第10話 迎えに行く

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/24 📚 シリーズ: 魔王様、結婚してください 📝 2,624文字 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。

本文

第10話 迎えに行く

怪我から数日後。

魔王城には穏やかな日常が戻っていた。

庭園では白い花が揺れている。

最初は小さかった。

一株。

二株。

それだけだった。

今では花壇になっている。

春風が吹く。

窓から花の香りが流れ込む。

執務室。

ゼノは書類を読んでいた。

静かな時間だった。

怪我もほとんど治っている。

自己再生もある。

もう問題はない。

はずだった。

だが。

ふと。

視線が窓へ向く。

白い花が揺れていた。

自然と。

扉を見る。

何もない。

静かだった。

それが少し気に入らなかった。

◇◇◇

神殿。

「アリア様」

「はい?」

侍女が微笑む。

「今日はお休みですよ」

「そうでした」

アリアは笑った。

あの日以来。

少し無理をしすぎた。

神官達。

治療師達。

侍女達。

全員一致で休養命令だった。

「今日は魔王城禁止です」

「ええっ」

アリアが固まる。

「駄目です」

「少しだけ」

「駄目です」

「三十分」

「駄目です」

「二十分」

「駄目です」

交渉は失敗した。

侍女達は満足そうに頷く。

アリアは窓辺に座る。

頬を膨らませていた。

珍しかった。

「会いたいです」

ぽつり。

侍女達は顔を見合わせる。

知っていた。

絶対そう言うと思った。

「明日まで我慢してください」

「長いです」

まだ半日も経っていない。

◇◇◇

魔王城。

ガルドは書類を運んでいた。

そして気付く。

ゼノが同じ書類を三回読んでいる。

「ゼノ様」

「なんだ」

「何かお考えですか」

「別に」

即答だった。

ガルドは窓を見る。

白い花。

揺れている。

そして。

静かだった。

なるほど。

そういうことか。

「アリア様は本日お休みらしいですよ」

沈黙。

ゼノの手が止まる。

一瞬だけ。

本当に一瞬だけ。

「そうか」

短かった。

だが。

ガルドは見逃さなかった。

止まった。

確かに止まった。

「まあ」

ガルドは肩を竦める。

「当然でしょう」

「何がだ」

「ここ数日、朝も昼も夕方も来ていましたから」

ゼノは黙る。

「傷の確認だけして帰る日もありました」

「……」

「大丈夫ですか」

「痛くありませんか」

「熱はありませんか」

毎回聞いていましたので。

ガルドは少し笑った。

「あの日以来、通い詰めでしたからね」

静かになる。

窓の外。

白い花が揺れていた。

「そうか」

ゼノはそれだけ言った。

だが。

その声は少しだけ低かった。

静かだった。

花の香りもない。

元気な声もない。

「見てください!」も。

「好きです!」も。

聞こえない。

静かだった。

以前なら普通だった。

だが。

今は違う。

ゼノはペンを置く。

立ち上がる。

「ゼノ様?」

ガルドが瞬く。

「どちらへ」

ゼノは短く答えた。

「迎えに行く」

ガルドは眼鏡を押し上げた。

ついに言った。

◇◇◇

神殿。

アリアは窓辺で花を眺めていた。

元気がない。

侍女達が困るくらい。

元気がない。

その時だった。

「アリア様!」

誰かが駆け込んでくる。

「はい?」

「ま、魔王様が」

「ゼノ様?」

「来ています」

「えっ?」

神殿中がざわついていた。

当然だった。

魔王である。

王都神殿その中心を。

ゼノは普通に歩いていた。

誰も声を掛けられない。

そして。

アリアを見つけた。

目が合う。

アリアが固まる。

「ゼノ様?」

信じられないみたいな顔だった。

ゼノは歩く。

そのまま。

真っ直ぐ。

アリアの前まで。

「なぜここに」

アリアが聞く。

ゼノは答える。

「迎えに来た」

アリアが固まる。

「え?」

アリアだけが理解していなかった。

ゼノは少しだけ息を吐く。

言葉を選ぶ。

珍しく。

少しだけ。

考えた。

そして。

アリアを見る。

「お前は」

静かな声だった。

「明日があるとは限らないと言ったな」

アリアが瞬く。

覚えていてくれたらしい。

「はい」

ゼノは頷く。

そして。

続けた。

「俺もそうだ」

静かだった。

「魔王だからな」

戦う。

傷付く。

いつ死ぬか分からない。

それは事実だった。

「だから」

アリアを見る。

真っ直ぐ。

初めて。

逃げずに。

「会える時に会っておきたい」

静かになる。

誰も声を出さない。

アリアは一瞬理解できずに言葉を失った。

でも。

数秒後。

目に涙が浮かんだ。

「ゼノ様」

震える声だった。

「なんだ」

「それ」

涙が零れる。

「ずるいです」

ゼノは少し眉を動かした。

「なぜだ」

アリアは泣きながら笑う。

「嬉しいので」

それ以上言えなかった。

ゼノは少しだけ考える。

そして。

アリアへ手を差し出した。

「来い」

アリアは迷わない。

その手を取る。

小さな手だった。

暖かかった。

失いたくないと思った。

守りたいと思った。

自然に。

そう思った。

「アリア」

「はい」

ゼノは少しだけ息を吐く。

そして。

言った。

「毎日来るのか」

「はい!」

「心配もする」

「します!」

ゼノはまた一つ息を吐く。

予想通りだった。

「離れる気もない」

「ありません!」

前のめりになる勢いだった。

ゼノは少しだけ目を閉じる。

答えはもう出ていた。

だから。

静かに言う。

「なら」

アリアは息を止める。

ゼノはアリアを見る。

真っ直ぐに。

逃げずに。

青い瞳と目が合う。

そして。

「結婚するか」

沈黙。

一秒。

二秒。

三秒。

「ええええええええええええええっ!?」

神殿が揺れた。

鳥が飛び立つ。

侍女達が悲鳴を上げる。

神官達が固まる。

誰かが花瓶を落とした。

「それはプロポーズですか!?」

アリアが叫ぶ。

ゼノは少し目を見開く。

泣きそうな顔だった。

嬉しそうで。

幸せそうで。

今にも飛んでいきそうな綿毛みたいだった。

ゼノはそんなアリアを見る。

少しだけ目元が緩む。

そして。

「そうなるな」

今度は迷わなかった。

アリアの目から涙が溢れる。

悲しい涙ではない。

嬉しい涙だった。

「はい!!」

即答だった。

今までで一番大きな返事だった。

アリアが飛び付く。

花の香りがする。

春の匂いだった。

ゼノは受け止める。

今度は迷わない。

逃がさないように。

飛んでいかないように。

そっと抱きしめる。

「ゼノ様」

「なんだ」

アリアは泣きながら笑う。

「大好きです」

ゼノは少しだけ目を細めた。

そして。

アリアの髪を撫でる。

「知っている」

短い言葉だった。

けれど。

今までで一番優しかった。

◇◇◇

春風が吹く。

窓辺の花が揺れる。

神殿の大木では。

精霊達が楽しそうに光っていた。

まるで祝福するみたいに。

そして。

遠く離れた魔王城でも。

白い花が揺れていた。

最初は一株だった。

二株だった。

気付けば花壇になった。

誰かの優しさが少しずつ増えたように。

二人の距離も。

いつの間にか。

もう手の届く場所まで来ていた。

🌸魔王様、結婚してください 完🖤✨

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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またどこかで、アリアたちに会いに来てください🌸🏰🖤

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作者について

ひふみん

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