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第十三話 白兎の執務室

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/28 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 4,238文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 十四歳の少女アリスは、姉の結婚式の日、白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む。 そこにいたのは、白兎の姿を持つ美青年ノア。 優しく甘くアリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。 「君はこの国を選んだんだ」 失われた八年前の記憶。 薔薇の鍵。 ハートの女王。 そして、白兎の隠した小さな昨日。 守られているのか、閉じ込められているのか。 アリスは信じたい気持ちと疑う心を抱えながら、自分自身の物語を取り戻していく。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第十三話 白兎の執務室

 ハートの女王の城は、遠くから見た時よりもずっと大きかった。

 黒い石壁は朝の光を受けてもなお暗く、血のように赤い屋根が幾重にも重なって空へ伸びている。尖塔は細く鋭く、まるで空を刺す針のようだった。金の縁取りが施された窓は美しく輝いているのに、どこか見張りの目のようにも見える。

 壁を這う赤薔薇の蔦は、遠目には花飾りのように見えた。けれど近づくと、その棘は思っていたよりも鋭く、黒い石壁に爪を立てるように絡みついている。

 美しい。

 けれど、ただ美しいだけではなかった。

 アリスの屋敷にも、豪華な調度品や広い客間はあった。祖父の代から受け継いだ絵画も、銀の燭台も、大理石の階段もあった。

 でも、この城は違う。

 ここにある豪華さは、人を迎えるためのものではない。

 ひれ伏させるためのものだ。

 門をくぐると、赤い絨毯が血の川のように長く伸びていた。黒い柱は真っ直ぐで、冷たく、少しも揺らがない。壁に飾られた薔薇の絵は美しいのに、どれも花びらの端が刃物のように鋭く描かれていた。

