掲示板を“正式設置”しても説明しない

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/15 📚 シリーズ: 泣かせない係のおねぇちゃん、世界を盛りすぎる 📝 3,201文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

真昼山の山頂に、ひとりの子どもが降り立った。 名はハル。泣きそうなほど眩しい朝日を見上げたその瞬間、世界は“きれいすぎる”方向へ盛られてしまう。音は響きすぎ、匂いは良すぎ、善意は増えすぎる。 原因は神界の「泣かせない係」。 生活感のあるお役所みたいな職員室で、主犯神アマネが今日も宣言する。 「おねぇちゃんに、まかせて!」 涙ゼロを目指すあまり、世界を盛りすぎて大パニック。ゆれりんが鳴れば朝礼集合、盛っては直して反省会。なおし係まで巻き込まれ、業務はいつも過多になる。 一方、地上では麓の共同保護の家「結び家」が、飯と湯と順番で今日も回る。 パニックは去らない。だけど生活に編み込めば、笑って眠れる。 泣かせないおねぇちゃんと、泣く暇のない日常が出会う、ドタバタほのぼのハイファンタジー。

本文

角の朝は、静かだった。

板は板。釘は少し。木札は一枚。箱は閉じてる。欠けの石は欠けたまま。

静かだと助かる。助かるって言うな。胸の中で助かる。

……のはずが、今日は静かなのに“音”が増えた。

とん。

とん。

とん。

木を叩く音。釘が入る音。

直し屋の人が角に来て、板の前で腕まくりをしていた。

「……板、替える」

直し屋の人が一語だけ言った。

それだけで分かる。分かるって言うな。胸の中で分かる。

今までの板は、薄い。軽い。軽いのは助かるが、軽いと風に負ける。

紙も木片も、軽いと飛ぶ。飛ぶと拾う。拾うと口が増える。増やすな。

板番のおばさんが腕を組んで見ている。顔が「分かってる」。

その横で、落とし物箱は閉じている。閉じている箱は良い。開きっぱなしは増える。

レンカが息を吸って口を押さえた。えらい。

「……正式っぽい」

「言うな」

ユリネが即座に刺す。

「……胸の中で、正式」

「胸の中なら勝手にしろ」

正式っぽい、が危ない。

正式っぽいと、人は説明を足したくなる。

説明を足すと、板が板じゃなくなる。欄になる。欄は増える。増やすな。

案の定、ミナギが目を輝かせた。輝くな。

「おっ! じゃあ“使い方”書こうぜ!」

「書くな」

ユリネが短く切った。

「えっ、でも初めての人困るじゃん」

「困るって言うな」

「……胸の中で困る」

「胸の中でも言うな」

タケルが真顔で板の前に立った。

立ち方が“壁”じゃない。“線”だ。

「説明しない」

一言。

怖いのに、刺さらない。生活の怖さだ。

「えっ」

「見るだけで回る」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で回る」

「胸の中なら勝手にしろ」

直し屋の人は、板の角を合わせて、釘を打った。

とん。

とん。

とん。

板が“座る”音がする。座ると落ち着く。落ち着くと、手が増えない。

でも増えるのは、ここからだ。

板が新しくなると、人は“何を掛けるか”を増やしたくなる。

「ここ、朝市」

「ここ、井戸」

「ここ、湯屋」

「ここ、落とし物」

「ここ、直し屋」

誰かが指で空中を区切って言い始めた。

区切り。

危ない。

区切りは欄の入口だ。入口が開くと、欄が増える。やめろ。

「区切るな」

ユリネが短く言った。

「えっ、でも分かりやすい」

「分かりやすいって言うな」

「……助かる?」

「助かるのは“薄い板”だ」

板番のおばさんが、板の端を指でとん、と叩いた。小さい音。呼び笛にならない。

「掛けるのは木片一枚」

言い切りそうになって、おばさんは言い直す。

「……今日は、それで回す」

今日だけ。

その言い方は増えない。助かる。助かるって言うな。

直し屋の人が、板の上に小さな釘を一本だけ打った。

一本だけ。

一本だけなら増えない。

釘が一本だと、掛けられるものも一本だ。

そして、木札が一枚だけ掛かる。

いつもの字。小さい。角ばってる。

見る

「……戻った」

ハルが小さく言いかけて、口を押さえた。えらい。

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で戻る」

「胸の中なら勝手にしろ」

戻ったのは“使い方”じゃない。

戻ったのは“口の数”だ。

見る、があるだけで、口が増えにくい。

……なのに、正式っぽい板は、正式っぽい欲を呼ぶ。

「でもさ、“掲示板”って書いとけばさ」

誰かが言った。

名前を付ける。

危ない。

名前を付けると、説明が欲しくなる。説明が欲しくなると、紙が増える。紙が増えると、板が欄になる。

「書くな」

ユリネが短く言った。

「えっ」

「見れば分かる」

タケルが真顔で重ねた。

見れば分かる、が言えると、板は軽いまま。

そこへ、初めてっぽい人が来た。

朝市籠を抱えた若い人。目が泳いでいる。泳ぐ目は口を増やす。

「これ、何……?」

説明しろ、って顔だ。

