確かな重み。

ガラッ。

シオンは帰ろうとする。

ミオが叫ぶ。

「ありがとうございました!!」

シオンは振り返らずに言う。

「次は」

「Festivalレベルでやる」

扉が閉まる。

静寂。

ソラがぽつりと言う。

「……めっちゃ怖い人だったけど」

「でも」

少し笑う。

「ちょっとだけ、わかった気がします」

ミオも笑う。

「うん」

ユウはギターを握り直す。

(聴く)

ただ弾くんじゃない。

ただ歌うんじゃない。

窓の外。

夕焼け。

音楽室に差し込む光。

Shine Starsはまた一歩。

“バラバラ”から、“重なり方”へ進み始めていた。

ジャンル・タグ

,

作品統計

👁️ 閲覧数: 1 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について