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90式のいない夜

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/7 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 3,308文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

部屋の整理が一段落したころには、窓の外が少し暗くなり始めていた。

大湊の冬の夕方は早い。

海の方から薄い灰色が押し寄せてきて、基地の建物の輪郭を少しずつぼかしていく。窓ガラスの向こうでは、除雪された通路を隊員が数人歩いていた。遠くで車両のエンジン音が低く鳴り、すぐに止まる。

部屋の中には、ようやく三人分の場所ができていた。

シオナのベッド脇には、90式の簡易マニュアルと道路地図。

サヤの棚には、大洗のメモと小さな私物袋。

ミズホの机には、記録ノートと医療ポーチ、分類した薬と衛生用品。

床にはまだ少し荷物が残っていたが、少なくとも足の踏み場はあった。

それだけで、三人には十分な進歩だった。

サヤは自分のベッドに腰を下ろし、両手を後ろについて天井を見た。

「……静かだね」

シオナは窓のそばに立ったまま振り向いた。

「基地なのに?」

「基地だからもっと音がすると思ってた。でも、なんか変な静かさ」

ミズホは机の前で薬の箱を閉じながら言った。

「外の音はあるよ。人もいるし、車も動いてる」

「そうなんだけどさ」

サヤは言葉を探すように、少し黙った。

「90式の音がしない」

その一言で、部屋の空気が少し変わった。

シオナは窓から視線を外した。

ミズホも手を止めた。

90式は格納庫にいる。

整備隊員たちが見てくれている。

富士学校の車両で、砲弾も銃弾も積んでおらず、エンジン回りには消音装備があり、車体側は簡易診断では万全と言われた。今は一番安全な場所にいる。

それは分かっている。

分かっているのに、部屋の中には、何か一つ大きなものが足りなかった。

サヤは苦笑した。

「変だよね。戦車が近くにないと落ち着かないって」

ミズホは箱のふたを押さえながら、静かに答えた。

「変じゃないよ。ずっと一緒だったから」

シオナはベッド脇の簡易マニュアルを見た。

最初に見つけた時は、あの車体はただの大きな機械だった。

動くかどうかも分からない。自分に扱えるものなのかも分からない。ただ、そこにあって、そこから離れる方が怖かった。

渋谷を出た。

東京を抜けた。

アクアラインを渡った。

大洗へ行った。

土浦、宇都宮、福島、会津、山形、秋田、青森、下北。

ずっと、90式の中か、すぐ近くにいた。

「……あの子がいない夜って、初めてかもしれない」

シオナが言うと、サヤが少しだけ目を丸くした。

「ほんとだ」

「ホテルでも温泉でも、外にはいたから」

「駐車場とか、玄関前とか、道の駅とか」

ミズホが続けた。

「神町でも秋田でも、整備はしてもらったけど、完全に預けて離れたわけじゃなかったね」

シオナはうなずいた。

「今回は、ちゃんと預けた」

「ちゃんと休ませるためにね」

サヤが言った。

その言い方が、少しだけ優しかった。

夕食は、食堂で取ることになった。

三人は部屋を出て、案内された食堂へ向かった。廊下の途中で何人かの隊員とすれ違う。会議室で会った人もいれば、格納庫で90式を見ていた陸自隊員もいた。

若い陸自隊員がシオナたちに気づき、軽く会釈した。

「荷物、片付きましたか」

サヤがすぐに答える。

「第一部は終わりました」

「第一部?」

「洗濯編がまだです」

隊員は少し笑った。

「それは長編ですね」

ミズホが真顔で言う。

「かなりの長編です」

食堂は、朝より少し賑やかだった。

大湊の海自隊員、しもきたに同乗していた陸自隊員、むつ市側の連絡員らしい人たちが、それぞれの席で食事を取っていた。声は大きくない。けれど、完全な沈黙ではない。

温かい汁物の匂いがした。

三人は端の席に座り、配られた夕食を前に手を合わせた。

白米。汁物。魚。野菜の煮物。漬物。

特別なものではない。けれど、旅の途中なら、これだけで十分なごちそうだった。

サヤは一口食べて、目を細めた。

「毎回言ってる気がするけど、普通のごはんって強い」

ミズホがうなずく。

「強いね」

シオナは汁物をゆっくり飲んだ。

温かさが喉から胸に落ちていく。

走らなくていい夜。

どこかへ出発する準備をしなくていい夕食。

燃料残量や雪の具合や道路幅を考えなくていい時間。

それなのに、どこか落ち着かなかった。

