その1:2026年7月6日月曜日・G県N市新町交差点「寄合館」②
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Kindle電子書籍「心(理×)霊カウンセラー」のスピンオフ第2弾 街の何でも屋。自称探偵・原アイラが今度は蹴っ飛ばす!? 「謎を解かない系探偵」が挑む1999年からの警告とは?
本文
=2=
「そういえば、なつかしいものと言えば、先週実家の倉庫の片づけをしていたらね…」
寄合館カウンター席。横に並んだ五席に座る“N市駅前商店街のマダムマドモアゼル”たちと、カウンター越しに向き合い談笑する店主・荻原ミドリは、何かを思い出したように裏の厨房に入り、一冊の雑誌を持って戻ってきた。
雑誌の大きさは概ねA4サイズ。それほど分厚いというものではないが、薄っぺらなものでもない。ただ、一見するだけでも、その見た目から“かなり古いもの”ということは誰もが見て取れる、そんな印象だった。
【ソパーン】と、それをどこか自慢げな笑みを浮かべて五人の前に差し出すミドリ。差し出されたそれに【ムムゥ】と一斉に注目する五人のマダムたち――
「うわぁー!なにこれ、あったあった―なつかしい―!ヌー?じゃない!」
ミドリが差し出した古い雑誌。視界に入った途端、強烈なインパクトが伝わってくる表紙に、ドン!と大きく描かれた表題と、雑誌名である「ヌー?」。1979年創刊から現在もオカルトファンのバイブルとして、そして“世界一怪しい雑誌”として愛される絶大な人気を誇る雑誌である。
見た目年齢30代でもミドリは51歳。オカルトブーム真っただ中の年代に思春期を過ごした、カウンターを囲むマダムたちには、なつかしく馴染みのある雑誌。その場は一気に1980年代後半の中学生時代へと時間をさかのぼる賑やかさ。学校の休み時間の雑談さながらの様相を【ワッホホーン】と見せていた。
「そうそう、なつかしいでしょ。世界一怪しい雑誌、月刊ヌー?それもねー、ここ見てよ……」
ミドリはそう言って、手に持つ「月刊ヌー?」の背表紙を指差した。そこを【ズン】と注目するマダムたちの視線。そして 3.16 秒の沈黙の後……
「1999年7月号!!!」
高らかに響くその言葉に、テーブル席のアイラとカレンの二人も耳をピクリと反応させたのだが、今はカウンター席の話である。そのカウンター席は、このパワーワードとも言うべき言葉に、さらに盛り上がっていた。
「1999年って、27年前の雑誌!? よくあったねー!」
「1999年7月って、あれの時でしょ! えっと、ナスットラドスム?」
「違う違う! ノストラダムスの大予言! 何そのナスットラってー。」
「恐怖の大王だったよねー。結局何もなかったけど、そのあとすぐ2000年問題の話題になってー。」
「ほんと、続いたよねーいろいろ。」
なつかしそうに、そして青春時代の思い出を共にした会話が、カウンター席からテーブル席に聞こえてくる。29歳と34歳の二人には“聞いたことはある程度の話題”。だがその会話に耳を傾ける様子は、“そんな時代もあったね”と、どこか苦笑いをしているようにも見えた。
◇◆◇
L’an mil neuf cens nonante neuf sept mois, Du ciel viendra un grand Roy d’effrayeur, Ressusciter le grand Roy d’Angolmois, Avant apres Mars regner par bon heur.
(1999年7の月、空から恐怖の大王が降りてくるだろう。アンゴルモアの大王を復活させるために。その前後の期間、マルス(戦の神)が幸福の名のもとに支配するだろう。)
ノストラダムスの大予言。16世紀の占星術師ミシェル・ド・ノストラダムスが著した『百詩篇集』に含まれる曖昧な四行詩を、後世が“未来予言”として解釈したもので、特に有名なのが「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」と読める詩。これが日本では終末論として大きな社会現象になった。
ノストラダムス予言が日本で流行した理由は、当時の社会不安とメディディアの影響が重なったためと言われている。
1970〜90年代は公害や経済不安などが続き、人々の未来への不安が高まっていた。そこへテレビや雑誌がこの予言を大きく取り上げたことで全国的な話題となり、社会現象として爆発的に広がることになったのだが……
ノストラダムスの大予言の大流行は、社会にいくつかの深刻な問題を生み出すことになった。
「1999年に世界が滅亡する」という“終末論”が広まり、テレビや雑誌が恐怖を強調した演出を繰り返すことで、科学的根拠のない情報が大量に拡散。その結果、未来への悲観が強まり、若者や子どもたちに様々な心理的負担を与えることとなり――「1999年に死ぬのなら勉強しても、努力しても意味がない」と語る人も現れ、教育・仕事への意欲低下、無謀な散財、精神的な不安障害の悪化が社会問題になった。
商業的な煽りも問題で、出版社やメディアは恐怖を刺激するような記事や番組を次々と発信し、恐怖を商品化する“終末ビジネス”が成立。これにより、事実と娯楽の境界が曖昧になってしまったことから、批判的思考が弱まる傾向が生まれることになった。
さらに、終末論が社会に浸透したことで、様々なカルト宗教が勢力を拡大する土壌となり、様々な問題、さらには事件へとつながっていくことに――
恐怖と不安を増幅させ、社会の判断力を鈍らせる文化的影響を残した当時のオカルトブームを俯瞰して楽しめた者、心理的影響を強く受けそれを鵜呑みにしてしまった者――
1990年代。そんな時代にこの街の心理カウンセラーとして様々な相談を受けてきたカレンにとって、1999年とは……あまりいい思い出のない時代だったこと。カウンターで盛り上がる思い出話が聞こえてくる中、なんとも言えない表情のカレンと、それを知るアイラの苦笑い。
カウンター席の花柄オーラの踊る賑わいとは対照的に、テーブル席には唐草模様のオーラが立ち込めているかのように、どんよりと静かな……静かな……閑けさに包まれていた。
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