39話:決闘① 小判鮫
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あらすじ
<p><span style="color: rgb(31, 31, 31);">「さ、サイファー様!」</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31);"> コリンが慌てて駆け寄り、脇腹を押さえて呻くサイファーを抱え起こす。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31);">「シュドー……!」</span></p>
本文
「さ、サイファー様!」
コリンが慌てて駆け寄り、脇腹を押さえて呻くサイファーを抱え起こす。
「シュドー……!」
メルティは、自分よりもずっと小さな、けれど何よりも頼もしい背中を見つめ、安堵と申し訳なさの混じった涙を流した。
しかし、シュドーは振り向かない。
その鋭い眼光は、獲物を狙う野獣のように目の前の敵を射抜いていた。
「サイファー様、あいつですよ!
貴族の高貴な血統に泥を塗った、不遜極まる一年の平民です!」
コリンが震える指でシュドーを指差すと、シュドーは口の端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ、今日は登校初日に出来た『新しい友人達』は一緒じゃねえのかよ、お坊ちゃん。お山の大将になるのは諦めて、今度は上級生に尻尾を振るゴマスリ屋に転職したわけか。貴族様ってのも、肩書きを守るのに忙しくて大変だな」
「だ、黙れっ! 僕は…僕は序列に従っただけだ!! 聞きましたか、サイファー様!
こいつは自分の身の丈も弁えない、口だけのドブネズミですよ!」
サイファーはゆっくりと立ち上がると、服の汚れを払い、冷酷な目でシュドーを見下ろした。
「……よくわかった。
礼儀も知らなければ、実力差も理解できない雑魚だということがな」
その言葉通り、サイファーから立ち昇る魔力のプレッシャーは、シュドーのそれとは比較にならないほど重く、鋭かった。
空気が重くなったように感じられ、喉の奥がひりつく様な感覚がシュドーを襲った。
体格、魔力量、そして経験。何一つ勝っている要素はない。
それでも、シュドーは一歩も退かなかった。
「ふん、平民の分際で、魔力だけはそれなりに練っているようだな。
だが、お前は所詮『雑魚』だ。
後ろの羊の方が、まだ魔力源としてはマシなレベルだぞ」
サイファーはシュドーを無視し、怯えるメルティへと視線を戻した。
「どけ、チビ。お前のような小物に興味はない。
俺たちは、そのケダモノの調教に忙しいんだよ」
サイファーの陰で、コリンが勝ち誇ったように嘲笑う。
「ハハハ! シュドー、お前の魔力が大したことないのは、もう先生たちの間でもバレてるんだよ!
お前なんて、所詮そのデカい羊の後ろに隠れて威張っているだけの、
寄生虫……『小判鮫』なんだよ!」
――小判鮫。
その言葉が、シュドーの心の中で燻っていた劣等感の火種に、燃料を注ぎ込んだ。
耳の奥で自分の血流が逆流する様な音がした。
「……だったら、見せてやるよ。
その小判鮫の力って奴を」
「あん?」
シュドーは顔を上げると、腰に差していた黒い杖を抜き放ち、その先端をサイファーの喉元へ突きつけるように掲げた。
「勝負だ……
てめぇに、『決闘』を申し込む!!」
一瞬、廊下に静寂が訪れた。
サイファーたちは呆気に取られたようにシュドーを見つめていたが、次の瞬間、腹を抱えて爆笑し始めた。
「ギャハハ!! 決闘だと!?」
「入学して半年も経たず、使い魔の一匹すら持っていない一回生の雑魚が、この俺に挑むだと? 魔力だけでなく、脳みそまで欠如しているようだな!」
「……なんだよ、怖えのか? 二回生が一回生に、しかも平民に無様に負けたら
貴族様にとっちゃ一生の恥だもんなぁ?」
シュドーの挑発に、サイファーの目が不快そうに細められた。
「どうやらお前にも調教が必要の様だな? ……いいだろう。
決闘の申し出を断るのは、貴族の矜持に反する。受けて立ってやる」
「シュドー、ダメだよ! そんなの……!」
メルティの悲鳴のような制止は届かない。
サイファーは余裕たっぷりに、歪な笑みを浮かべた。
「ただし、そのままじゃあ一方的すぎてつまらん。ハンデをくれてやる。
俺は一切使い魔を使わない。さらに、杖を落としたり壊されたら負け、というルールもお前には適用しないでおいてやる。……お前が俺の杖を手から落とせれば、お前の勝ちにしてやろう。お前の負け条件は、『参った』と降参した時だけだ。
これでようやく、勝負の形にはなるだろう?」
「すいませんねぇ先輩、随分と気を遣わせちまって。
……ああ、それでいいぜ」
「よし。場所を変えるぞ。第三演習場だ。
ついてこい」
サイファーたちが歩き出す。
シュドーは迷わずその背を追った。
「サイファー様、許可なく決闘など……」と案じるコリンを、
「教官にバレる前に、ゴミを片付けるだけだ」とサイファーが笑い飛ばす。
「シュドー! 待って、危ないよ、行っちゃだめ!」
メルティは必死にシュドーの袖を掴もうとしたが、シュドーはその手を振りほどく様に歩き出し、一度も振り向かなかった。
その拒絶にメルティは固まり立ち尽くすが、やがて遅れて必死にシュドーの後を追った。
その一部始終を、壁の影で震えながら見守っていた少女がいた。ファリナだ。
メルティを心配して密かに尾けていたファリナは、とんでもない場面に出くわしていた。
「ど、どうしよう……た、大変! シュドー君が殺されちゃう……! 」
ファリナの細い足は、今にも折れそうなほど震えていたが、やがて廊下を駆け出して行った。
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