その1:2026年7月6日月曜日・G県N市新町交差点「寄合館」④
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Kindle電子書籍「心(理×)霊カウンセラー」のスピンオフ第2弾 街の何でも屋。自称探偵・原アイラが今度は蹴っ飛ばす!? 「謎を解かない系探偵」が挑む1999年からの警告とは?
本文
=4=
寄合館を出た二人は、昼からのそれぞれの予定へ。カレンは月曜という休日の午後を「映画鑑賞」で過ごし、そしてアイラはというと……予定がない。傘をさすほどでもない弱い雨。だが、この天気でバイクを出すのは考え物だ。
つまり、7月6日月曜日の午後。原アイラに予定はなく、雨でバイクにも乗れない。カレンへの誘いも【シャラリ】と断られ――短くそして分かりやすく言ってしまえば「暇」という文字が、今の彼女に最も適して当てはまる。
(俺も、今日は部屋で映画でも見ようか――)
アイラがカレンの「映画鑑賞」に全く乗らなかったのには理由がある。以前、アイラはカレンの部屋で一緒に映画を見る休日を過ごしたことがあるのだが、そのとき視聴した映画を最後まで見ることにアイラが耐えられなかった――。
昔からカレンの映画好きは知っていたが、どこでどうなったのか……ある時期からカレンは大のZ級サメ映画好きになっていた。そしてそれがどんなものかと、一度だけ視聴に付き合い……言葉で言い表せない圧倒的虚無感に【ごぼごぼごぼぶぼ】と激しくおぼれかけたからだ。
カレンはZ級サメ映画の“シュールさが好き”と話していたが――アイラにその言葉は全く響かなかった。
◇◆◇
小雨の降る中、寄合館のほぼ向かい側にあるマンションの部屋に戻ったアイラ。薄曇りの天気で部屋の中は普段に比べ暗い。 照明のスイッチをONにし、寄合館で話の合間にミドリが吐いていたホッという一息から、アイラは自身の休日午後を始めた。
俺も、今日は部屋で映画でも見ようか――と言っても、何を見るか。
愛用しているA5サイズのタブレットを持ったアイラは、リビングのソファに【ドフスワリン】と勢いよく華麗?に座ると、画面を起動して登録している大手の動画配信サービスのアイコンをポンと軽くタップした。
タブレットの画面にずらりと表示される、お勧めの映画、ドラマ、アニメ。いつもであれば迷わずアクション系の洋画を選ぶアイラなのだが、今日はその手が止まっている。それが、明らかに今日の彼女に迷いがあることを物語っていた。
…でも、絶対サメ映画だけはない! ジョーズかメグかディープブルーみたいな映画ならまだしも、カレンに見せられた“え!? サメ男”みたいなサメ映画とかは本気で勘弁してくれ!!
その迷う指先は、サメ映画だけは心底拒否しているのだが――ふらふらと画面を千鳥足の如く彷徨う指先が、普段であれば“99.9989パーセント触れることのないジャンル”を映し出すそれに触れていた。
“オカルト・ホラー”
(寄合館でそんな話を聞き耳していたから、無意識のつもりがどこか意識している……気がするんだよなぁ)
長い白髪を【ムシャモシャ】とかき上げ、普段らしくない自分に【フゥウウウウ】と長い溜息をつくと……彼女は画面上に一つ、妙に目を引くアイコンがあることに気が付いた。そしてこれも、無意識のつもりがどこか意識している気がするものだろうと一蹴しかけたのだが……
「まあ、これにしておくか。」
積極的に選んだのではなく、あくまで消極的選択。そんな気持ちでそのアイコンをタップしたアイラなのだが、結果的にその頃の出来事にじっくりと思いを巡らす、ある意味苦く、ある意味良い時間になることに、この時はまだ気づいていなかった。
タップしたアイコン。そして画面が切り替わる。 そこに大きく表示されたのは、黒い帽子に長い頬髯を蓄えた学者のように見える男の肖像画。
――ミシェル・ド・ノートルダム……ノストラダムス――
タイトルは“ノストラダムス”。1995年に公開された日本の長編ドラマ。再生時間は約2時間。作品の説明を【サラリ】と読んでみると、ドラマというより謎追い歴史ドキュメンタリーにオカルトをミックスしたという印象が強く感じられた。
(正直、趣味じゃないのだけど……このおっさんの話があの頃の世間にどう伝わったのか、あの頃の俺たちがどんな思いを持って世間を見ていたかを思い出すのには丁度いいだろう。再生する!!)