 アリスは思わず、ノアの手を握る力を強めた。

 ノアはそれに気づいたのか、少しだけこちらを見る。

「大丈夫?」

「……はい」

 返事をしながらも、声は小さくなった。

 ノアはいつもの甘い笑顔を浮かべている。

 けれど城へ入った瞬間から、彼の雰囲気は少し変わっていた。

 柔らかい。

 穏やか。

 でも、隙がない。

 白い制服の胸元には、蔦と薔薇の金刺繍が光っている。城の者たちはノアを見ると、軽く頭を下げた。中には、わずかに緊張した顔になる者もいた。

 アリスはそれを見逃さなかった。

 ノアは、ただの白兎ではない。

 この城の中で、確かな立場を持っている。

 それも、軽く扱われるような立場ではない。

「ノア」

「うん?」

「いつも、どんな仕事をしてるんですか?」

 ノアは少しだけ目を細めた。

「女王陛下のお手伝い」

「……お手伝い」

「言い方を変えるなら、側近かな」

 側近。

 アリスは息を呑んだ。

 ハートの女王の側近。

 その言葉は、想像していたよりずっと重かった。

「そんな大事なこと、今まで何も言ってくれなかったんですか!」

「隠していたつもりはないよ」

「でも、言ってもくれませんでした」

「そうだね」

 ノアは悪びれずに微笑んだ。

「でも、今教えたね」

 ふわりとかわされてしまう。

 いつものことだ。

 けれど今日は、その軽さが胸に引っかかる。

 長い廊下を抜け、いくつかの扉を通り、やがて城の本館から少し離れた別棟に着いた。

 そこは城の華やかさとは少し違っていた。

 黒い石造りの外壁は同じなのに、赤い装飾は少なく、静かで落ち着いている。窓の外には小さな中庭があり、そこには赤い薔薇ではなく白い薔薇が咲いていた。

「ここが、僕の執務室」

 ノアが扉を開ける。

 中は思っていたより広かった。

 大きな書斎机。壁一面の書棚。書類棚。背の高い窓。深い緑のカーテン。隅には柔らかそうなソファーと、小さな暖炉がある。

 整っている。

 けれど、生活の気配は薄かった。

 ノアの家にあるような、にんじん柄のエプロンや、兎の足の食卓や、ミルキーブルーの床のような愛嬌はない。

 ここにあるのは、仕事のための静けさだった。

 ノアは机の横に、小さなテーブルを置いた。

「ルーシーには、ここで資料整理をお願いしようかな」

「資料整理?」

「うん。こっちの書類を日付順に並べて、赤い紐で束ねて。青い印がついているものは別にしておいて」

 ノアは書類の山をいくつか置いた。

 アリスはそれを見下ろす。

 文字は読める。

 ただし、内容は難しそうだった。

 城の物資。

 街道の管理。

 扉の報告書。

 夢鳥の飛行記録。

 庭園の薔薇の色の変更申請。

 薔薇の色まで申請がいるのか。

 ワンダラーは自由なようで、妙なところで細かい。

「分かりました」

「無理はしないで。疲れたら休んでいいからね」

「はい」

 ノアはアリスの頭を撫でようとした。

 けれど、途中で一瞬だけ手を止めた。

 アリスはその小さなためらいに気づいた。

 昨夜のことを、ノアも覚えているのだろうか。

 許可なく額に口づけたことを。

 アリスが怯えたことを。

 けれどノアはすぐに、いつものように笑った。

「じゃあ、少し外出してくる」

「え?」

 アリスは顔を上げた。

「外出ですか?」

「うん。夕方には戻るよ」

「ここで待っていて」

 ノアの声は柔らかかった。

 けれど、有無を言わせない響きがあった。

「ここなら安全だから」

 安全。

 その言葉が、また胸に引っかかる。

 ノアは扉の方へ向かう。

「あの、ノア」

「なに?」

「どこへ行くんですか?」

「少し、女王陛下のところへ」

 ノアは振り返り、砂糖菓子みたいに甘く微笑んだ。

「いい子にしていてね、ルーシー」

 そう言って、部屋を出ていった。

 扉が閉まる。

 足音が遠ざかる。

 執務室は、急に広くなったように感じられた。

 アリスはしばらく扉を見つめていた。

 いい子にしていてね。

 ノアはよくそう言う。

 以前はそれを、ただの子ども扱いだと思っていた。少しむっとして、少し安心した。

 でも今は違う。

 その言葉が、鍵の音みたいに聞こえる。

 いい子にしている限り、安全。

 いい子でなければ?