食事を終えて部屋に戻ると、暖房が低く鳴っていた。

外はもう暗い。

窓の向こうには、基地の灯りがぽつぽつと見える。遠くに岸壁の照明があり、その向こうは黒い海だった。

サヤはベッドに腰を下ろして、ブーツを脱いだ。

「なんかさ」

「うん」

シオナが返事をする。

「こういう部屋で寝るの、久しぶりすぎて、逆に寝られるか不安」

ミズホは洗面道具を片付けながら言った。

「寝られるよ。疲れてるから」

「そうかな」

「たぶん寝る。文句言いながらすぐ寝る」

「ミズホ、最近私の扱い雑じゃない?」

「慣れた」

サヤは少し笑い、ベッドに横になった。

シオナは自分のベッド脇に簡易マニュアルを置き直した。

それから、地図を一枚だけ取り出す。

東京から大湊まで。

会議室で引かれた線ほど正確ではない。旅の途中で何度も折りたたみ、端が擦れた地図だった。

サヤが横になったまま言った。

「また地図見てる」

「うん」

「明日どこ行くか決めなくていいんだよ」

「分かってる」

「本当に?」

「……たぶん」

ミズホが机の前から振り返った。

「明日は、まず基地内の案内を受ける予定だよ。90式の整備状況も聞けるはず」

「それは見たい」

シオナがすぐに言う。

サヤは枕に顔を埋めたまま笑った。

「ほら、やっぱり90式のこと考えてる」

「それは考えるよ」

「シオナの相棒だもんね」

シオナは少し黙った。

相棒。

そう呼んでいいのか分からなかった。

90式は車両で、機械で、戦車だった。けれど、ただの機械なら、ここまで来られなかった気もする。

ミズホが記録ノートを閉じた。

「今日の記録、書いておくね」

「まだ書くの?」

サヤが顔を上げる。

「今日も大事だから。会議のこと、荷物を下ろしたこと、90式を整備に預けたこと、部屋に荷物を入れたこと」

「部屋に荷物を入れたことまで記録するの?」

「するよ」

「なんで?」

ミズホはペンを持ったまま少し考えた。

「今日、初めて移動しない前提で荷物を置いたから」

その言葉に、サヤは黙った。

シオナも地図から目を離した。

移動しない前提。

それは、たしかに今日の一番大きな変化だった。

これまでは、どこで寝ても、翌朝には荷物をまとめた。

いつでも出られるようにした。

長靴はすぐ履ける場所。地図は手元。食料は取り出しやすい場所。医療品はミズホの近く。燃料と天気と道路状況を気にする。

でも今、服はロッカーに入っている。

医療品は机に並んでいる。

寝具はベッドに敷かれている。

水は部屋の隅に置いた。

地図は、明日の出発のためではなく、これまでを確かめるために広げている。

サヤは天井を見ながら言った。

「じゃあ、記録しておいて」

ミズホはうなずいた。

「うん」

ペンが紙を走る音が、部屋の中に小さく響いた。

シオナはその音を聞きながら、窓の外を見た。

格納庫はこの部屋からは見えない。

けれど、あのどこかに90式がいる。荷物を下ろされ、内部まで見られ、砲塔や旋回装置も確認される。三人を運ぶためではなく、車両として点検されている。

それが少し寂しく、同時に少し安心だった。

サヤはもう眠そうだった。

「ミズホ、電気消す前に言って」

「まだ書いてる」

「じゃあ先に寝るかも」

「言うと思った」

シオナは地図を畳んだ。

簡易マニュアルの隣に置き、布団に入る。

ベッドは柔らかかった。柔らかすぎるくらいだった。

90式の車内とは違う。

外の冷気も、鉄の匂いも、狭さもない。

エンジンの余熱もない。車体のかすかな軋みもない。

安全なはずなのに、少しだけ心細い。

「シオナ」

暗くなる前の部屋で、ミズホが声をかけた。

「なに?」

「90式は、ちゃんと見てもらってるよ」

「うん」

「私たちも、ちゃんと休もう」

シオナはしばらく黙ってから、うなずいた。

「うん」

ミズホが机のランプを消す。

部屋の明かりも落とされ、窓の外の基地の灯りだけが、薄くカーテン越しに残った。

サヤの声が、暗がりの中から聞こえた。

「おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみ」

三人の声が重なり、部屋は静かになった。

90式のいない初めての夜。

それは、思ったより落ち着かなくて、思ったより暖かかった。

そして三人は、久しぶりに、出発の準備をしないまま眠りについた。

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人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

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