ゴミ集積が“素材置き場”になる

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/12 📚 シリーズ: 泣かせない係のおねぇちゃん、世界を盛りすぎる 📝 4,163文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

真昼山の山頂に、ひとりの子どもが降り立った。 名はハル。泣きそうなほど眩しい朝日を見上げたその瞬間、世界は“きれいすぎる”方向へ盛られてしまう。音は響きすぎ、匂いは良すぎ、善意は増えすぎる。 原因は神界の「泣かせない係」。 生活感のあるお役所みたいな職員室で、主犯神アマネが今日も宣言する。 「おねぇちゃんに、まかせて!」 涙ゼロを目指すあまり、世界を盛りすぎて大パニック。ゆれりんが鳴れば朝礼集合、盛っては直して反省会。なおし係まで巻き込まれ、業務はいつも過多になる。 一方、地上では麓の共同保護の家「結び家」が、飯と湯と順番で今日も回る。 パニックは去らない。だけど生活に編み込めば、笑って眠れる。 泣かせないおねぇちゃんと、泣く暇のない日常が出会う、ドタバタほのぼのハイファンタジー。

本文

ゴミ集積は、見ないふりで回る。

見ないふりで回るから、たまに「見てほしい善意」が混ざる。

混ざると、山が山じゃなくなる。山じゃなくなると、匂いより先に口が来る。

今日は、口が先に来た。

「そこ、素材置き場にしといたから!」

素材置き場。

危ない単語。

素材は便利で、便利は増える入口だ。入口が開くと、ゴミがゴミじゃなくなる。

ゴミがゴミじゃなくなると、分ける手が迷う。迷うと、また口が増える。

「……素材置き場、って言うな」

ユリネが短く言った。短いから刺さらない。刺さらないのに、周りの肩が一拍止まる。

「……胸の中で素材置き場」

言った本人が言い直して、ちょっと照れた。照れると明るい。明るいのはいい。増やさなければ。

山は三つ並んでいた。

濡れ。乾き。軽。

三つまで。

木片の目印もまだ残っている。濡れ、乾き、軽。

そこまでは、ちゃんと回ってる。

ちゃんと回ってるのに、今日の山には“混ざる理由”が生えていた。

軽い山の横に、布の切れ端が束で置かれている。

乾きの山の横に、折れた木の棒が並んでいる。

そして一番目立つのが、金具。

小さい金具が、木皿の上にちょこん、と。

ゴミのはずなのに、並べ方が「渡したい」になっている。

「……渡したい顔」

レンカが言いかけて、口を押さえた。えらい。

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で顔」

「胸の中なら勝手にしろ」

その横で、ミナギが目を輝かせた。輝くな。

「これさ! 直し屋の人、使えるやつじゃん!」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で使える」

「胸の中でも太らせるな」

使える、は危ない。

使えると言うと、拾いたくなる。

拾うと、誰のか分からなくなる。

分からなくなると、返す先が無くなる。

返す先が無いと、次は「取った/取ってない」が生まれる。

生まれると、生活が重くなる。重くしない。

案の定、背中が一つ寄った。

朝市籠を抱えた若い人が、金具を覗き込んで言った。

「これ、持ってっていい?」

言い方が確認で助かる。断定じゃない。

でもここで「いいよ」が出ると、次の手が増える。増やすな。

板番のおばさんが腕を組んで立っていた。

顔が「分かってる」。

おばさんは金具の皿を見て、布の束を見て、木棒の列を見て、ため息をひとつだけ吐いた。

「ここはゴミ」

短い。短いから刺さらない。刺さらないのに、覗き込んでいた手が止まる。止まれるなら勝ち。

「でも、素材って言ってた」

若い人が言う。

素材って言うな。胸の中で素材。

「素材にするな」

ユリネが短く言った。

「えっ」

「素材にすると、取る順が増える」

「取る順?」

「拾う手が増える」

ユリネの言い方が珍しく丁寧で、ミナギが目を丸くした。丸い目は危ない。止まれ。

そこへ、犯人が名乗った。名乗るな。胸の中で名乗れ。

「私。直し屋の人に、使える端材、って言われたから……ここに置けば誰か拾って持ってくかなって」

善意だ。

