45話:「ずっとシュドーと一緒」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">メルティの細い腕が、折れんばかりの力でシュドーを拘束する。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">包帯越しに伝わるその温もりは、拒絶の冷たさに沈もうとしていたシュドーの心を激しく揺さぶった。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31); backgroun
本文
メルティの細い腕が、折れんばかりの力でシュドーを拘束する。
包帯越しに伝わるその温もりは、拒絶の冷たさに沈もうとしていたシュドーの心を激しく揺さぶった。
「バカ! 離せよ、メルティ!!」
シュドーは焦燥に駆られ、彼女の腕を無理やり振り払おうともがく。
だが、メルティは普段見せない強情さで、その背中にしがみついて離さなかった。
「やだ!! 離さない!!」
「わからねぇのかよ!! 俺がお前の近くにいたら……
お前の足を引っ張るだけなんだよ!」
「やだ!! やだ!! やだああああああああ!!!!」
子供のような、なりふり構わぬ癇癪。
メルティは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、叫び、喉を震わせる。
「いい加減に……っ!!」
シュドーが最後の一撃として、彼女の腕を力任せに引き剥がそうとしたその瞬間――。
「約束忘れたの!? 酷いよ、シュドー!!!」
悲鳴のような絶叫が、夜の廊下の静寂を真っ二つに切り裂いた。
「…………っ!」
シュドーの動きが、凍りついたように止まった。
『約束』。
その言霊が鼓膜を震わせた瞬間、脳裏に古い、古い記憶の断片が、色鮮やかな洪水となって押し寄せてきた。
それはまだ、故郷の田舎町コタンで、魔法の「ま」の字も知らなかった頃。
ナザルに弟子入りよりもずっと前、メルティがまだ弱気な「男の子」で、シュドーが鼻たれのガキだった、五歳の夏の日。
二人はボロボロの端切れを首に巻きつけ、拾ってきた木の棒を宝物のように握りしめていた。
「みよ! 大魔導士シュドー様の究極魔法だ!!」
「わあぁ! お師匠さますごいです!」
空想の怪物を相手に、野山を駆け回る「大魔導士ごっこ」。
シュドーは常に堂々とした師匠であり、メルティはその背中を追う、おどおどとした弟子役だった。
夕暮れ時、草むらに座り込んで、メルティがふと自信なさげに呟いた。
「ねぇ、シュドー。僕も……魔導士になれるかなぁ?」
「なんだよ、いきなり」
「だって、僕……シュドーみたいにカッコ良くも、強くもないし。
かけっこだって遅いし、すぐ泣いちゃうし……」
メルティは膝を抱え、地面のアリを眺めながら消え入りそうな声を出した。自分には何もない、そう信じ込んでいた小さな影。
「なれるに決まってんだろ!」
だが、五歳のシュドーは、その迷いを一刀両断に笑い飛ばしたのだ。
「いいか? 大魔導士ってのは世界で一番強い魔導士なんだ。
ってことは、その『弟子』だって世界で二番目に強いに決まってんだろ!
俺たちは二人で、最強になるんだよ!」
メルティが弾かれたように顔を上げた。
夕日に照らされたシュドーの顔が、あまりに眩しかった。
「二人で……? 僕と、シュドーで?」
「ああ! 俺たち二人揃って最強で、ずっと一緒だ! 約束だぞ、メルティ!」
「…! うん、 約束!! ずっと、ずっとシュドーと一緒!!」
嬉しさが爆発したメルティが、そのままシュドーに抱きつく。
「ぎゃあ! イチイチ抱きつくなっつーの!」
「わわっ、ご、ごめん〜……!」
「だから、すぐに謝るのもやめろってんだよ!!」
シュドーにとっては、遠い昔の忘れかけていた思い出。
だが、メルティは違った。
彼女にとってあの約束は、性別が変わり、才能が開花してもなお、自分を自分たらしめる唯一の「光」だった。
「ずっと一緒って言ったもん……。置いてかないで、嫌わないでよ、シュドー……」
背中から伝わる弱々しい声。
シュドーを掴んでいたメルティの腕から、力が抜けていく。
シュドーは、虚空を見つめたまま立ち尽くしていた。
(……本当にどうしようもねぇな、俺は)
自分のちっぽけなプライドを守るために、彼女の一番大切なものを奪おうとしていた。彼女が欲しがっているのは「特進クラス」の椅子でも「大魔導士」の称号でもなく、ただ自分の隣にいる権利だったというのに。
シュドーは無言のまま、メルティの腕を掴んでいた手を緩め、そっと彼女の柔らかな頭に添えた。
「…………っ」
メルティの呼吸が止まる。
小さくガサついた手が、メルティの髪の毛を優しく撫でていく。
昔と変わらない、ふわふわとした髪の感触が、掌に懐かしく伝わってきた。
「……ホント、ガキの頃から変わらねぇなお前は。最強になるんだろ?
だったら、いつまでもメソメソ泣くんじゃねぇよ」
その言葉は、突き放すための拒絶ではなく、あの夏の日の「大魔導士」が弟子に向ける、呆れと愛情の混じった叱咤だった。
メルティは弾かれたように腕をほどくと、シュドーの肩を掴んで自分の方へと向かせた。
シュドーはもう、抵抗しなかった。
ようやく真正面から向き合った幼馴染の顔。
そこには、三面六臂の精霊を操る「魔法の天才」の姿など微塵もなかった。
赤く腫れた目、涙と鼻水でクシャクシャになった、子供の頃から一歩も変わっていない、泣き虫で、甘えん坊で、自分を世界で一番頼りにしている「相棒」の顔があった。
「うわあああああああああああん!!!!」
メルティはシュドーの胸に顔を埋め、全力で泣き叫んだ。
胸に押し付けられた顔から伝わる嗚咽の震えが、シュドーの体温と混ざり合っていく。
「バカァァ!! シュドーのバカぁぁぁぁぁぁ!! うわあああああん!!!」
迷子だった子供が、荒野の中でやっと親を見つけた時のように。
離さない、二度と離さないと言わんばかりに、シュドーの包帯まみれの体を力一杯抱きしめる。
「……そうだな。バカだな、俺は。
ジジイが生きてたら、情けねぇって一発ブン殴られてただろうな」
シュドーは自嘲気味に笑い、自分を抱きしめる大きな背中に手を回した。
メルティの慟哭は、静まり返った学舎に響き渡る。
離れていた影が、ようやく一つになった。
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