失われた星の名前を探して
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
それは、誰かの願いが灯した小さな奇跡。ショートショート
本文
失われた星の名前を探して
― 名前を奪われた騎士 ―
魔物との戦いで、若い騎士は自分の名前を「誓い」として代償に捧げた。それきり、名前を思い出せない。誰のために剣を振るっているのかもわからないまま、ただ命令のとおりに刃を振り下ろす日々。まるで糸で吊られた人形のようだった。
鎧の隙間には、細かな光の粒がわずかに溜まっている。忘れられた記憶の欠片。誰にも見えないほど小さいそれを、旅人はそっと指先ですくい上げた。
「これは、あなたのものです」
粒は指の中で淡く形を変え、星屑になっていく。旅人はそれを騎士の胸元へと戻した。
騎士の中に、ふいに何かが流れ込んでくる。名前ではない。もっと熱く、もっと単純な何か。まだ誰かの名も知らなかった頃、ただ「守りたい」と思ったあの衝動だった。
剣を握る手から、力が抜けていく。今まで何のために振るっていたのか、その答えがようやく胸の内に落ちてきた。
「思い出した。俺が最初に、剣を取った理由を」
騎士は剣を鞘に納め、地面に膝をつく。長い戦いの中で忘れていた土の匂い、風の冷たさ、そのすべてが急に鮮明だった。彼はゆっくりと立ち上がり、来た道を振り返る。
故郷は遠い。それでも、帰る場所があるということが、これほど確かに感じられたのは久しぶりだった。
― 星座を編む星見の少年 ―
夜空から、星が一つ、また一つと消えていく。誰も気にとめない小さな異変に、一人の少年だけが気づいていた。彼は空き地に光る石を拾い集め、夜ごとに積み上げている。星をこの手で留めておきたい一心で。
石の塔は日に日に高くなっていくが、星はそれでも消え続ける。少年の指先は擦り剥け、頬には土埃がついたままだった。
「その塔じゃ、星は留まらないと思うよ」
声をかけられ、少年は顔を上げた。旅人は懐から小瓶をいくつも取り出す。中に詰まっているのは、旅の途中で人々からそっと預かった、小さな願いの光だった。
「これを、流し込んでごらん」
少年が瓶の中身を石の隙間に注ぐと、塔全体がふわりと発光する。次の瞬間、光は空へ向かって一筋の柱となって伸びていった。消えかけていた星座が、一つ、また一つと形を取り戻していく。
少年はしばらく声も出せずにいた。積み上げてきた石よりも、旅人が集めてきた見知らぬ誰かの願いの方が、星をつなぎとめる力を持っていた。石を積むことに意味がなかったわけではない。ただ、星を留める方法が違っていただけ。
「僕がやるべきだったのは、石を積むことじゃなくて」
少年はそこで言葉を止め、空を見上げた。願いを星に変えること。それが、彼がずっと探していた答えだった。
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騎士は故郷の土を踏み、忘れていた景色の中に立つ。少年は夜空を見上げ、かつてより多くの星が瞬いていることに気づく。
旅人は誰にも見送られることなく、二人が灯した新しい星の下を歩き続ける。星の光は彼の輪郭を淡くなぞり、やがてその背中は光の粒子に溶けるようにして、次の見知らぬ世界へと消えていった。