欠けの前で“待つ”が増えそう

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/17 📚 シリーズ: 泣かせない係のおねぇちゃん、世界を盛りすぎる 📝 3,663文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

真昼山の山頂に、ひとりの子どもが降り立った。 名はハル。泣きそうなほど眩しい朝日を見上げたその瞬間、世界は“きれいすぎる”方向へ盛られてしまう。音は響きすぎ、匂いは良すぎ、善意は増えすぎる。 原因は神界の「泣かせない係」。 生活感のあるお役所みたいな職員室で、主犯神アマネが今日も宣言する。 「おねぇちゃんに、まかせて!」 涙ゼロを目指すあまり、世界を盛りすぎて大パニック。ゆれりんが鳴れば朝礼集合、盛っては直して反省会。なおし係まで巻き込まれ、業務はいつも過多になる。 一方、地上では麓の共同保護の家「結び家」が、飯と湯と順番で今日も回る。 パニックは去らない。だけど生活に編み込めば、笑って眠れる。 泣かせないおねぇちゃんと、泣く暇のない日常が出会う、ドタバタほのぼのハイファンタジー。

本文

角の朝は、静かだった。

板は板。釘は一本。木札は一枚。輪は一つ。箱は閉じてる。欠けの石は欠けたまま。

静かだ。静かって言うな。胸の中で静か。

静かなのに、欠けの前だけ、人がいる。

いるだけ。話してない。怒ってない。泣いてない。

なのに、いる。

いるってことは、そこに“待つ”が生まれている。

「……欠け、人気」

ハルが小さく言いかけて、口を押さえた。押さえなくていいのに押さえた。癖だ。

「言うな」

ユリネが即座に刺す。

「……胸の中で人気」

「胸の中なら勝手にしろ」

欠けの石は、分からないものを置く場所。

置きっぱなしにしないための場所。

“今じゃない”を置く場所。

だったはずが、今日は“待つ人”が置かれているみたいになっている。

欠けの前で、若い人が指をもじもじさせている。

その隣で、おばさんが腕を組んでいる。

さらに隣で、子どもが欠けを覗き込んでいる。

覗き込むと手が出る。手が出ると拾う。拾うと増える。増やすな。

「触るな」

ユリネが短く言った。

短いから刺さらない。刺さらないのに、子どもの手が止まる。止まれるなら勝ち。

レンカが息を吸って口を押さえた。えらい。

泣かせない係の肩が上がりかけている。上がると走る。走ると「どうしたの」になる。「どうしたの」は口が増える入口だ。

止まれ。

コトが笑顔のまま、一歩だけ欠けへ近づいた。

一歩だけ。増やさない距離。

「待ってるの?」

言い方が軽い。軽いのに、場が少し硬くなる。硬くなるのは、みんな“待ってる”って言いたくないからだ。言いたくないものほど口が太る。太らせるな。

若い人が小さく言った。

「……直し屋さんに、これ返したくて」

手の中に、小さな金具。留め具。

昨日の“箱を挟む”のやつだ。

返したいのは良い。良いけど、ここで待つと欠けが“返却所”になる。

返却所は板を呼ぶ。板は欄を呼ぶ。欄は増える。やめろ。

「待つな」

ユリネが短く言った。

「えっ、でも今じゃないと会えないかも」

「今って言うな」

「……胸の中で今」

「胸の中でも言うな」

おばさんが腕を組んだまま言う。

「私は湯屋番に返したい。手ぬぐい」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で手ぬぐい」

「胸の中なら勝手にしろ」

子どもが欠けを覗き込みながら、嬉しそうに言った。

「ぼくは待ってない! 見てるだけ!」

「言うな」

「……胸の中で見るだけ!」

「胸の中でも言うな」

見てるだけの子どもが一番危ない。

見てるだけ、は触る前の顔だからだ。

触る前の顔には、見えるものを置かない。置くと拾う。拾うと増える。増やすな。

タケルが真顔で欠けの石を見た。

欠けの上に、何も無い。

なのに人がいる。

“物が無い待ち”が始まると、次は“物を置いて待つ”が始まる。

始まったら終わり。終わりって言うな。胸の中で終わり。

「……欠けに物を置かない」

タケルが言いかけて、ユリネの視線で口を閉じた。

代わりに、欠けを指でちょん、と示した。

指先だけ。増えない。

コトが笑顔のまま、若い人の金具を見て言った。

「それ、箱を挟めるよ」

「箱、いま閉じてるし」

「閉じてるのが正しい」

コトの言い方が生活だ。刺さらない。

板番のおばさんが腕を組んで、欠けの前へ一歩だけ来た。

一歩だけ。増やさない距離。

「欠けの前で待つな」

言い切りそうになって、おばさんは言い直した。

「……今日は、待たないで回す」

今日だけ。

今日だけは助かる。決まりにならないからだ。

決まりになると守れない日が来る。守れない日は揉める。揉めると暗くなる。暗くしない。

「でも待たないって、どうするの」

若い人が言う。困り顔。困り顔は刺さる。刺さるとレンカが走る。走るな。

レンカは息を吸って止めた。えらい。

代わりに、ハルが小さく言った。

「……今じゃない、は胸」

「胸?」

「胸に入れて帰る」

ハルの言い方が静かで強い。強いって言うな。胸の中で強い。

ユリネが短く重ねる。

「待つなら、持て」

「持つなら、帰れ」

言い方が硬いのに刺さらない。生活向きの硬さだ。

おばさんが眉を上げた。

「でも返したいのに」

「返すのは返す。待つのは待つ」

ユリネが短く切る。

「混ぜるな」

混ぜるな。

今日はこの一言が芯だ。