説明しないのが今日の回。

でも冷たくしない。暗くしない。

コトが笑顔のまま、指先だけで木札を示した。

見る。

それだけ。

言葉を足さない。

若い人は板を見る。

見る、の札を見る。

それから落とし物箱を見る。欠けの石を見る。

角を見る。

「……見る、ってことか」

肩が落ちた。

肩が落ちると、口が増えない。増えないと角が軽い。

ミナギが感動して言いかけた。

「うわ、説明無しで通った!」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で通る」

「胸の中なら勝手にしろ」

通ったなら次。

次は、誰かが“掲示したい”を持ってくる。

案の定、紙が来た。

紙一枚。端がきっちり。文字が小さい。

紙の顔が「丁寧」だ。丁寧は増える入口。

「これ、貼っていい?」

言い方が確認で助かる。断定じゃない。

でも貼るは危ない。貼ると残る。残ると増える。増えると欄になる。

「貼るな」

ユリネが短く言った。

「えっ、でも」

「でもじゃない。板は掛ける」

板番のおばさんが短く言う。

貼らない。掛ける。

掛けるなら外せる。外せるなら増えない。

直し屋の人が、板の横に小さい木の輪を一つだけ付けた。

輪。

輪は固定じゃない。ひっかけるだけ。外せる。

「紙は輪に」

直し屋の人が一語じゃなくて二語で言った。

でも短い。短いなら刺さらない。

紙は輪にひっかけられた。

ひっかけた瞬間、通りの人が寄りかける。寄ると背中が詰まる。詰まると口が増える。

「近い」

板番のおばさんが短く言った。

短いから刺さらない。刺さらないのに、半歩下がる背中が増える。

半歩下がるなら、角は回る。

紙の内容は、読まれない。

読まれない? いや、読ませないんじゃない。

“読む前に増やさない”が先だ。

コトが、紙を指で示して、笑顔で一言だけ言った。

「見る」

それで終わる。

読む人は読む。読まない人は行く。

口が増えない。

相乗は結果一行でいい。今日はこれだ。

輪があると、紙が増えないまま“消える”。

……でも増えるのは人だ。

紙があると、角を通る人が「何?」って寄る。寄ると、朝市の入口が薄く前倒しになる。前倒しになると混ざる。混ざると豆が転がる。ころん。やめろ。

「拾う!」

ミナギが言いかけて、

「拾うな」

ユリネが刺す。

「えっ、でも豆!」

「本人が拾え。周りは動くな」

タケルが真顔で豆の逃げ道だけ足で止める。

手を出さない。足だけ。足は偉い。

落とした人が拾って終わる。終わりがあると増えない。

板番のおばさんが、紙を輪から外した。

「今日だけ」

短い。短いと揉めない。

外すと、人が散る。散ると角が角に戻る。戻るって言うな。胸の中で戻る。

「えっ、もう外すの?」

紙の人が言う。

不満じゃない。驚きだ。驚きは増える入口になりやすい。

ここは柔らかく返す。

「外すのも掲示」

コトが笑って言った。

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で外す」

「胸の中なら勝手にしろ」

紙は紙の人に戻された。

戻すと、責任が板に生えない。

板は軽いまま。軽いのは正義。正義って言うな。

昼前、板は落ち着いた。

釘は一本。

木札は一枚。

輪は一つ。

それだけ。

それだけで、角は回る。

レンカが小さく言った。

「正式にしたのに、説明しなかった」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で、しない」

「胸の中なら勝手にしろ」

タケルが真顔で頷く。

「説明が無いと、噂も太らない」

「言うな」

「……胸の中で太らない」

「胸の中なら勝手にしろ」

家に戻ると、鍋が鳴っていた。

ごっちゃ煮スープの湯気が上がる。

湯気は増えていい。増える湯気は生活の勝利だ。

ミナギが椀を取ろうとして、

「順番」

ユリネが一言。

「……はい」

ミナギが言い直す。言い直せるなら勝ち。

コトが笑って言った。

「板、かっこよくなったね」

「かっこよくするな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で、かっこいい」

「胸の中なら勝手にしろ」

ハルが小さく頷く。

「……輪、助かる」

「助かるって言うな」

「……胸の中で助かる」

「胸の中なら勝手にしろ」

シノがぼそり。

「……紙、増えなかった」

レンカが小さく宣言して、すぐ口を押さえた。

「今日、“使い方”書かなかった!」

「書きかけた」

ミナギが真顔で言いかけて、

「未遂って言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で未遂」

「胸の中でも言うな」

刺さらない笑いが湯気に混ざって、台所が軽くなる。

正式にした。

でも重くしない。

説明しないで回るのが、一番の“正式”だった。

ユリネが短く言う。

「飯! 湯!」

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