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第四十一話:同じ客が3回来る

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/20 📚 シリーズ: 継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 📝 2,701文字 ✅ 全年齢

あらすじ

日常に潜む小さな違和感を記録し続けると、100個集めたとき、何かが起きるらしい。 逆行する時計、誰もいない部屋の足音、鏡の中の自分…… でも、最後に待っているのは「終わり」ではなく、君へのバトンだ。 7人の語り部が紡ぐ、永遠に終わらない百物語。 次はお前が観測者になるのか?

本文

これは私が記録した、四十一本目の違和感である。

四十一本目は、コンビニから、来た。

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由香から、連絡が来た。

「夜勤仲間に、変な話をする子がいるんです」

「コンビニで、働いている子です」

それだけだった。

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深夜、その人は、来た。

森下千尋もりしたちひろと名乗った。

二十四歳。コンビニの夜勤バイトを、していると言った。

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「いや、これ、マジで、変なんですよ」

千尋は、開口一番、そう言った。

眠そうな声だった。だが、目だけは、はっきりしていた。

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「普通じゃないですよね、って、思って」

「でも、誰に、言えばいいか、分からなくて」

「由香さんに、話したら、観測者さんのこと、教えてくれて」

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千尋は、バイトを、3つ、掛け持ちしていた。

コンビニ、ファミレス、配送の手伝い。

深夜二時から、朝八時まで、コンビニのレジに、立つ。

「眠いです、いつも」

そう言って、千尋は、笑った。

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「先週の、火曜日です」

千尋は、語り始めた。

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深夜二時を、過ぎたころだった。

店には、千尋一人だった。

蛍光灯の音が、細く、鳴っていた。

冷蔵ケースのモーターが、低く、回っていた。

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自動ドアが、開いた。

男が、入ってきた。

灰色のパーカー。黒いズボン。

無言で、おにぎりの棚に、向かった。

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梅のおにぎりを、ひとつ、取った。

レジに、来た。

「おにぎり、ください」

千尋は、レジを、打った。

男は、財布から、百円玉を、出した。

レシートを、渡した。

男は、何も言わずに、店を、出た。

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「で、3分後くらいです」

自動ドアが、また、開いた。

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同じ男だった。

灰色のパーカー。黒いズボン。

同じ歩き方で、おにぎりの棚に、向かった。

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「あ、さっきの人だ。忘れ物かな、って思いました」

だが、男は、また、梅のおにぎりを、ひとつ、取った。

レジに、来た。

「おにぎり、ください」

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誰にでも、ある感覚だった。

コンビニで。電車で。

「あ、さっきも見た気がする」という、既視感きしかん。

「でも、まさかね」で、誰もが、済ませてきた感覚。

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同じ口調だった。

同じ抑揚だった。

千尋は、レジを、打った。

男は、財布から、百円玉を、出した。

財布の開き方も、百円玉の出し方も、さっきと、同じだった。

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「気のせいかな、と思いました」

「でも、3回目が、来たんです」

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自動ドアが、開く音が、また、鳴った。

千尋は、顔を、上げた。

同じ男が、また、入ってきた。

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「もう、笑うしか、ないですよね」

千尋は、そう言って、笑った。

笑い方が、少し、強張っていた。

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男は、3度目も、梅のおにぎりを、取った。

レジに、来た。

「おにぎり、ください」

千尋は、何も、言わなかった。

黙って、レジを、打った。

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レシートが、印刷された。

渡そうとして、手が、止まった。

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印刷時刻が、「02:17:33」だった。

まるで、時計の針が、そこだけ、置き忘れられたように、動いていなかった。

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「最初の、レシートも、確認しました」

「02:17:33」

「2回目のレシートも」

「02:17:33」

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3枚、全部、同じ時刻だった。

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「時間が、進んでなかったんです」

「3回、来たのに」

「時計を見たら、ちゃんと、時間は、進んでて」

「でも、レシートだけ、止まってる」

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私が訊いた。

「男の、様子に、違いは、ありましたか」

千尋は、少し、考えた。

「財布です」

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「1回目の、財布は、薄かったんです」

「2回目は、ちょっと、厚くなってて」

「3回目は、一番、厚かったです」

「中身が、増えてる、気がしました」

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「スマホも、ポケットから、ちらっと、見えたんですけど」

「1回目は、画面が、何も、表示されてなくて」

「3回目は、待ち受けが、違う写真に、なってました」

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「同じ人なのに、中身だけ、変わってく感じ、でした」

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「男は、3回目、何か、言いましたか」

私が、訊いた。

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千尋は、レシートを、受け取ろうとしない男の手を、思い出すように、少し、間を、置いた。

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「レシートを、渡そうとしたら」

「受け取らずに」

「私を、見て」

「『もう、終わりにしよう』って」

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「それだけ、言って、出ていきました」

「それから、来てません」

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「誰に、言ったのか、分からないんです」

「私に、なのか」

「自分に、なのか」

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「あの、これ、まだ、続きがあって」

千尋は、言葉を、続けた。

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「翌日の、シフトで」

「前日の、売上データを、確認したんです」

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レジの画面に、時刻表示だけが、点滅していた。

「02:17」

そこだけ、点滅していた。

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「レジの、ログを、見たら」

「1件しか、記録されてなくて」

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「3回、レジを、打ったのに」

「1件分しか、ない」

「2件、消えてました」

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「どっちが、消えたのか」

「1回目と2回目なのか」

「2回目と3回目なのか」

「分からないんです」

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「次のシフトで、また、来るのか」

千尋は、そう言って、肩を、すくめた。

笑いは、もう、消えていた。

目だけが、覚めていた。

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私は、四十一本目の蝋燭に、火をつけた。

炎が、また、右に、揺れた。

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千尋が、帰った後、私は、記録を、書いた。

消えた、二件。

最初と、二回目が、消えたのか。

二回目と、三回目が、消えたのか。

答えは、まだ、ない。

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残り、五十九本。

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作者について

闇工房

闇工房

"正常"と"異常"の境界を、一話ずつ削り取る。 心理ホラー小説・TRPGシナリオを制作するソロクリエイター。 代表作は連作怪談「継承される百の違和感」—— 読み進めるうちに、あなたの"普通"...

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