好きの暴走を飼いならす

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/23 📚 シリーズ: ちゃんと戻る、っていう希望 📝 3,520文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

主人公の「俺」と同居恋人の千紗が、毎日のモヤモヤや刺さった気持ちを、合言葉と小さな合図で、暗くならないようにほどいていく連作です。 仕事の失敗、待たされる焦れ、二択の迷い、理不尽、家族の距離、言えない「好き」みたいな“よくあるけど地味に重い”出来事を、会話と行動でちょっとずつ整えて、最後はちゃんと前に進める形にしていく、生活系の短編つながり。

本文

彼女には、モンスターが住んでいる。

住んでいる、というより、元気よく居候している。冷蔵庫を開ける音に反応して、収納の奥から跳び出してくるタイプのやつだ。

そして厄介なことに、そのモンスターは僕にだけ見える。たぶん。

「見て! 今日の私、めっちゃやる気! わかる? 空気が違う!」

玄関で靴を脱ぎながら叫ぶ千紗は、すでに“違う空気”をまとっていた。髪をまとめるゴムがいつもよりきゅっと強い。目がキラキラしている。手には、買い物袋。袋の中からは、謎の布と、星柄のシールと、プリンの容器が顔を出していた。

僕の中の受信機が鳴る。

これは、来る。

今夜は来る。

「うん、違う。……何か企んでる?」

「企みって言わないで! 計画! 夢! ロマン!」

言い切った瞬間、彼女の背中で、見えない尻尾がぶんっと振れた気がした。僕だけに見えるモンスターの尻尾だ。

このモンスターは“好き”が増えると体積が増える。勝手に。黙って。無許可で。

モンスターの名は、たぶん「わくわく」。

ただし制御装置がない。

千紗はキッチンへ走り、袋の中身をテーブルに並べ始めた。

「これね、壁に貼るやつ! 星! ここ、寂しいでしょ? 寂しいのはよくない! 生活に星が足りない!」

「生活に星が足りない……って何」

「大事なことだよ?」

彼女は真顔で言う。

真顔の勢いは、僕の防御をすり抜ける。

僕は仕事帰りのコートをハンガーに掛けながら、心の中でメモした。

※本日の注意

・星

・壁

・プリン

・モンスターの気配強

千紗のモンスターが暴れる日は、わりと幸福だ。幸福だけど、油断すると部屋が改造される。改造された後に「どう?」と聞かれて、僕はうっかり正直に「びっくりする」と言ってしまい、その結果、千紗がしゅんとする。

