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無職(一)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/1 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 3,868文字 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

渋谷のスクランブル交差点。夕暮れのネオンが濡れたアスファルトに滲み、人の波が絶え間なく流れていく。

佐藤 純 は、その雑踏の真ん中でしゃがみ込んでいた。

解けた靴紐を結び直すため。

「……ったく」

安物のスニーカーを軽く叩き、純は立ち上がる。

その瞬間だった。

世界から、音が消えた。

信号機の電子音。 車のエンジン音。 若者たちの笑い声。

全部、遠くへ押し流されたみたいに消えていく。

純はゆっくり顔を上げた。

視界の先に、一人の女がいた。

――綺麗だ。

まず最初にそう思った。

だが次の瞬間、純の脳は凍りつく。

現代で付き合っている彼女と、生き写しだった。

いや、似ているなんてものじゃない。 目元も、 天然パーマの髪の流れも、少し 口角の上がった唇の形まで同じ。

まるで同じ存在を別の世界から引っ張り出してきたみたいだった。

純の思考が停止する。

そして。

――ッパァァァン!!

乾いた衝撃音が炸裂した。

「この不審者っ!」

視界が火花を散らす。 脳が揺れる。

純は何が起きたのか理解する前に、そのまま意識を失った。

---

次に目を覚ましたとき、純は見知らぬ天井を見上げていた。

木造の部屋。

柔らかな木漏れ日が窓から差し込み、鼻をくすぐるのは草と木の匂い。 どこか懐かしいような、静かな空気だった。

「……あ」

起き上がろうとした瞬間、全身に激痛が走る。

「まだ動いちゃダメですっ!」

慌てた声が飛んできた。

振り向くと、そこには自分を殴ったあの美女がいた。

だが、今度は別の意味で純は固まる。

頭に猫耳があった。

しかもぴくぴく動いている。

さらにスカートの裾からは、落ち着きなく揺れる尻尾まで伸びていた。

「……コスプレ?」

「こす……?」

女はきょとんと首を傾げる。

その後ろから、同じく猫耳と尻尾を持った男女が深々と頭を下げてきた。

「本当に申し訳ありませんでした」

「娘に悪気はなかったんです」

「人間族の方がここまで脆いとは思わず……」

「……は?」

話を聞く限り、ここは異世界だった。

彼らは獣族。 身体能力が異常に高く、人間を軽く叩いただけでも大事故になるらしい。

純は、完全に交通事故の被害者だった。

しかも全治数週間。

「いや、平手打ちで!?」

「ほ、本当にごめんなさい……!」

美女は半泣きで頭を下げた。

そんなわけで、行く当てもない純は、そのまま彼女たちの家で世話になることになった。

---

彼女の家は、小さな商店を営んでいた。

だが、経営状況はかなり厳しい。

商品は売れ残り、客足は少ない。 店内にはどこか沈んだ空気が漂っている。

「このままだと、店を畳まないといけなくて……」

彼女の父親が力なく笑った。

純は棚の商品を眺めながら首を傾げる。

品質は悪くない。 むしろ普通に良い。

なのに売れていない。

理由は単純だった。

売り方が下手すぎる。

「……あー、なんかもったいねぇな」純は暇だった。

異世界に来たとはいえ、急に英雄になれるわけでもない。 魔王を倒す気もない。

なので、暇つぶし感覚で口を出した。

動画サイトやネット掲示板で見た知識を、そのまま貸しただけだった。

最初にやったのは三つ。

・ポイントカードと特売日を組み合わせた集客

・訳あり商品をあえて売るリサイクル商法

・看板娘である彼女の『ファンクラブ』構築と限定グッズ販売

最初、獣族たちは全員怪訝な顔をした。

「買えば買うほど得になる?」

「傷物を安く売る?」

「なぜ娘の絵を木札にして売るんだ?」

当然の反応だった。だが、結果は凄まじかった。

まずポイントカード。

一度来た客が何度も店へ通うようになった。

特売日には朝から行列ができる。

訳あり商品は予想以上に人気だった。

今まで廃棄していた商品が次々売れていく。

さらに彼女の限定グッズ。

これが異常だった。

「看板娘さんの新作札、もう売り切れたのか!?」

「次の入荷はいつだ!?」

若い獣族たちが毎日のように押し寄せる。

しかも彼らはグッズだけ買って帰らない。 普通の商品まで大量購入していく。

店は、一気に黒字化した。

近隣商人たちは騒然となった。

「最近あの店だけ客が多すぎないか?」

「何か怪しい魔法でも使ってるのか?」

「いや『ふぁんくらぶ』という新興宗教らしい」

勝手に噂まで広がり始める。

だが純は、帳簿を見ながら首を傾げていた。

「いや、これまだ伸びるだろ」

「え?」

「もっと客を中毒にできる」

その言葉に、商店一家は凍りついた。

---

そこから純は、さらに追加施策を始めた。

・雨の日限定の割引による客足操作

・人気商品を少量だけ並べる“完売演出”

