平和を望むなら戦いに備えよ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔法文明と機械文明が両立する世界観になります。エーテルパンクというジャンルはあるそうですが、(資料が無かったので)不勉強なため、大いに作者の解釈で書いています。
本文
=3=
西部第七区間は森林地帯だ。十数年前まで居住地があった地点の転送牌が青白い光の柱に囲まれ、サイバとセレナが転送してきた。
「キュイ?」
「……厶?」
「あからさまに森の奥になにかいますね」
一行はまっすぐそちらを目指す。
木の枝の上のエーテルカケスが、一行を一瞥して一鳴きした後、どこかへ飛び去っていった。
少し歩くと、以前は小さな村でもあったのだろうと想像できる廃墟群に辿り着いた。事件現場の中心地はすぐにわかった。村の中心、教会と思わしき建物の廃墟。その周辺の地表から生える樹木の様子がおかしい。
周囲の木々が金属質に変異して、幹と枝を垂直に地表から天へ伸ばし、葉の代わりに青白いエーテル結晶が蠢いていた。
「ギャース!」
ドラコがクンクンと周囲の匂いを嗅ぐような仕草をした後、顔をしかめて一吠えした。
サイバの左目がスキャンモードに変色する。
「大気中エーテル濃度387……制限区域レベルだ」
「ケホ。さいあく……」
セレナは口元に手を当て、空気清浄の術式を展開する。
廃墟の教会跡に慎重に侵入。犯人はすぐに見つかった。ステンドグラスが月光で幻想的に煌めくその中央に——“それ”は吊るされていた。
ガラス細工のように透明な、逆さになった手足の無い女性、の像。が蜘蛛の腹に張り付いている。それから出鱈目に伸びる金属蔓。左右からメインの支脚にしているのであろう八本の脚が生え、いくつかの先端には蟹鋏を備えていた。
「……ワオ、ゲイジュツ的ィ」
セレナの呟きを遮るようにサイバが警告。
「気をつけろ、動くぞ」
マネキンの首が鈍く軋んでこちらを確認するように回転した。胸元で光る宝石が心臓のように脈動する。それが合図だった。
蜘蛛の脚が地面を割る!金属蔓が蛇のごとく襲いかかる!
細い蔓がドラコの胴に巻き付いたが、ドラコは口から青い炎を蔓の根本に吐きかけて焼き切り脱出。
「【焔蛇(エンダー)】!」
セレナの杖先から業火の龍が放たれる。熱波が逆さ花嫁を包み燃やし尽くし……
「効いて……無い!? あれは!」
黒焦げになったはずの花嫁が「再生」している。足元の朽ち木が新たに芽吹き、血色の根が絡みついて損傷部位を修復していた。
「植物……いや“木の性質”か」
サイバが分析する。
「切断しても切断部がすぐ発根してる。切るほど増殖するタイプだ」
「どうするのよー!?」
泣き声交じりのセレナの横でサイバが左手の白装甲を掲げた。
『回帰流動術式(レペア・ウェイブ)逆転起動——エーテル燃焼(エターナル・コンバース)』
装甲表面に回路のような紋様が奔り、蒼い炎が迸った。
「セレナ! 術式を内部に浸透させる! ほんの少しでいい、動けなくしろ!」
「了解っ!」
彼女は杖を槍投げのごとく放り投げた。焔蛇が炎の渦を形成し花嫁を拘束する。
「ヨシッ!」
サイバの刃が逆さ花嫁の腹部に突き刺さる。その瞬間——蒼炎が血管のように全身へ広がった。再生どころか損傷範囲が爆発的に拡大していく。
「何をしたの?」
「エーテルの流れを“逆行”させた。修復しようとすればするほど崩壊が感染する」
断末魔のような青い閃光が迸る。教会の硝子窓が弾け飛んだ。
逆さ花嫁は身に迫る滅びの苦痛を表現するように、太い触手を滅茶苦茶に振り回して暴れる。今まで巣にしていたのであろう元教会を、遂に破壊し尽くしてしまった。崩れ落ちる瓦礫がエーテル燃焼に苛まされる身体に突き刺さるが、"焼き尽くされる"ダメージには及ばないようだ。エーテル燃焼は炎ではない。瓦礫や周囲の木々に燃え移ることはない。サイバとセレナは、モンスターが大人しくなるまで距離を取って見守っていた。
灰燼となった空間に静寂が戻る。サイバが端末で報告。
「目標無力化。任務完遂。撤収許可求む」
《了解。こちらでも因果異常の縮小を確認した。帰還を許可する。ご安全に》
「やれやれ、今回もなんとかなったな」
「じゃ、帰りましょ」
「やっぱりあんたの顔を見るとろくなことが起きない」
「気の所為気の所為」
「キュイ! キュイ!」
なぜかドラコは頻りに鳴くが、二人は無視して歩いていく。遂にドラコは遠ざかる二人に追従するため急いで飛膜を羽ばたかせた。
一行は瓦礫の山になった廃墟を後にした。
―
"燃え尽きた"花嫁の残骸に近づく人影。残骸の中に何かを見つけ、手を伸ばす。広げた手のひらの中。ドールの頭のように見える球体。人影はそれを懐に入れると、何処かへ立ち去った。