善意の形が、ちょっとだけ雑だ。

雑な善意は増える。増えると、戻らない。

「……直し屋」

タケルが真顔で言った。

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で直し屋」

「胸の中なら勝手にしろ」

直し屋の方角から、ちょうど音がした。

こり、こり。

すっ。

とん。

音が静かに近づいてくる。

直し屋の人が、道の端を歩いてきたのだ。

手には、薄い木片と小さい釘。

顔は「今日は手が足りない」になっている。

足りないって言うな。胸の中で足りない。

「おはよう」

直し屋の人が言った。名は言わない。名を増やさない。

「……おはよう」

コトが笑って返す。刺さらない笑顔。

直し屋の人は、ゴミ集積の横の金具皿を見て、目を細めた。

細めた目は、嬉しい目に見える。見えると、善意が走る。走ると増える。

増やすな。

「置いたの、誰」

直し屋の人の声は尖ってない。尖ってないから暗くならない。

でも尖ってないほど、止めにくい。止めないと増える。

善意の人が手を挙げかけて、止めた。止まれたのが偉い。

代わりに、おばさんが一歩だけ出た。

一歩だけ。増やさない距離。

「ここはゴミ。素材なら直し屋の前」

短い。短いと揉めない。揉めないと山が山でいられる。

直し屋の人が頷いた。

「そう。ここはゴミ」

同じ言葉を二回言う。二回目は増やす二回じゃない。戻す二回だ。

善意の人が焦って言う。

「でも、捨てるのももったいなくて」

もったいない。

危ない単語。

もったいないは、拾いを呼ぶ。拾いは混線を呼ぶ。

「もったいないって言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で、もったいない」

「胸の中でも山にするな」

直し屋の人が、金具の皿を指でとん、と叩いた。

小さい音。呼び笛にならない。

「これ、使える。でも、ここに置くと混ざる」

混ざる、が出た。

今日のパニックの芯は、ここだ。

使えると混ざるが同時にあると、人は「じゃあどこに」を言い始める。

どこに、が増えると、場所が増える。場所が増えると、板が増える。板が増えると欄になる。やめろ。

ミナギが口を開けかけた。

「じゃあさ、素材箱作ろ——」

「作るな」

ユリネが即答した。

「えっ、でも」

「箱が増えると箱が詰まる」

「箱、もう詰まってた」

「言うな」

「……胸の中で詰まってた」

「胸の中なら勝手にしろ」

コトが笑って拾う。

「今日だけ、でいい?」

「今日だけ」

ハルが小さく復唱した。復唱は作法になる。

作法になると、増やさずに回せる。

直し屋の人が頷いた。

「今日だけなら、木皿ひとつ」

木皿。

増えない道具。

箱みたいに固定しない。外せる。外せる仕組みは増やさない仕組みだ。

おばさんがすぐ言う。

「直し屋の前に置く」

「置くな」

ユリネが刺して、すぐ直す。

「……置くのは直し屋が置け」

誰が置くかを決めると、責任が生えにくい。生えにくいって言うな。胸の中で生えにくい。

直し屋の人が笑った。

「私が置く。私が回収する」

回収する。回収は良い。ゴミ集積の回収は生活だ。

ゴミ集積に置かない。直し屋に置く。

場所が一つ増えるのは怖いが、今日は“戻すため”の一つだ。

ところが、まだ残る。

ゴミ集積の山に、すでに“素材”が混ざってしまっているからだ。

木棒の列。

布の束。

金具皿。

それをどうするか。

ここで揉めると暗くなる。暗くしない。

ユリネが短く言った。

「外す」

外す。

外すは強い。強いのに増えない。

「今日の分だけ外す。明日は残さない」

言い方が生活だ。罰がない。責めがない。

レンカが息を吸って止めて、言い直した。

「……私、集める」

「集めるな」

ユリネが即座に刺す。

「……胸の中で集めたい」

「胸の中なら勝手にしろ」

泣かせない係が走ると、素材も走る。走ると増える。

だから手順で止める。

タケルが真顔で言った。

「触るのは一人」

「一人」

ハルが復唱する。

「持つのは二つまで」

「二つ」

レンカが口を押さえながら復唱した。言えるなら止まれる。

直し屋の人が、木棒を二本だけ持つ。

布の束はコトが持つ。

金具皿は板番のおばさんが持つ。

