第13章 海と線
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
突如発表された「首都機能の出雲移転」。 日本中が混乱する中、それは遠いニュースのはずだった——地方の小さな町に暮らす遥にとっては。 しかし、カフェで働く日常の中に、少しずつ“変化”が入り込む。 移転関係者が現れ、人が動き出し、町の空気が変わっていく。 「選べる」という言葉に揺さぶられながらも、遥はまだ決断できずにいた。 やがて、周囲の人々が次々と出雲へ向かい、ついには店の店主・真琴までもが何も告げず去る。 残された遥は、初めて自分の意思で「行く」ことを選ぶ。 出雲で待っていたのは、“何もない場所”と、過酷な現実。 未完成の国家プロジェクトの最前線で、遥は肉体を削りながら現場に立つことになる。 そこで出会ったのは、過去の災害によってすべてを失い、「形に残すこと」に執着する現場責任者・真白。 彼女の背中に導かれるように、遥は“作る側”へと変わっていく。 しかしある日、現場事故が発生。 真白は他人を救い、その代わりに命を落とす。 悲劇の直後、それでも現場は止まらない。 「止めればすべてが止まる」という現実の中で、遥は問いを突きつけられる——逃げるのか、続けるのか。 そして遥は、再び立ち上がる。 真白の意志を引き継ぎ、自らが現場を回す側へと変わっていく。 一方その頃、東京でも静かに人材流出が進み、国家の重心そのものが移り始めていた。 これは、国家の転換点の物語であると同時に、 「選ばなかった人生」から「自分で選ぶ人生」へと踏み出す、一人の人間の物語である。
本文
※本作はAI生成を含みます。
工事現場の外。遥は、しばらく動かなかった。
やがて現場の看板に近づき、その隅に貼られた一枚の紙を見つける。「整備エリア概況」——簡素なタイトル。内容は思いのほか具体的だった。地図。線。数字。見慣れない記号が並んでいる。
「……なんだ、これ」呟きながら、目で追う。
日本列島の形。それを取り囲む海。何本もの線が引かれていた。航路だ、と気づくのに少し時間がかかった。太平洋側と、日本海側。両方から。
エネルギー輸送のルート。そう書いてある。
遥はしばらく考える。出雲が選ばれた理由——ニュースではさらりと流れていた言葉。「地政学的優位性」「リスク分散」。意味は分かったつもりでいた。この地図を見て初めて、それが具体的な形を持った。
太平洋側に何かあれば、日本海側から補う。港。電力。輸送。すべてが、この場所を通る可能性がある。
「……でかい話だな」
独り言が出る。自分がここにいる理由とは、まるでスケールが違う。自分はただ——見に来ただけだった。真琴が先に行っていたから。選択肢が見えたから。それだけだった。
この看板の地図を見ると、その〝ただ来ただけ〟が、ものすごく大きな流れの末端に繋がっている気がした。流れに乗っているつもりはなかった。乗せられていた、とも言える。どちらでもいい、と遥は思う。結果として、ここにいる。
近くで重機が動く。音が響く。作業員が声を掛け合う。誰も、この地図のことを考えながら動いているわけではないだろう。ただ、目の前の仕事をこなしている。
そうか——遥は思う。でかい話は、でかいままここにある。それを動かすのは、一人一人の手と足だ。
遥は看板から離れる。また、現場の外縁を歩く。フェンスの向こう——まだ入れない。まだ、自分には関係ない側だ。
さっきよりは少し違う。何も知らずに来た時とは、もう違っている。この場所が選ばれた理由がある。その理由の上に、今の自分が立っている。
「……どこから入るかな」
独り言のつもりで言って、そうじゃないと気づいた。問いかけは、もう外ではなく、自分の中に向いていた。