38話:再起
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">翌日の放課後の廊下。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">夕闇が深く落ち、窓から差し込む斜光は血のような赤に染まっていた。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">シュドーは
本文
翌日の放課後の廊下。
夕闇が深く落ち、窓から差し込む斜光は血のような赤に染まっていた。
シュドーはどこに行くわけでもなく、重い足取りで石造りの床を踏みしめていた。
マリンに突きつけられた「無能な貴族と同レベル」という言葉が、鋭利な刃となって胸の奥を抉り続けている。
才能のなさを妬み、最も守るべき相手から目を背ける。
それは、彼が最も軽蔑していた「弱者を踏みにじる傲慢な者」と、本質において何ら変わりはなかった。
「シュドー!」
背後から、心臓を直接掴み取られるような叫びが届く。
メルティだ。彼女の荒い息遣いと、必死に自分を追う靴音が廊下に反響する。
シュドーは答えず、むしろ逃げるように速度を上げた。
顔を背け、拳を握りしめる。
「ねぇ、シュドー、どうしたの? 僕、何かしちゃったの?」
背中にぶつかるような必死の問いかけ。メルティの声は、涙ですでに湿っていた。
「シュドー、お願い、何か言ってよ! 僕が悪いの? だったら謝るから!
ねぇ、だから許してよ、シュドー……!」
(違う、違う……!!)
シュドーは心の中で絶叫した。
(お前は何も悪くねぇんだよ!
全部、俺が……俺が、ちっぽけでクソなだけなんだ!!
だから、そんな目で俺を見るな! 頼むから、今はほっといてくれ……!!)
今、彼女と向き合えば、自分の中の醜悪な劣等感が言葉となって溢れ出してしまう。それが怖くて、シュドーはただ背中を見せて歩き続けた。
しかし、その歪な拒絶の時間は、最悪の侵入者によって暴力的に断ち切られた。
「おやおや、これはこれは。教官お墨付きのエリート羊様じゃないか」
冷笑を含んだ声。廊下の角から現れたのは、金髪をなびかせたコリンだった。
だが、今日は一人ではない。
その後ろには、威圧的なオーラを纏った数人の上級生が控えている。
その中心に立つ、二回生の腕章をつけた大柄な男が、獲物を定める目で見下ろした。
「コリン、こいつか?
平民の半獣人の分際で、身の程を知らない生意気な一年坊主というのは」
「ええ、サイファー様。
特進クラスに推薦されたとかで、鼻を高くしているメス羊ですよ」
コリンの言葉に、サイファーの顔が怒りと蔑みで歪んだ。
彼はメルティの退路を断つように壁際へと追い詰めると、逃げようとする彼女の「角」を、剥き出しの暴力でガシリと掴み取った。
「い、いたっ……! や、やめ……」
「ふざけるなよ……。平民の一年風情が、貴族の俺を差し置いて特進クラスだと?
笑えない冗談だな。神聖な魔道の階段を、お前のようなケダモノが登るなど、あってはならないことなんだよ!」
サイファーはメルティの角を乱暴に、上下に揺さぶった。骨に直接響くような激痛に、メルティの180センチを超える長身が、子供のように小さく縮こまる。
「俺達貴族は子供の頃から魔導士になる為に毎日死ぬ気で杖を振るってきた。
お前ら平民みたいに何も背負ってない気楽な奴と違って、こっちは家名を背負ってるんだよ!!わかるか!?結果を出せない奴が家族からどんな目で見られるのか!!
二回生に上がるのだってこっちは必死な思いだったんだぞ!!」
「い、痛いっ…!」
メルティの角を握るサイファーの手により力が入り、激痛が走る。
剥き出しの悪意に、メルティは震え息が詰まった。
それでもサイファーは容赦なくメルティを上下に揺さぶる。
脇のコリン達を含めた取り巻き達の目には嘲笑だけでなく害獣を見るかのような憎しみに満ちていた。
「人間様ですらない家畜のゴミが、選ばれし者の領分に立ち入るな!消えろ!
今すぐこの窓から飛び降りて、地面の肥やしにでもなれ!
そうすれば、少しは社会の役に立つだろうよ!」
「ああ、わあああ!! やだ、やだああああ!!!」
メルティの目から、大粒の涙が次々と溢れ落ちた。
かつてコタンの町で、同じように理不尽な悪意に晒されていたあの日々と、何ら変わらない暴力。
「ギャハハハハ!! 泣きやがったぞ、おい!
羊ならメェーメェーって鳴いてみろよ、どうした!!」
取り巻きとコリンの下卑た笑い声が廊下に充満する。
その時、シュドーの時間が止まった。
震えるメルティの視線が、助けを求めるように自分に向けられたのだ。
『今のあんたは、家柄に縋って威張るだけの無能な貴族と同レベルのバカよ』
マリンの言葉が、シュドーの脳内で轟音を立てて響いた。
今の自分は、あそこに立って笑っているクズどもと、何が違う?
才能がないからと腐り、友を裏切り、自分を守るために殻に閉じこもる。
そんな自分が、どうして「大魔導士」になどなれるだろうか。
かつて、コタンの路地裏。
自分よりデカい悪ガキを相手に、ボロボロになりながらメルティの前に立ったあの日の記憶が蘇る。
正義感などという高尚なものではない。ただ、気に入らなかったのだ。
自分より強い、あるいは立場が上だと思い込んでいる奴が、いい気になって誰かを踏みつける。その理不尽だけは、何があっても認められない。
「……ふざけんな」
シュドーの喉から、野獣の唸りのような声が漏れた。
「……こんなクズ野郎共と一緒にすんじゃねぇぇえ!!!!」
シュドーは全力で地面を蹴った。
廊下の空気を切り裂き、最短距離でサイファーへと肉薄する。
「なっ――!?」
サイファーが気づいた時には、すでにシュドーの小さな体が宙を舞っていた。
「オラアアアアア!!」
渾身の飛び蹴りが、サイファーの脇腹に深々とめり込む。
「ぐえっ!?」
カエルの潰れたような声を上げ、190センチ近いサイファーの巨体が横ざまに吹き飛び、廊下の壁に激突した。
シュドーは着地すると同時に、泣き崩れるメルティの前に、まるで鋼の壁のように立ちはだかった。
その鋭い眼光は、コリンや取り巻きたちを射殺さんばかりに燃え盛っている。
「実力で勝てねぇからって、クソみてぇな事してんじゃねぇクズ野郎!!!!」
それは、目の前の者たちに向けた怒りであると同時に、自分自身に向けた魂の咆哮だった。
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