メリークリスマス!
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
大学2年生の橘ひなたは、ごく普通の女子大生。ある日、学校一のイケメンと噂される林武蓮と同じゼミになったことで、自然と彼を意識するようになる。 しかし蓮は恋愛に全く興味がなく、女の子から告白されても断り続けるクールな男。ひなたが話しかけても素っ気ない態度ばかり。 それでも一緒にいる時間が増えるうちに、ひなたは彼の不器用な優しさに少しずつ惹かれていく。 恋愛に無関心なイケメンが、初めて「恋の病」にかかるまでのドキドキラブコメ!
本文
クリスマス当日、ひなたはバイトのシフトが夕方までだった。
着替えようとしたが、待ち合わせまで時間がなかった。店長に事情を話すと、「まあいいよ、可愛いし」と笑われた。結果、ひなたはサンタコスのまま待ち合わせ場所へ向かうことになった。
林武くんに見られるの、また恥ずかしいな。
でも仕方ない。時間がないのだから。
待ち合わせ場所の駅前に着くと、林武がすでに来ていた。コートのポケットに手を入れて、静かに立っている。その姿がイルミネーションの光に照らされていて、ひなたは一瞬足が止まりそうになった。
「……またその格好か」
林武がひなたを見て言った。
「バイトから直接来たから。文句言わないでよ」
「……文句は言っていない」
「じゃあいい」
林武はそれ以上何も言わなかった。でも、視線をすぐに逸らしたのがひなたには見えた。
二人で並んでイルミネーションの並木道を歩いた。青や白の光が木々を包んでいて、辺りがふんわりと明るかった。平日なのに人は多く、カップルや家族連れが行き交っていた。
「きれいだね」
「……ああ」
「来てよかった?」
林武が少し間を置いてから答えた。
「……悪くない」
ひなたはそれを聞いて、小さく笑った。この人の「悪くない」は、かなり良い、という意味だとわかるようになっていた。
しばらく歩いた後、ひなたはケーキ屋の前で立ち止まった。ショーウィンドウに、クリスマスケーキが並んでいた。
「ケーキ、買っていかない?」
「……どこに」
「私の家。ホールケーキだから、二人で食べようかなって」
言ってから、ひなたは少しドキドキした。家に誘う、というのは、さすがに大胆だったかもしれない。でも、言ってしまった。
林武はひなたの顔を見て、それから少し考えるような間があった。
「……わかった」
あっさりと頷いた。ひなたは内心で胸をなでおろした。
ケーキ屋に入って、ひなたはショーケースを覗き込んだ。いちごのショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン。どれも美味しそうで迷った。
「林武くん、何が好き?」
「……どれでも」
「それじゃ決められないよ」
「……じゃあ、ショートケーキ」
「決まり」
ひなたはショートケーキのホールを注文して、会計を済ませた。林武が財布を出そうとしたが、ひなたは首を振った。
「奢る。クリスマスプレゼント」
「……いらない」
「もう買ったから」
林武は小さく息を吐いたが、それ以上は何も言わなかった。
ひなたの部屋に着くと、林武は前回と同じように玄関で一瞬止まった。でも今回は躊躇なく入ってきた。慣れてきたのかもしれない、とひなたは思った。
「座ってて。お皿持ってくる」
「……手伝う」
「いいよ、狭いから」
ひなたはキッチンでお皿とフォークを用意した。ケーキの箱を開けると、きれいに飾られたショートケーキが出てきた。ろうそくはないけれど、それでも十分クリスマスらしかった。
テーブルに並べて、二人で向かい合って座った。
「じゃあ、メリークリスマス」
「……メリークリスマス」
林武が静かにそう言った。その言葉が、思ったより自然に聞こえて、ひなたはなんだか嬉しくなった。
ケーキを食べながら、二人は他愛のない話をした。講義のこと、バイトのこと、年末の予定。特別な話題ではなかった。でも、部屋の中に流れる空気が、いつもとは少し違う気がした。
「美味しい?」
「……ああ」
「よかった」
窓の外には、遠くにイルミネーションの光が見えた。部屋の中は暖かくて、静かで、ひなたにとってはそれだけで十分すぎるクリスマスだった。
一緒にいられてよかった。
その気持ちだけが、静かに胸の中に広がっていた。
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