返したい気持ちと、待つ行動を混ぜると、欠けが“待ち所”になる。

待ち所になると、人が溜まる。溜まると道が死ぬ。死ぬって言うな。止まる。

そこへ、直し屋の音が近づいた。

こり、こり。

すっ。

とん。

直し屋の人が、角の端を通る。

通るだけ。止まらない。

止まらないのが、逆に“会えそう”を生む。会えそうは待つを生む。増やすな。

若い人が半歩前へ出かけて止まった。止まれるなら勝ち。

コトが笑顔のまま、指だけで箱を示した。

落とし物箱。閉じてる。

閉じてる箱の前には、小さい木皿が一枚だけ置かれている。箱を挟むための“ここ”。

今日だけの“ここ”。

「ここに置けば、直し屋さんが通った時に取れる」

コトが言った。

「でも勝手に取られない?」

若い人が不安顔。

不安は分かる。分かるけど、ここで“守り”を増やすと終わる。守りが増えると決まりが増える。決まりは守れない。

だから短く。

「板番が見てる」

ユリネが言った。

言い方が雑で、でも効く。雑な正しさは救命具だ。

板番のおばさんが頷いた。

「見る」

一語。

一語で足りる。足りるって言うな。胸の中で足りる。

若い人は金具を木皿に置いた。

置いたら手を離す。

手を離すと、責任が木皿に生えない。木皿は“ここ”でしかない。

ここでしかないと、太らない。太らないって言うな。胸の中で太らない。

次は湯屋番の手ぬぐいだ。

おばさんが口を開けかけて、止めた。止まれるなら勝ち。

代わりに、空中で手ぬぐいの形だけ指で描いて、すぐ手を下ろした。

指は太らない。口ほど増えない。

板番のおばさんが一回だけ頷いた。

「夕方」

一語。

夕方、と言えると朝の待ちが消える。消えるって言うな。胸の中で外す。

問題は子どもだ。

子どもは待ってないと言いながら、欠けの前から離れない。

離れないと、そこが待ち所になる。待ち所になると、人が「じゃあ私も」になる。なると増える。

「坊主、欠けは見るな」

ユリネが言いかけて、言い直す。

「……見るだけで止めろ」

「見るだけ!」

子どもが言って、背中に手を回した。えらい。早い。

レンカが息を吐いた。

「欠け、待ち所じゃないんだね」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で待ち所」

「胸の中でも言うな」

タケルが真顔で、欠けから一歩だけ離れた場所に立った。

立ち方が線だ。

線があると、人は勝手に欠けの前を空ける。

空けると、道が太る。

太ると、朝市の籠がぶつからない。

ぶつからないと、豆が転がらない。ころん、が来ない。

相乗は結果一行でいい。今日はこれだ。

欠けの前を空けたら、口が減った。

……なのに、まだ小さな芽が残る。

芽って言うな。胸の中で芽。

木皿が便利に見えた人が、別の物を持ってきたのだ。

「これも、ここに置いとけば返せる?」

小さい鍵。

鍵は物だ。物は箱。口は結ぶ。

でも“返せる”が増えると木皿が“返却棚”になる。棚は増える。増えると欄になる。やめろ。

「置くな」

ユリネが短く言った。

「えっ」

「箱を挟むのは“今ここで戻せる時だけ”」

言い切りそうになって、ユリネは言い直す。

「……今日だけ」

「今日だけ」

コトが笑って復唱して、場が少し柔らかくなる。刺さらない笑いは助かる。

板番のおばさんが鍵を見て、短く言った。

「箱」

一語。

鍵を持ってきた人が戸惑う。

「箱って、閉じてるし」

「閉じてるのが箱」

おばさんの言い方が雑で正しい。雑は救命具だ。

「朝と夕方、一回だけ」

おばさんが言いかけて、ユリネの視線で言い直す。

「……胸の中で一回だけ」

「胸の中なら勝手にしろ」

いつものやり取りが戻ると、角が角に戻る。

鍵の人は、結局、鍵をポケットにしまった。

「……夕方、来る」

「よし」

ユリネが短く頷く。

しまえるなら増えない。

増えないなら欠けの前も太らない。

昼前、直し屋の人が角を通った。

木皿の金具を見て、頷いて、取っていった。

声は出ない。

頷きだけ。

終わり。終わりがあると増えない。

夕方、湯屋番が角を通った。

ハルが小さく、

「……手ぬぐい」

一回だけ言う。

湯屋番が頷いて、脱衣所から手ぬぐいを持ってきて、持ち主へ渡した。

渡したら終わり。

欠けの前に人が溜まらない。

待たないで回る。

それが今日の勝ち筋だ。勝ちって言うな。胸の中で勝ち。

家に戻ると、鍋が鳴っていた。

ごっちゃ煮スープの湯気が上がる。

湯気は増えていい。増える湯気は生活の勝利だ。

ミナギが椀を取ろうとして、

「順番」

ユリネが一言。

「……はい」

ミナギが言い直す。言い直せるなら勝ち。

レンカが小さく宣言して、すぐ口を押さえた。

「今日、欠けの前で待たなかった!」

「待ちかけた」

ミナギが真顔で言いかけて、

「未遂って言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で未遂」

「胸の中でも言うな」

タケルが真顔で言った。

「欠けは待つ場所じゃない。胸が待つ」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で胸」

「胸の中でも言うな」

コトが笑って、刺さらない笑いが湯気に混ざった。

ハルが小さく頷く。

「……今じゃない、が言えた」

シノがぼそり。

「……紙、出さなかった」

ユリネが短く言う。

「飯! 湯!」

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