三人。

三人は多い。多いって言うな。胸の中で多い。

でも役割が違う三人なら、混ざりにくい。混ざりにくいって言うな。胸の中で混ざりにくい。

シノが端でぼそり。

「……釘、落ちると痛い」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で、痛い」

「胸の中なら勝手にしろ」

痛い、は危ないけど、ここは「危険だから怖い」じゃなく「落とすと嫌」くらいで止める。

直し屋の人は釘を布で包んで、ポケットへ入れた。

包むと落ちない。落ちないと口が増えない。

素材は直し屋の前へ運ばれた。

直し屋の入口の横に、木皿が一枚だけ置かれる。

字は無い。

字が無いのに分かる。

分かるのは、直し屋の人がそこに立っているからだ。

「ここ」

直し屋の人が言った。

一語。

一語で足りる。足りるって言うな。胸の中で足りる。

善意の人がほっと息を吐く。

「じゃあ、捨てないで済むんだね」

「済むって言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で済む」

「胸の中なら勝手にしろ」

板番のおばさんが、ゴミ集積へ戻って山を見た。

濡れ。乾き。軽。

三つ。

木片も三つ。

元に戻ると、匂いが「ゴミの匂い」になる。

ゴミの匂いは、混ざってない匂いだ。混ざってないと落ち着く。

相乗は一行でいい。

素材を外したら、山が山に戻って、口が減った。

ミナギがうずうずして言いかける。

「でもさ、素材あると便利——」

「便利って言うな」

ユリネが刺す。

「……助かる」

ミナギが言い直して、口を押さえた。言い直せるなら勝ち。

レンカが小さく言った。

「素材は直し屋。ゴミは山」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で山」

「胸の中なら勝手にしろ」

昼前、直し屋の前の木皿は、少しだけ賑やかになった。

端材。布切れ。小さい金具。

でも誰も勝手に取らない。

取ると増えるからだ。

直し屋の人が一回だけ頷いて、必要な人にだけ渡す。

声は増えない。

増えないから、木皿は“素材置き場”じゃなく“今日だけの皿”で済む。

夕方、木皿は消えた。

消えるって言うな。胸の中で外す。

直し屋の人が皿を持って中へ入れた。

残さないのが上手い。上手いって言うな。胸の中で上手い。

結び家は帰り道、薪になりそうな木片を一本だけ渡された。

「これ、鍋の火に」

直し屋の人が言った。

「もらうな」

ユリネが反射で言いかけて、止めた。

止めて、言い直す。

「……今日だけ」

「今日だけ」

コトが笑って復唱した。復唱は作法になる。

作法になると、受け取りが太らない。

家に戻ると、鍋が鳴っていた。

薪の木片が、火にくべられる。

ぱち。

音は増えていい。増える音は生活の音だ。

ごっちゃ煮スープの湯気が上がる。

湯気は増えていい。増える湯気は生活の勝利だ。

ミナギが椀を取ろうとして、

「順番」

ユリネが一言。

「……はい」

ミナギが言い直す。言い直せるなら勝ち。

タケルが真顔で言った。

「今日、ゴミを素材にしなかった」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中でしない」

「胸の中なら勝手にしろ」

ハルが小さく頷く。

「……外せるなら、増えない」

シノがぼそり。

「……釘、落ちなかった」

コトが笑う。

「優しさは捨てないけど、置き場所は選ぶんだね」

「言うな」

「……胸の中で選ぶ」

「胸の中なら勝手にしろ」

レンカが小さく宣言して、すぐ口を押さえた。

「今日、素材置き場って言わなかった!」

「言いかけた」

ミナギが真顔で言いかけて、

「未遂って言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で未遂」

「胸の中でも言うな」

刺さらない笑いが湯気に混ざって、台所が軽くなる。

ゴミはゴミ。素材は素材。

混ざらないと、生活は明るいまま回る。

ユリネが短く言う。

「飯! 湯!」

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