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第二十六話 女王陛下の娘

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/10 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 3,451文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第二十六話 女王陛下の娘

 その日も、アリスはノアと一緒にハートの城の執務室で過ごしていた。

 ハートの城での暮らしにも、少しずつ慣れてきた。

 廊下を歩けば、城の人たちが声をかけてくれる。

「あら、ルーシーちゃん。今日も白兎様のお手伝い?」

「はい。書類を運ぶだけですけど」

「偉いわねぇ。迷い子なのに、よく働く子だこと」

 厨房の前を通れば焼き菓子をひとつ渡され、掃除係の女の人には、曲がり角で迷わないようにと廊下の目印を教えてもらった。

 この城の人たちの目に、アリスはアリスとして映っていない。

 少し丸い頬に、小さな豚耳。服の後ろには、短い尻尾まである子ぶた娘のルーシー。

 最初はその姿で見られるたびに落ち着かなかったけれど、最近は少しだけ慣れてきた。慣れてしまうことがいいのかどうかは、まだ分からない。

 けれど、城の中で少しずつ居場所を覚えていくたびに、アリスの中でも変わっていく場所があった。

 白兎の執務室。

 最初は、檻みたいな場所だった。

 けれど今は、違う。

 ノアはもう、執務室を出る時に鍵をかけなくなった。

 開いている扉。

 それは、アリスを閉じ込めないという、ノアの小さな約束みたいだった。

 ノアが私を信じてくれている。

 そう思えるだけで、この部屋の空気は前より少しだけ軽くなる。

 怖かったはずの場所が、今は、居心地の良い場所に変わり始めていた。

 アリスは、書類を揃えながら、ふとノアを見た。

 ノアは大きな机に向かい、羽ペンを走らせている。白銀の髪が横顔にかかり、赤い瞳は書類の文字を静かに追っていた。

 いつもの砂糖菓子みたいな笑顔はない。

 仕事をしている時のノアは、少しだけ知らない人に見える。

 細い指が迷いなく紙をめくり、羽ペンの先が静かに走る。時折、眉がほんの少しだけ寄る。

 その横顔は綺麗で。

 気づけば、アリスは手を止めたまま、ノアを見つめていた。

「アリス」

 呼ばれて、はっとする。

「はい」

「手が止まってるよ」

 ノアがこちらを見て、少しだけ笑った。

 アリスは慌てて書類へ視線を戻す。

「ごめんなさい!」

「何か考え事?」

「……はい」

「僕の顔を見ながら?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべているノア。

「ちっ、違います」

「ふうん」

 ノアはそれ以上追及せず、また書類へ視線を戻した。

 頬が熱い。

 最近、気づくとノアを目で追ってしまう。

 声をかけられるだけで胸が跳ねるし、目が合うだけで指先が少し落ち着かない。

 ほんの少し笑われただけなのに、さっきまで揃えていた書類の文字が、急に遠くなるような気がした。

 自分でも制御ができない。

 前のように、自然に振る舞えなくなっていた。

「ふっ……」

 ノアが思わず吹き出した。

「顔、赤くなりすぎ」

 アリスは反射的に、手元の書類を持ち上げた。

 顔を隠すように胸元へ寄せると、紙の端がかすかに震える。

 ノアが椅子から立ち上がり、ゆっくり近づいてきた。

 足音が近づくたびに、書類を持つ指先に力が入る。

「こら。それは提出用の書類だから、シワにしちゃ駄目だよ」

 ノアの白い指が、書類の端にそっと触れた。

 紙越しに隠れていた視界が、少しずつ開いていく。

 アリスが慌てて手を離すと、書類はノアの手の中へ移った。

 隠すものがなくなった途端、すぐ目の前にノアの顔があった。

「やっと、目を合わせてくれた」

 少し屈んだノアが、甘く笑っている。

 その笑みには、砂糖菓子みたいな柔らかさと、からかうような悪戯っぽさが混ざっていた。

 アリスは、はっとした。

 近くで見るノアの赤い瞳は、夕方の光を受けて、苺シロップみたいに艶めいている。

 見つめてはいけないと思うのに、目を逸らせなかった。

「……あれ?」

 先に戸惑ったのは、ノアの方だった。

 からかうつもりだったのかもしれない。

 けれど、アリスが何も言えないまま真っ直ぐ見上げてしまったせいで、ノアの笑みがほんの少しだけ止まった。

 その瞳には、照れも、戸惑いも、まだ名前のつかない気持ちも、全部そのまま浮かんでいた。

 隠し方を知らない、あまりにも澄んだ目。

 ノアは一瞬、そこから逃げることができなかった。

