その1:2026年7月6日月曜日・G県N市新町交差点「寄合館」①
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Kindle電子書籍「心(理×)霊カウンセラー」のスピンオフ第2弾 街の何でも屋。自称探偵・原アイラが今度は蹴っ飛ばす!? 「謎を解かない系探偵」が挑む1999年からの警告とは?
本文
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2026年7月6日月曜日。外は弱い雨が降り、【シトシトシトリ】と耳心地の良い雨音を立てている。今年は梅雨時季特有の、日照りがなくとも蒸し暑さが漂う空気が心なしか弱く、意外なほど過ごしやすい日が続いている。
これを季節に見合わぬ“ちょうどいい暑さ”と表現しても、大げさとは言えそうにない。だいたい日によっては夜に寒いと感じることもあるような、そんな涼しさを通り越す粘りを見せる寒暖差の大きい昨今の春が、まだどこかから覗いているかのようだ。
そんな最中、いつものように店内の時計が10時を示したところの喫茶「寄合館」。
一年ほど前にできたこの小さな喫茶店は、G県N市駅前・新町交差点付近にある。五席のカウンター、二人掛けのテーブル席が二つ。こじんまりと言うべきか、その広さは八畳ほどにも見え、どちらかと言えば「狭い」という表現が正しいだろう。だが、その手狭ささえ店の味として成立させてしまう、白を基調とした落ち着いた内装の妙がある。
通り側は大型のガラス面とガラス扉。陽当たりは良さそうだが、視線を遮るものは何もない。いわゆる“丸見え”だ。しかし、喫茶店の外観としては珍しいわけでもなく、むしろよくある形と言える。
そんな寄合館の店内は、この時間にしては“珍しく”とても賑やかな話し声と笑い声。その中に何度も「なつかしい!」という言葉が織り交ぜられていた。
いつもであればカウンターには、寄合館の近所に住む常連客が腰を下ろし、この店の店主・荻原ミドリと世間話をしながらコーヒーを飲む穏やかな時間が流れている頃。だが今日は、すでにカウンターの五席が埋まっていた。
そこに【ズラーン】と並んでいるのは、N市駅前に店を構える「駅前商店街店主夫人」の面々。全員ミドリと同年代の彼女たちだが、明らかにミドリだけ年相応ではない、年齢詐称的な若い見た目をしている。とはいえ、カウンターに並ぶ五人も、間違いなくそれぞれ年相応の魅力を持った女性たちである。
そんな彼女たちの会話を、二人掛けのテーブル席で対面に座り、カウンター席から聞こえてくる話を時に微笑ましく、時に苦笑いしながら聞いている二人がいた。
◇◆◇
G県N市駅前ヨミノカウンセリング室の室長、黄泉野カレンと、探偵を自称する何でも屋・原アイラの二人だ。
黒髪のボブヘア、黒のクルーネックシャツに黒のデニムパンツ。歩きやすさを重視した黒のスニーカー。そして、明らかに異質な“瞳の色”を隠すための黒ぶち眼鏡を掛け、丁寧な所作、丁寧な口調で話をするカレン。
長い白髪のポニーテール、胸元が大きく開いた白のTシャツにネイビーのダメージデニム。黒革のロングブーツというワイルドさを強調する服装で、女性だが一人称は「俺」。綺麗な声ではあるのだが、口調は男性そのものという印象のアイラ。
はたから見れば、どうしてこの二人がいつも一緒にいるのかと首をかしげてしまいそうだが、彼女たちはもう“相当長い付き合い”の間柄。
カレンの方が自称34歳と、自称29歳のアイラより少し年上なのだが、まるで同い年かのように言葉を交わす二人。そして……彼女たちも、N市に男女問わず多く存在する“年齢詐欺師”と呼ばれる人物である。
カレンの定休日である月曜日。四月頃から二人はこの時間にコーヒーを飲みつつ世間話に花を咲かせたり、時に“仕事”の情報交換をしたりと、寄合館で顔を合わせることが多くなっていた。元々はアイラがここの常連客だったが、今ではカレンも、そしてカレンの営むカウンセリング室に勤める新人カウンセラー・真城ナミも、13時から始まる仕事前のランチによく顔を出すようになっていた。
「そういえば、今日はナミちゃんは?」
「友達とランチだって。伊那市まで行くって話だったけど。」
賑やかなカウンターとは対照的に、静かに交わされる二人の会話。カレンの後輩、24歳のナミがこの中に加わると、カウンターと遜色のない賑やかなテーブル席になるのだが、彼女は友人とお出かけ。それを聞いたアイラは、【キラリッツ】と何かを閃き、パッチリと青い瞳を光らせた。
「へえー、いいねぇ。なあ、カレン。俺たちもこれからどっかに出かけるのはどうよ?」
ナミは友達とランチ、それじゃあ俺たちも!と、グッと前のめりに、それでも今という静かな雰囲気を崩すことのない絶妙な押し感で、カレンを【スパーン】と見つめるアイラ。そんな様子の彼女に、カレンはニッコリと笑みを投げかけ、コーヒーを口にした。
「うーん、今日はいいかな。昼からゆっくり映画見ようと思っていたし。」
(ック…映画か!となると今日はダメかぁ…だが!まだまだ!!)
「そっかー。じゃあ、また来週とか?」
「来週、いいね。じゃあ、来週は久しぶりに。」
「OK!決まりだな!」
アイラは内心では右手の拳をグッと握り、“よっしゃ!”と、この場に漏らすことなく大きな心の声と“約束GET!”の喜びを、表に出さぬようかみしめていた。
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