5話 偽りの天才ピアニストの身代わりはもうやめます。~私を暗闇から救い出したのは、至高のサックス奏者の執着愛でした~
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
従姉妹イザベラの「影」として、地下の防音室でピアノを弾き続けるエレーナ。 才能を搾取され、幽霊のように生きる彼女を見つけ出したのは、冷酷な天才サックス奏者、ギルバートだった。 嘘にまみれた華やかなステージ。その裏で、ギルバートはエレーナの指と魂を執拗に暴いていく。 今夜、偽りのミューズが堕ち、地下の幽霊が真実の愛に鳴り響く――。
本文
翌朝、ギルバートは執務室に一人の男を呼んでいた。彼の顧問弁護士であり、裏の仕事も完璧にこなす冷徹な人物だ。
「昨日の録音データと、この調査書を。……イザベラの父親、つまりエレーナの叔父だな。彼が投資に失敗して膨らませた債務の全容を洗え」
「すでに着手しております。彼らは、エレーナ嬢の亡父が残した生命保険まで使い込んでいるようですな」
ギルバートは窓の外を見つめ、無愛想に煙草を燻らした。
「面白い。……彼らがエレーナという『金の卵を産む蛾』を使い、私からどれだけの投資を引き出そうとしているか。その強欲さを利用してやる」
ギルバートの計画は緻密だった。
彼はあえて、イザベラに対して「昨日の深夜のセッションは素晴らしかった。君を本格的にプロデュースしたい」と甘い罠を仕掛けた。
イザベラは、深夜にピアノを弾いたのが自分ではないことにも気づかず、喜び勇んで巨額の専属契約書にサインするだろう。
「契約の条項に、『ピアニストとしての技術が虚偽であった場合、全額の返済および損害賠償を即刻行う』という一文を、それと分からぬように混ぜ込んでおけ」
「承知いたしました。……エレーナ嬢については?」
ギルバートの表情が、一瞬だけ和らいだ。しかし、それはすぐに深い独占欲に裏打ちされた暗い笑みに変わる。
「彼女の負債は、私がすべて買い取る。……親族との縁を完全に切り、彼女が二度と日光の下で他人の影に隠れなくて済むように。……代わりに、一生私の鳥籠の中で歌い続けてもらうがね」
彼は机の上の写真を手に取った。そこには、リハーサル中に隠し撮りされた、影の中で一心不乱にピアノを弾くエレーナの姿があった。
「イザベラには、最高に華やかな舞台を用意してやろう。……彼女が、自分の犯した罪の重さを、その身に刻むための処刑台をな」
ギルバートは灰皿に煙草を押し付けると、電話を取った。
相手は、今まさに「幸せの絶頂」にいるであろうイザベラだ。
「ああ、イザベラ。……今夜の記念公演、楽しみにしているよ。……君が、世界で一番惨めで、美しい『音』を響かせる瞬間をね」
受話器を置いた彼の顔には、完璧な紳士の仮面が再び張り付いていた。
作品統計
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