 近すぎる距離のまま、二人の間に小さな沈黙が落ちる。

 ノアの白い兎耳が、ぴくりと揺れた。

「……ノア」

 気づいた時には、夢から覚めきらないような小さな声で、名前がこぼれていた。

 呼びたかったわけではない。

 ただ、胸の奥からあふれたものが、そのまま声になってしまった。

 その瞬間、ノアの頬にさっと赤みが差した。

 悪戯っぽかった笑みが消えて、今度はノアの方が目を逸らす。

 少し遅れて、彼は慌てたように身体を起こした。

「少し用事があるから、外に出てくる」

「えっ……?」

「そんなに時間はかからないから」

 ノアは白い上着を羽織り、机の上の書類を少し乱雑に整えた。

 そして扉の前で、一度だけアリスを振り返る。

「退屈なら本棚の本を読んでいいよ。ただし、右から三番目の棚の赤い本は噛むから触らないでね」

「……はい」

「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

 ノアが出ていく。

 アリスはしばらく、その扉を見つめていた。

 ノア、なんだか慌てていたな。

 もしかして、ノアも少しは意識してくれているのかな。

「そうだったら、うれしいな……」

 思わず口から出た本音に、アリス自身が驚く。

 ドクン、と心臓が鳴る。胸の奥がうるさい。

 私……もしかして、ノアのこと――。

 そう考え始めた時だった。

 扉の向こうで、足音がした。

 ノアの足音ではなかった。

 軽い。

 けれど、迷いがない。

 まるで、自分がどこへ行っても許されると知っている者の足音。

 アリスは立ち上がった。

 ノックもなく、扉が開いた。

 入ってきたのは、ひとりの少女だった。

 年はアリスと同じくらいか、少し上だろうか。

 夕方の光を受けて、少女の髪がふわりと揺れた。

 ハートの女王が纏う赤に、甘い花色を一滴混ぜたような、鮮やかなピンク色。

 花びらのように柔らかい色なのに、ただ可憐なだけではない。光が流れるたび、淡い桃色と赤紫が髪の奥で揺れて、まるで熱を持った花が人の形を取ったようだった。

 淡いピンクのドレスは、幾重もの花びらを重ねたように上品で、胸元の小さなハートの宝石だけが、夕闇の中で静かに光っていた。

 可愛らしいのに、近づきがたい。

 育ちの良さと、退屈に慣れた冷たさが、同じ仕草の中に混ざっている。

 少女は最後に、アリスを見た。

「あなた……」

 その視線が、アリスの頭の上あたりで一度止まる。

 アリスは反射的に背筋を伸ばした。

 一瞬だけ、ちらりと窓を見る。

 そこには、小さな豚耳と短いしっぽ姿のルーシーが映っていた。

 アリスは、ほんの少しだけ息をつく。

 大丈夫。

 少なくとも、この少女の目にも、自分は〈子ぶた娘ルーシー〉として映っているはずだ。

 少女はアリスを上から下まで眺め、それから小さく笑った。

「その耳、あまり似合っていないわね」

 アリスは息を止めた。

「……耳、ですか」

「ええ。白兎も趣味が悪いわ。どうせなら、もっと可愛い姿にしてあげればいいのに」

 その一言が、針のように胸へ刺さった。

 アリスは思わず聞き返しそうになって、唇を結ぶ。

 この少女は、何かを知っているのか。

 それとも、知っているように見せているだけなのか。

 どちらにしても、ここで不用意に揺れてはいけない。

 アリスは慎重に背筋を伸ばし、丁寧に礼をした。

「ルーシーと申します」

「知っているわ」

 少女は退屈そうに微笑んだ。

「白兎が執務室に置いている子ぶた娘って、今ちょっとした噂ですもの」

 噂になっていることは、薄々分かっていた。

 廊下で声をかけられるたび、厨房で焼き菓子を渡されるたび、城の人たちが自分を見ていることには気づいていたから。

 けれど、それをこの少女の口から聞くと、まるで柔らかい布を一枚はがされたような心地がした。

 アリスは唇を結び、できるだけ静かに答えた。

「……迷い子なので。白兎様が、少し気にかけてくださっているだけです」

 少女はくすりと笑う。

「無難な答えね」

 少女は笑っている。

 けれど、アリスを見ているというより、アリスの反応を見ている気がした。

 何を知っているのかではなく、何を隠そうとするのかを試している。

 アリスは小さく息を吸った。

「あの……」

 アリスが尋ねかけると、少女は優雅にスカートをつまみ、ほんの少しだけ膝を折った。

「アザレア」

 その名を聞いた瞬間、空気が変わった気がした。

「ハートの女王の娘よ」

 アリスの心臓が、強く鳴った。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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