 アリスは首を振った。

 考えすぎだ。

 仕事をしよう。

 そう思って、椅子に座る。

 書類を日付順に並べ、赤い紐で束ねる。青い印のものは横へ避ける。

 作業自体は単調だった。

 けれど集中できなかった。

 書類の文字を追っていても、目はすぐにノアの机へ向いてしまう。

 大きな書斎机。

 引き出し。

 鍵つきの小箱。

 壁際の戸棚。

 この部屋なら、何かあるかもしれない。

 ノアが隠していること。

 八年前のこと。

 アリスという名前の意味。

 帰る方法。

 アリスは椅子から立ち上がった。

 いけないことだ。

 分かっている。

 人の机を勝手に探るなんて、屋敷で教わった礼儀に反する。お姉様が見たら、きっと眉を下げて叱る。

 でも、知らないままではいられない。

 何も知らないまま、ただ守られているだけではいられない。

 アリスはそっとノアの机に近づいた。

 一番上の引き出しを開ける。

 中には羽ペン、封蝋、金のクリップ、整然と並べられたメモ用紙。特に怪しいものはない。

 二段目。

 報告書の控え。

 城の職員名簿。

 鍵束。

 だが、どれもノアの仕事に関するものばかりだった。

 三段目には小さな箱が入っていた。

 アリスの心臓が跳ねる。

 だが開けてみると、中には裁縫道具が入っていた。針、糸、ボタン、小さなにんじん形の刺繍飾り。

 こんなところにも、にんじん。

 緊張していたのに、少しだけ肩の力が抜けた。

 戸棚も調べた。

 資料。

 古い地図。

 ワンダラーの通行記録。

 扉の管理表。

 けれど、アリスが知りたいことは見つからなかった。

 八年前のアリス。

 薔薇の鍵。

 小瓶。

 そういった言葉は、どこにもない。

 まるで初めから、すべて片づけられているみたいだった。

 アリスは小さく息を吐く。

 やはり、ノアは簡単に見つかるような場所に大事なものを置いたりしない。

 次に、扉へ向かった。

 少し外へ出てみよう。

 廊下に誰かいれば、話を聞けるかもしれない。ノア以外の人から、帰る手掛かりを知れるかもしれない。

 アリスは扉の取っ手に手をかけた。

 回す。

 動かない。

「……え?」

 もう一度回す。

 ガチャ。

 ガチャガチャ。

 開かない。

 鍵がかかっている。

 アリスは一瞬、理解できなかった。

 ノアが出ていった時は確かに開いていた、けれど、扉は確かに閉じられている。

「嘘……」

 何度も確かめる。

 ガチャガチャ。

 ガチャ。

 やっぱり、開かない。

 胸の奥が冷たくなる。

 安全だから、ここで待っていて。

 ノアの声がよみがえる。

 安全。

 それは、外の危険からアリスを守るという意味だったのか。

 それとも、アリスが外へ出ないようにするという意味だったのか。

 アリスは扉に額をつけた。

 落ち着いて。

 考えなさい。

 ここは城から少し離れた別棟だ。先ほど来るまで、廊下で人にほとんど会わなかった。窓の外には中庭が見えるが、人の姿はない。職員らしき者もいない。

 つまり、叫んでも誰かが来るとは限らない。

 仮に来たとしても、ノアの執務室にいる見慣れない少女を、どう扱うだろう。

 ルーシー。

 家政婦。

 偽りの名前。

 偽りの姿。

 アリスはドアノブから手を離した。

 怖がってはいけない。

 泣いても開かない。

 騒いでも状況は良くならない。

 屋敷で、エドワードの気配を避けていた時もそうだった。焦るほど相手に隙を見せる。落ち着いて、周囲を見て、できることを探す。

 アリスは部屋を見渡した。

 窓。

 高い。

 中庭には出られそうだが、窓には細い金属の飾り格子がはまっている。すぐに外せそうにはない。

 暖炉。

 使われていない。煙突から逃げるには狭すぎる。

 書棚。

 隠し扉があるかもしれないと思って本を押してみたが、何も起こらなかった。本の一冊が「雑に触らないで」と小声で文句を言っただけだった。

 アリスは疲れて、ソファーに腰を下ろした。

 柔らかい。

 深い緑色のソファーは、座ると身体を包み込むように沈んだ。

 緊張が少し緩む。

 すると、自分が思っていた以上に疲れていることに気づいた。

 眠れなかった夜。

 ノアへの疑い。

 城への緊張。

 そして、鍵のかかった扉。

 胸の中でいろいろなものが絡まっている。

 アリスは横になった。

 窓から差し込む光が、天井に揺れている。

 ここは女王の城の一室で、ノアの執務室で、鍵のかかった部屋。

 安全な場所。

 閉じ込められた場所。

 その二つが重なって、どちらが本当か分からなかった。

 アリスは胸元の紋章に触れた。

 蔦と薔薇。

 ノアと同じ紋章。

 自分は今、彼の隣にいるのだろうか。

 それとも、彼の掌の中にいるのだろうか。

「……お姉様」

 小さく呟く。

 返事はない。

 お姉様なら、何と言うだろう。

 辛くなったらいつでも私のところへ来なさい。

 そう言ってくれた姉の声が、遠い。

 帰りたい。

 けれど、帰り方が分からない。

 信じたい。

 けれど、信じきれない。

 アリスは目を閉じた。

 眠るつもりはなかった。

 でも、身体は疲れていた。

 閉じられた部屋の中、遠くで時計の針が進む音だけが聞こえる。

 カチ。

 カチ。

 カチ。

 その音に包まれながら、アリスの意識は少しずつ沈んでいった。

 ソファーの上で丸くなった少女を、窓辺から差し込む白い光だけが静かに見守っていた。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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