・店員ごとの固定ファン化による『推し文化』の形成

これが決定打だった。

雨の日。 普通なら客が減る。

だが純は逆に割引を始めた。

結果、他店が閑散としている日にだけ、店へ人が集中する。

次に完売演出。

人気商品をあえて少量しか並べない。

すると客は焦り始めた。

『急がないと売り切れる!』

朝から行列ができる。

その行列を見た人間がさらに並ぶ。

そして最後の『推し文化』

店員ごとに固定客をつける。

『今日は誰から買うか』

それ自体が娯楽になった。

若い客たちはお気に入りの店員に会うためだけに遠方から通い始め、ついには他国から商人が視察に来るまでになった。

気づけば、周辺一帯の経済が動いていた。

宿屋が儲かる。 馬車業者が儲かる。 食堂が儲かる。

小さな商店一つが、街そのものを変えてしまった。

そして。

潰れかけていたその店は、国一番の商会になっていた。

王都の大通りに本店を構え、貴族たちが取引を求めて列を作る。

王族から叙爵の話まで来た。

だが純だけは、豪華な執務室で困惑していた。

「……ネットの受け売りって怖ぇな」

---

商会が巨大化したあとも、純の感覚はあまり変わらなかった。

本人の認識は、ずっと『無職』のままだった。

仕事らしい仕事をしている感覚がない。

なので暇になると、趣味に走った。

魔法である。

「これ、便利そうだな」

そんな軽い理由で始めただけだった。

-火を出す。 水を出す。 物を浮かせる。

最初はその程度。

だが純は異常だった。

現代知識と発想力で、既存の魔法理論を片っ端から組み替えていく。

本人は遊び感覚。

しかし周囲から見れば化け物だった。

「無詠唱だと……?」

「山を浮かせた!?」

「なんで空間圧縮なんて理論を思いつく!?」

純が-----重いカバン持ちたくない という理由で作った魔法は、後に神話級魔導具として扱われることになる。

---

十五年の間に、純は二度、大規模な放浪に出た。

一つ目は、天空の浮遊島観光。

伝説の魔龍が住む禁域。普通なら近づくだけで死ぬ。

だが純は。

「暇だし」

その一言で行った。

超高密度の魔法障壁を張り、嵐を突破。 龍と遭遇すると、なぜか世間話を始めた。

結果、普通に仲良くなった。

帰る頃には、一生枯れない花を土産にもらっていた。

二つ目は、最果ての温泉探し。

「異世界なら秘湯とかあるだろ」そんな理由だった。

純は地図にない山脈を魔法で切り開き、ついには世界最高級の霊泉を発見する。

しかも、帰り道が危険で面倒だったので。

「道あった方が便利か」

という理由だけで街道整備までしてしまった。

その結果、新たな貿易ルートが誕生。

国家経済が激変した。

歴史書には『西方大交易路の開通』と記されることになる。

だが純本人は。

「いい湯だったな」くらいにしか思っていなかった。

---

そして十五年後。

ある日の帰り道。

純は道端に、奇妙な金貨が落ちているのを見つけた。

見たことのない紋章。

「なんだこれ」

軽い気持ちで身をかがめる。

指先が金貨に触れた瞬間。

世界が反転した。

五感が激しく揺れる。

「――あ」

次の瞬間。

純は夕暮れの渋谷に立っていた。

排気ガスの匂い。 コンビニの揚げ物の匂い。 誰かの香水。

人々の喧騒。見慣れたネオン。

十五年前。 いや、体感ではついさっき失った世界。

そのど真ん中に、純は立っていた。

そして目の前には。

待ち合わせをしていた現代の彼女がいた。

少しだけ口を尖らせている。

「遅いじゃない。待ってたわよ?」

彼女はスマホを閉じ、ふっと笑う。

「でも、たった十秒の遅刻。今日は特別に許してあげる」

純は言葉を失った。

自分にとっては十五年。

国家予算を動かし。 神話の龍と酒を飲み。 世界地図を書き換え。

人生そのものが変わった十五年間。

なのに、この世界では。

靴紐を結び直しただけの十秒。

肉体も、あの頃のままだった。

「……悪い」

純は小さく笑う。

「ちょっと長い散歩してた気分でさ」

「なにそれ」

彼女は呆れたように笑い、そのまま自然に腕を組んできた。

純も歩き出す。

だが肩にかけたリュックの中には、一国の国家予算を軽く超える財宝と、神話級魔導具が詰め込まれた『無限の魔法ボックス』が入っていた。

「純くん」

彼女が不思議そうに顔を覗き込む。

「なんか急に……頼もしくなった?」

「そうかな」

純は苦笑した。

「中身はただのプー太郎なんだけどな」

そっと左手を見る。

意識を集中すれば、指先一つで渋谷くらい一瞬で吹き飛ばせる。

けれど純は、それを。

「キャンプの火起こしに便利そう」程度にしか思っていなかった。

世界を揺るがす力。

使い切れないほどの富。

それを隠し持ったまま。

気持ちだけは相変わらず、気楽な無職のまま。

最強のプー太郎、佐藤 純 の『普通を装った日常』が、夕暮れの渋谷で静かに幕を開ける。

さて。

真面目に就職活動をするべきか。

それとも、リュックの中の金貨を一枚だけ換金して、彼女と一生遊んで暮らすべきか。

純は笑った。

その指先では、淡い魔法の光が静かに瞬いていた。

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ここまではよくある テンプレの話なんですが、

この話は 2話目が面白い。

無職(二) | 小説投稿サイト「あいぺん」

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JJ

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