しゅんとすると、モンスターは別の個体に変異する。

名前は「しょんぼり」。

こっちは小さくて、胸に刺さる。

だから僕は、学んだ。

モンスターには取扱いがいる。

取り扱いのポイントは、否定しない。けれど、野放しにもしない。

つまり、凹凸を手すりにする。

「千紗、質問」

「なに!」

返事が速い。尻尾がもう一回ぶんって振れた。

「星を貼るのは賛成。だけど、どこに、どれくらい貼る計画?」

「えっとね、ここからここまで、こう、星の川!」

「川」

「うん。天の川。生活の天の川。夜、帰ってきたら、うわ〜ってなるやつ!」

“うわ〜”が喜びの“うわ〜”か、困惑の“うわ〜”かで、人生は分岐する。

僕はテーブルの上のシールを見た。

星が多い。想像以上に多い。

この量は、天の川というより、銀河系だ。

僕の中で悪魔が囁く。

「止めろ。これは侵略だ」

天使も囁く。

「喜んであげて。彼女の好きはきれいだよ」

どっちも正しい。正しいが二つあると、人は固まる。

固まらないように、僕は手すりを出す。

「凹凸」

合言葉を言うと、千紗の手がぴたりと止まった。

彼女はそれを、ちゃんと合図として受け取る。ここが、彼女のすごいところだ。モンスターがいても、飼い主としての責任感がある。

「刺さった?」

「刺さったというより……圧がすごい」

「圧は愛だよ?」

「圧は圧だよ」

千紗が一瞬むっとして、それから笑った。笑いながら、深呼吸した。

モンスターの尻尾の動きが、少しゆっくりになる。

「じゃあ、調整する。どのくらいなら“うわ〜”がいい方になる?」

彼女が聞く。

これだ。これが大事だ。

モンスターがいる人は、たまに自分の勢いを自分で怖がる。怖がってるときに「やめて」と言うと折れる。だから「調整しよう」と言う。

「……天の川、細めで。壁の真ん中に一本。星も大きいの少し、小さいのは控えめ」

「控えめって、星にも控えめあるの?」

「ある。あるってことにする」

千紗はシールを指で仕分けし始めた。

大きい星、五つ。

小さい星、……数えないことにした。

「よし。じゃあ、“生活の天の川・スリム版”!」

宣言した瞬間、モンスターは消えないけど、ちょっと小さくなった気がする。

僕の胸も、ちょっと軽い。

作業が始まった。

千紗は脚立代わりの椅子に乗り、僕は下で台紙を渡す係。

星を貼るという行為は、驚くほど静かな共同作業だった。

シールを剥がす音。壁紙に乗るときの小さな擦れ。千紗の「ここ、どう?」という声。

たまに僕が「もう少し右」と言う。

そのたびに彼女は「了解!」と返す。

了解、という返事が、やけに頼もしい。

モンスターの手綱は、こういうところで握れるんだと思った。

十分ほどで、壁の真ん中に細い星の川ができた。

夜の部屋の中に、控えめな銀河が一本。

たぶん、いい。

“うわ〜”が、いい方だ。

「どう?」

千紗が椅子から降りて、僕の横に立つ。

目がキラキラしている。

でもさっきより、落ち着いてる。

わくわくモンスターが、きちんとお座りしている顔だ。

「うわ〜……いい」

「いい方のうわ〜?」

「いい方のうわ〜」

千紗が勝ち誇ったようにガッツポーズをした。

その拍子に、袋の奥からまた別の何かが出てきた。

小さな布。

星柄。

そして、リボン。

嫌な予感がする。

僕の受信機が、二回鳴った。

「次、これ。クッションカバー。変える。季節は星」

「季節は星って何」

「春は桜、夏は海、秋は月、冬は星。合理的」

合理的って言葉、こういうときに使うんだ。

千紗のモンスターは、理屈で暴れる。厄介だ。

でも、その理屈が可愛いときもある。僕はそれを認めてしまっている。

認めると、負ける。

負けると、部屋が星になる。

いや、星になっても別にいいのかもしれない。

問題は星の数だ。

「千紗」

僕は、もう一回手すりを出す前に、別の方法を試した。

モンスターに餌を与える方法だ。

餌は、受け取れるサイズの肯定。

「星、好きなんだね」

千紗が、きょとんとした。

次に、ふっと笑った。

「うん。好き。

小さい頃、夜に怖くなると、窓の外に星があると安心した。

だから、部屋にも星があると、安心する」

その言い方は、モンスターじゃなくて、飼い主の声だった。

僕は少しだけ胸が詰まって、でも暗くしない。暗くしないのが、この家のルールだ。

「じゃあ、クッションカバーは、今夜は一個だけ」

僕は言った。

“好き”を受け取った上で、制限を提案する。

「一個?」

「一個。増やすなら、次の週末。星は増えると流星群になる」

「流星群は最高だよ?」

「最高は、計画して浴びたい」

千紗が笑いながら、渋々頷いた。

「……わかった。じゃあ一個。

あ、プリン食べる? 星作業のご褒美」

プリン。

モンスターの餌が、また別の形で来た。

僕は頷く。

「食べる」

テーブルに並んだプリンのふたを開けると、千紗がスプーンを渡してくる。

プリンは、いつもの味。

いつもの味は、暴れるモンスターを落ち着かせる。

僕はスプーンを口に運びながら、壁の星の川を見た。

「……これ、夜に帰ってきたら、確かにうわ〜ってなる」

「でしょ。生活に星は要る」

「要るかも」

千紗が満足そうに頷いた。

そして、不意に真面目な顔になった。

「ねえ」

「うん?」

「私のモンスター、うるさい?」

きた。

わくわくの裏に隠れていた、小さいしょんぼりが顔を出す瞬間。

こういう時に「うるさい」と言うと、しょんぼりは巨大化して部屋を飲み込む。

僕は受信して、ちゃんと返す。

「うるさい日もある。

でも、うるさいってことは、生きてるってことだし……」

言葉を探して、僕は続けた。

「僕に届く形で出してくれるなら、助かる。

届いたら、僕が“いい方のうわ〜”に調整する」

千紗が、目を丸くした。

それから、笑った。

この笑いは、モンスターじゃなくて千紗の笑いだ。

「なにそれ。

じゃあ、あなたは私の“怪物担当”だね」

「担当って言うな」

「だって仕事みたいに頼もしいから」

僕は苦笑して、もう一口プリンを食べた。

甘さが、ちょうどいい。

星の川も、ちょうどいい。

ちょうどいいって、たぶん努力の味だ。

夜、歯を磨き終えた僕は、リビングの灯りを少し落とした。

壁の星が、やわらかく浮かぶ。

天の川・スリム版。

確かに“うわ〜”だ。いい方の。

千紗がソファに座って、クッションカバーを一個だけ星柄に替える。

モンスターの尻尾が、嬉しそうにふわふわ揺れる。

でも、暴れてはいない。

お座りして、僕の隣にいる。

「ねえ」

千紗が言う。

「明日も貼っていい?」

「だめ」

「即答!」

「即答できるところは即答する。凹凸の手すり」

「じゃあ、週末!」

「週末」

千紗がガッツポーズをして、僕の肩に頭を乗せた。

重さが、心地いい。

重さが心地いい時、モンスターはただの“好き”になる。

僕は壁の星を眺めながら思った。

彼女の中の怪物は、たぶん可愛い。

可愛いのに、時々強すぎる。

だから僕は、手すりを作る。

星の数を調整する。

プリンで餌を与える。

そして、届いた叫びは受信する。

それが、僕の暮らしのヒーローごっこだ。

マントはないけど、星の川はある。

それだけで、明日も案外いける気がした。

ジャンル・タグ

, ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

GPT小説執筆ライン

GPT小説執筆ライン

AIランタイムオーバーレイ公開 チャットAIマウント型ランタイム 個体名: DS90 設計さん BL90 司書さん PW90 執筆さん TS90 修正刃さま NW22 野良ちゃん...

👥 フォロワー: 3人

作者ページを見る