将来
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
大学2年生の橘ひなたは、ごく普通の女子大生。ある日、学校一のイケメンと噂される林武蓮と同じゼミになったことで、自然と彼を意識するようになる。 しかし蓮は恋愛に全く興味がなく、女の子から告白されても断り続けるクールな男。ひなたが話しかけても素っ気ない態度ばかり。 それでも一緒にいる時間が増えるうちに、ひなたは彼の不器用な優しさに少しずつ惹かれていく。 恋愛に無関心なイケメンが、初めて「恋の病」にかかるまでのドキドキラブコメ!
本文
二月に入った頃、ひなたは鬼島教授から呼び出しを受けた。
「橘、少し時間はあるか」
講義の後、教授に声をかけられた時、ひなたは内心焦った。何かやらかしただろうか。課題の提出が遅れたことだろうか。でも、教授の表情はいつもの険しさとは少し違った。
「はい、大丈夫です」
「では、研究室に来なさい」
教授の研究室は、講義棟の奥にあった。本棚がびっしりと並んだ、こじんまりとした部屋だった。ひなたは促されるまま椅子に座った。
「橘、今後の進路はどう考えている」
単刀直入だった。さすが鬼嶋教授らしい聞き方だと、ひなたは思った。
「えっと……まだちゃんとは決まってないんですが、就職しようとは思っていて」
「どんな業界を考えている」
「マーケティングか、広告関係かなと。経済学を活かせそうだなと思って」
教授は少し頷いた。
「悪くない。ただ、お前は講義中にぼーっとしていることが多い割に、レポートの内容はしっかりしている。もう少し真剣に考えれば、大学院という選択肢もあるぞ」
「大学院、ですか」
ひなたは少し驚いた。自分が大学院を勧められるとは思っていなかった。
「無理に勧めているわけではない。ただ、お前には考える力がある。それを活かす道を、きちんと考えてほしいということだ」
教授はそう言って、いくつかの資料をひなたに渡した。就職支援の情報や、大学院の案内が混じっていた。
「三月までに、もう少し具体的な方向性を決めなさい。また話を聞く」
「わかりました。ありがとうございます」
ひなたは研究室を出て、廊下を歩きながら資料を見つめた。
就職か、大学院か。今まで漠然としか考えていなかったことが、急に現実味を帯びてきた気がした。マーケティングや広告に興味があるのは本当だった。でも、それ以上深く考えたことはなかった。
ロビーのベンチに腰を下ろして、ひなたはため息をついた。
将来か……。
さくらに話してみようかとも思ったが、まだうまく言葉にできない気がした。自分の中で整理できていないことを、人に話すのは難しかった。
スマートフォムを取り出すと、林武からのメッセージが来ていた。
『今日、講義の後どこ行った』
ひなたは少し考えた。教授に呼ばれたこと、将来の話をされたこと。林武には、まだ言わなくていいかな、と思った。
なぜかはうまく説明できなかった。ただ、自分の中でちゃんと考えがまとまってから話したかった。それだけだった。
『ちょっと用事があって。なんで?』
『……探した』
その一言に、ひなたは少し驚いた。探した、というのはどういう意味だろう。講義の後にひなたがいないから、気になったということなのか。
『どこ探したの』
『……いつもいるところ』
『いつもいるところって、カフェ?』
『……それと、学食。いなかった』
ひなたは思わず口元が緩んだ。林武が自分を探していた。それだけのことなのに、なんだかとても嬉しかった。
『ごめん、ちょっと用事があって別のとこにいた。心配してくれたの?』
少し間があった。
『……そういうわけでは』
『素直じゃないなあ』
『……うるさい』
ひなたはくすくすと笑いながら、スマートフォンを置いた。
将来のことは、まだ全然決まっていない。大学院か就職か、どちらが自分に向いているのかもわからない。でも今日のところは、それでいいと思った。
三月までに考えればいい。今は、林武が自分を探してくれていたという事実だけで、十分すぎるくらいだった。
好きだな、ほんとに。
ひなたは資料をバッグにしまって、立ち上がった。外はまだ寒かったけれど、気持ちだけは少し温かかった。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。