プロローグ 結婚してください
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。 🌸🏰🖤 疲れた日に少しだけほっこりできる、 花と綿毛ともふもふの異種族ラブコメです。
本文
プロローグ 結婚してください
人間と魔族は戦争中だった。
長く続く争い。
終わりの見えない戦い。
今日も誰かが傷付き。
今日も誰かが泣いていた。
その最前線で、アリアは治療をしていた。
怪我人の手を取り、傷を癒やす。
泣いている子供を慰める。
聖女として。
いつも通りの一日だった。
――はずだった。
悲鳴が聞こえた。
アリアは顔を上げる。
崩れた建物の向こう。
小さな魔族の子供がいた。
瓦礫が落ちる。
誰も間に合わない。
そう思った瞬間だった。
黒い影が動いた。
轟音が響く。
舞い上がる土煙。
揺れる大地。
そして。
そこにいた。
漆黒の外套。
赤紫色の髪。
夕焼けを閉じ込めたような赤い瞳。
魔王だった。
片手で瓦礫を受け止めている。
当然みたいに。
呼吸をするみたいに。
魔族の子供を庇いながら。
アリアは見ていた。
魔王は強かった。
圧倒的に。
誰よりも。
けれど。
アリアが見ていたのは強さじゃない。
その背中だった。
怪我人へ向かう魔物を叩き落とす。
倒れた老人を助け起こす。
泣いている子供を安心させる。
敵も味方も関係なく。
人間も魔族も関係なく。
ただ目の前の命を守っていた。
あ。
アリアは思う。
この人。
凄い。
目が離せなかった。
黒い外套が翻る。
広い背中。
長い脚。
迷いなく前へ進む姿。
そして不意に。
魔王が振り返った。
赤い瞳と目が合う。
どくん。
心臓が鳴った。
もう一度。
どくん。
あれ。
アリアは瞬きをする。
この人。
かっこいい。
どくん。
綺麗。
どくん。
好きかもしれない。
その瞬間。
決まった。
アリアは歩き出した。
「聖女様!?」
誰かが呼ぶ。
聞こえなかった。
魔王の前まで行く。
魔王が眉をひそめる。
春の風が吹いた。
淡いクリーム色の髪が揺れる。
花びらが舞う。
アリアは両手を胸の前で組んだ。
そして。
「結婚してください」
沈黙。
風が吹く。
数秒後。
「……は?」
その日。
魔王の平穏は終わった。🌸🖤