声にしていい虹

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/21 📚 シリーズ: ちゃんと戻る、っていう希望 📝 2,147文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

主人公の「俺」と同居恋人の千紗が、毎日のモヤモヤや刺さった気持ちを、合言葉と小さな合図で、暗くならないようにほどいていく連作です。 仕事の失敗、待たされる焦れ、二択の迷い、理不尽、家族の距離、言えない「好き」みたいな“よくあるけど地味に重い”出来事を、会話と行動でちょっとずつ整えて、最後はちゃんと前に進める形にしていく、生活系の短編つながり。

本文

虹って、ずるい。

空に出るだけで「きれい」で、「よかった」が勝手に付いてくる。

しかも、雨が降ったあとにだけ出る。

しんどい時間を通ったご褒美みたいな顔をして、さらっと現れる。

でも僕は、虹を見ても、すぐに素直になれない。

「きれいだね」って言えばいいのに、喉の手前で言葉が引っかかる。

素直って、案外、勇気がいる。

朝、千紗がカーテンを開けて言った。

「雨、上がったよ」

窓の外はまだ薄暗いけど、雲の端がほどけている。

道路のアスファルトが濡れて、光を少しだけ返している。現実通り。

冷蔵庫には、新しい貼り紙。

「素直=虹

色で分ける

言えないなら記号

チッ→凹凸→一手

最後にシャク」

「色で分けるって何」

僕が白湯を飲みながら言うと、千紗はマグを二つ並べて頷いた。

「素直って、丸ごとだと重いでしょ。だから分ける。赤、青、黄、みたいに」

「感情を七色に?」

「七色まではしなくていい。あなたは十まで数える人だけど、素直は三色でいい」

アンが椅子の上で丸くなって、しっぽの先でカーテンの影を追いかけていた。椅子。第三の動き。

猫は素直だ。欲しい時は寄るし、いらない時は去る。

人間は、寄りたいのに寄れない時がある。そこが面倒だ。

僕の胸の奥で、最近よく鳴る「チッ」が小さく鳴った。

ブザー。

理由は分かっている。

今日、千紗に言いたいことがあるのに、言いづらい。

昨日の夜、僕は寝る前に、ふと不安になった。

「もしも」のノートを見て、急に怖くなって、千紗に黙ったままスマホを握りしめた。

彼女は気づいていたのに、何も言わず、鈴だけ鳴らして「さぁ、寝よ」と言った。

優しすぎて、逆に刺さった。凹凸。

「来た?」

千紗が聞く。受信機が早い。

「……来た」

「凹凸」

「凹凸」

合言葉を口にすると、手すりが出る。

凸は、「言いたい」。

凹は、「重くしたくない」。

素直に言うと、相手を濡らしそうな気がする。

でも、虹は雨のあとに出る。

濡れたままでも、きれいなものはある。

「一手」

千紗が言う。

「色で分けよ」

「色?」

「うん。今日の素直を三色にして。言葉じゃなく、色名で言ってもいい」

千紗は冷蔵庫から、三つのマグネットを外してきた。

赤い丸。青い四角。黄色い星。

子どもみたいで、ちょっと笑える。

笑えると、喉がほぐれる。炭酸の圧抜き。

「赤:ありがとう」

「青:こわかった」

「黄:うれしい」

千紗が淡々と言う。

「今日はどれ?」

「……全部」

「欲張り」

「虹だし」

「虹は欲張りでいい。でも、順番。ゼロか百かにしない」

順番。

僕らの武器。刃物じゃない。

僕は赤い丸を指で触った。

「赤」

それだけ言うと、千紗が頷いた。

「ありがとう?」

「うん」

「理由一行」

錨の手順が混ざる。自然に。

僕は息を吐いて、言った。

「昨日、何も言わずに鈴だけ鳴らしてくれて、助かった」

千紗が少しだけ目を細めた。笑いじゃなく、受信機の合図。

そして鍵の鈴をちん、と鳴らした。

「固定」

次に、青い四角。

僕は指を置いて、言った。

「青」

「こわかった?」

「うん」

「理由一行」

喉が詰まりそうになる。

ここで大げさに言うと、空気が沈む気がする。

でも、貼り紙に“暗くしない”って書いてあるわけじゃない。

だから自分で運用する。

「こわかった、は短く」

千紗が言う。

「素直は短い方が明るい」

「……なるほど」

僕は短く言った。

「もしも、って考えたら、急に怖くなった」

千紗は頷いて、青いマグネットを軽く叩いた。

トン。鈴の代わり。

「現実通り」

現実通り。

その言葉は、怖さを“怖さのまま”置いてくれる。

押しつぶさない。盛らない。

だから沈まない。

最後に、黄色い星。

僕は星を指でなぞって、言った。

「黄」

「うれしい?」

「うん」

「理由一行」

ここは言える。

言えるやつは、言った方がいい。素直の燃料になる。

「こういう話を、ちゃんと手順にできるのが、うれしい」

千紗が笑って、鈴を鳴らした。ちん。

「さぁ」

言えた。

三色に分けたら、言えた。

虹って、こういうことかもしれない。

全部を一枚で見せるんじゃなくて、色として出す。

色なら、受け取る側も眩しすぎない。

窓の外が少し明るくなった。

雲の隙間から光が差して、濡れた電線が細い線になって光っている。

線。

スリット。

世界はゼロか百かじゃない、と外側も言っている。

「虹、出るかな」

僕が言うと、千紗は肩をすくめた。

「出なくてもいい」

「え」

「虹が出るかどうかは、天気の都合。私たちは、今もう虹やったでしょ」

「……確かに」

「素直の虹。声にしていい虹」

アンが椅子から降りて、僕の足元に来た。

猫は言葉がないから、全身が虹だ。触れれば分かる。

「じゃ、締め」

千紗が言う。

「最後にシャク」

冷蔵庫の貼り紙が命令するみたいに、でも優しく。

武器は刃物じゃない。りんごだ。

千紗がりんごを切って、僕に一切れくれた。

僕は噛んだ。

シャク。

音が、赤と青と黄をまとめて、生活の中に落としてくれる。

「ねえ」

僕はりんごをもう一口噛んで、言った。

「きれいだね」

「なにが?」

千紗がとぼける。

僕は窓の外を指差した。

雲の端がほどけて、光が出てる。虹はまだ見えない。

でも、濡れた街が少しだけ明るい。

「これ」

僕が言うと、千紗が笑った。

「うん。きれい」

そして鈴をちん、と鳴らす。

「さぁ」

虹は出てない。

でも、素直は出た。

それで十分な朝がある。

雨上がりの空気の中で、僕らは暗く沈まずに、ちゃんと生活の色を取り戻していく。

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AIランタイムオーバーレイ公開 チャットAIマウント型ランタイム 個体名: DS90 設計さん BL90 司書さん PW90 執筆さん TS90 修正刃さま NW22 野良ちゃん...

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