アイラは、愛用のヘッドフォンを着け、画面に表示された「再生」に【ト】と触れた。
◇◆◇
約2時間の視聴。ヘッドフォンから流れる音声。それによって遮られる窓の外の雨音。アイラは思った以上に、タブレットの画面に表示される映像を、ヘッドフォンから流れる様々な説の語りを楽しむことが出来たことに、僅かながら驚きを感じていた。
たしかに、内容の多くには“終末”“滅亡”“災害”“破壊”といった言葉、特に“滅亡”という言葉が妙に耳につくともいえるものだった。だが、その中に短いながらもどことなく【ポッ】と入る現実的な説明もあり、それが「事実と解釈」という、視聴者に考える余地のように感じられた。その点を彼女自身が楽しめたことが、僅かながらの驚きにつながったのだろう。
(でも、それは今だからなんだろうな。)
アイラはふと思う。これは、現在が1995年ではなく2026年であるからこそ言えることなのだと。1999年はもうとっくの昔に過ぎている今となれば、これから起こるかもしれない“予言”ではなく、過去の作品として見られるからこその感じ方であり、1995年にこれを視聴した人々の感じ方ではないだろうことは、考えるより先に体が動くタイプのアイラでも十分想像できることだった。
それと共に、彼女は自身の記憶を呼び起こし、それをゆっくりと辿っていく。 そして1990年代後半――アイラは、【オロビクザワリ】とした、誰がいつ爆発するか気が気でない日々を過ごしていたことを、口をへの字に開いて冷や汗をかきながら思い出した。
◇◆◇
1990年代。当時からアイラは、黄泉野カレン、柴山アオイ、シンジュの夫婦、天野レイアとの付き合いがあった。心理カウンセラー、バーテンダー、エリート会社員と全員職種は違えど、皆、出身地が同じというつながりである。
中でもカレンとの付き合いは最も長く、親密だと自負しているアイラなのだが……この頃のカレンはどこか近づきがたい、負のオーラ――カレン自身が語る「悪気」を漂わせていた。
原因は相談者の激増。
そして彼ら彼女らの相談内容は、終末予言とも取れる1999年への不安、それを好機として湧いた似非霊能者からの被害、終末論を唱える新興宗教に絡んだものなど。 1990年代。この時期に“悪い方向のオカルト”に曝されて心の不調に至った相談者が激増したのだ。
それはアオイ、シンジュ、レイアにも伝播していき、それぞれ何某かの場面でカレンと同じく「悪気」と向き合う場面が多くなったことから、四人とも普段にない【ピリビリピリ】とした雰囲気をまとっていた。
そのせいで、こんな中、いつものように気楽に声をかけていいものかと――アイラは自分の腕っぷしの強さに自信を持っていたものの、同時にここにいる四人は自分より遥かに強いこと、特にいつもニコニコ笑顔で皆の心を【ニャンワリ】と癒してくれるシンジュと、【シャラーン】とクールな顔をして静かにシェイカーを振るイケメンバーテンダー、アオイの二人には、はるか以前こっぴりと絞られている経験がある。
今ここにある緊張の糸を、【パッツリィーン】と張りつめたこの糸を、何かの不注意で切ってしまったら――この中の誰か一人が「悪気爆発」を起こしたら大変だ。少なくとも、自分が四人を止めようとしても無理。冗談抜きで“大霊界まで吹っ飛ばされる”ことが目に見えている!!
(あそこで誰かが爆ぜたら1999年7の月が、別の意味で現実になっていたかもしれないな……)
「おー、怖っ。」
軽く思い出しただけでも、【セスジガゾゾゾ】と悪寒が走る気分のアイラだった。
この中でも比較的早く落ち着きを取り戻し、世間へ呆れるような目を向けていたのは柴山夫婦。そこは、カレン、レイアと比べ二人とも“大人だなぁ”と胸を撫で下ろしたことは、よく覚えている。そしてこれを2000年が来るまで【ズルズルズンヨ】と体がすり減るほど引きずっていったのは――カレンとレイアの二人だった。
このころ、Barアムリタの売り上げはとても良かったという。そして、カレンとレイアの財布事情はというと……仕事の忙しさから収入は増えていたが、そのほとんどがアムリタへと流れていったのは、20年以上経った今でも時折その話題でカウンターに笑いの花が咲き乱れるほどだ。
そして最後に、カレンとレイアも柴山夫婦と同じく、1990年代のオカルトブームとは何だったのかと、呆れ顔で振り返る落ち着きを取り戻したのだった。
◇◆◇
「そんな事もあったなぁ……」
【グンッ】とソファーに背中を預け、んーと両手を上げて伸びをするアイラ。1990年代のオカルトブーム、1999年の予言、その頃の思い出。そして――
『歴史は繰り返すというか、またあの頃みたいに、予言とか都市伝説とか……陰謀? 怖い話って流行っているみたいじゃない。また出てくるのかなぁ、“2026年に死ぬのなら勉強しても意味ないじゃん少年”とか。』
寄合館のカウンター。あの頃の乙女、マダムマドモアゼルたちの会話の中から聞こえてきたそんな言葉が、ふとアイラの思考に降りてくる。
「――歴史は……繰り返すというか、か。」
外から【サラサラ】と聞こえる雨音。そろそろ梅雨明けの声も聞こえてきそうな2026年7の月。アイラはぼんやりと部屋の白い天井を見上げながら、そんな言葉を呟いていた。
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