51話:同学生達の驚愕 ~男子編~
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ステラ・マリス魔法大学の男子専用演習室。重苦しい静寂が支配するはずの魔法理論の講義は、ある程度のレポート作成に目処がついた中盤から、ペンの音に混じって、ひそひそ話す声が目立ち始めた。「……ふぅ。まぁ、こんなもんだろ。あとは注釈をいくつか付け足せば提出できるな」
本文
ステラ・マリス魔法大学の男子専用演習室。
重苦しい静寂が支配するはずの魔法理論の講義は、ある程度のレポート作成に目処がついた中盤から、ペンの音に混じって、ひそひそ話す声が目立ち始めた。
「……ふぅ。まぁ、こんなもんだろ。あとは注釈をいくつか付け足せば提出できるな」
シュドーは羽ペンを置き、凝り固まった肩を回した。
彼が完璧な論理構築でレポートを仕上げる傍らで、周囲の男学生たちの話題は、夏季休暇明けに開催される大学主催の「聖光祭ダンスパーティ」へと流れていた。
魔導士としての社交マナーを叩き込むという名目の一種の講義ではあるが、その本質は貴族子女たちの伴侶探しや、若き才能の青田買いという側面が強い。
「俺、B組のあの子を誘ってみようかな。昨日、中庭で目が合った気がするんだ」
「お前それ毎日言ってんな。俺は思い切って三回生の先輩にアタックしてみるぜ。
年上の魔導士、憧れるだろ?」
色めき立つ男たちの中で、シュドーだけは興味なさげに窓の外を眺めていた。
「おいシュドー。お前はどうなんだよ? 誰を誘うか決めてんのか?」
話を振ってきたのは、隣の席でレポートを投げ出しているジョシュアだ。
シュドーはペンを置くと、背もたれに体重を預け天井を見上げながら気の抜けた声を返す。
「別に。どうでもいい。ダンスなんてやったことねーし。
そんなヒマあったら訓練してーんだよ俺は」
「……出たよ、このストイック気取り。お前はいいよなぁ、余裕があって」
ジョシュアが半分呆れたような、半分嫉妬の混じったような嫌味を投げかける。
「余裕? 何の話だよ」
「白々しいこと言うなよ。もう既に、学内最強クラスのパートナーが内定してるだろ」
シュドーは眉根を寄せて聞き返した。
「は? パートナーって、誰のことだよ」
「いや、誰って…メルティちゃんのことしかいないだろ。
お前ら、付き合ってるんだろ?」
アルが苦笑しながら横から口を挟む。
「いや、俺は別にメルティと付き合ってねぇぞ」
その瞬間、演習室の一角に不自然な静寂が訪れた。そして。
「「「嘘つけぇぇぇーーーー!!!」」」
示し合わせたような総ツッコミが、シュドーの鼓膜を震わせる。
「付き合ってない!? どの口が言うんだよ! 飯食う時も、移動中も、演習中も、あれだけ四六時中ベタベタしてて、挙句の果てに学年主任から『いちゃいちゃ禁止令』まで出されてるってのに、付き合ってないわけねーだろ!」
「じゃあなんだよ、お前らどういう関係なんだよ!? 呪いの契約か何かか!?」
騒ぎ立てる男連中を、シュドーは冷めた目で一蹴した。
「うるせぇ。ただの腐れ縁みたいなもんだ。
あいつが俺の家の隣に引っ越してきてから、気がついたら俺の後ろをちょこちょこ
着いてくるようになったんだよ。
昔なんてトイレの中にまで入ってこようとしてたんだぜ?
流石にそれはやめさせたけどな」
何とも言えない表情で固まるアルとジョシュア。
「……いや、お前。それ、完全にメルティはお前のこと好きじゃねーか」
ジョシュアの真っ当すぎる指摘。
「いや、まぁ……確かにあいつはしょっちゅう『好き好き』言ってくるけど……。あいつの『好き』なんて、美味しいお菓子が好きとか、日向ぼっこが好きとか、そういうレベルの延長だろ」
「そこまで言わせてるなら、もうさっさと付き合っちまえよ!!」
再びの総ツッコミ。怒りを通り越してもはや呆れの様相が浮かぶ。
「いや、あのさ。お前らマジで付き合ってないの?ホントに…」
「しつけぇな。だからそういうのじゃねぇって言ってるだろ」
男子からの追及を鬱陶しそうに振り払うシュドー。
(……まぁ、こいつらはメルティが元は男だって事知らねぇからな)
メルティがあの『大異変』によって男から女に変えられたことはコタンにいる者達以外は誰も知らない。
シュドー自身も、メルティには余計なトラブルを避ける為に絶対に言うなときつく口止めをしていた。
シュドーにとっては、メルティは飽くまでメルティである、筈だ。
「…あのな、よく聞けよシュドー」
ジョシュアが真面目な顔で、シュドーの肩を掴んだ。
「メルティはな、お前が思ってる以上に男からの人気が高いんだぞ。入学当初こそ『平民の半獣人』なんて色眼鏡で見る連中もいたが、今は違う」
ジョシュアは離れた席でなにやらマリンとアリシアに詰め寄られている様子のメルティを顎で示す。
「あの容姿、天然で放っておけない性格、極めつけはあの、制服のボタンが弾け飛びそうな胸。オマケに、魔力と実技に関しては学年トップクラスの才能の塊だ。
上級生の貴族連中にも、狙ってる奴が出始めたって噂だぞ」
ジョシュアは声を潜めて続ける。
「今まで手出しされなかったのは、お前という『狂犬』が常に牽制してたからだ。
もしお前らが付き合ってないって公言してみろ。
油断してると、金も地位もある背の高いイケメン御曹司あたりに、強引に掻っ攫われるぞ?」
シュドーは一瞬、何か言いようのない不快感が胸の奥を通り過ぎるのを感じた。
「いや、だから俺は別に……メルティは……」
言いかけたその時、講義終了を告げる重厚な鐘の音が響き渡った。エト教官が壇上で「はい、レポート回収しますよォー!」と叫び始め、シュドーの言葉は喧騒の中にかき消される。
講義室の熱気から一転、廊下のひんやりとした空気がシュドーの頬を撫でた。
「あいつ、マジで自覚ねーのかよ」
「信じられねぇ……あのスペックの女子を隣に置いて、よくあんな態度が取れるな……」
提出を終えた学生たちが、ぼやきながら解散していく。
「……なぁ。あいつらが本当に付き合ってないなら、俺、思い切ってメルティ狙ってみようかな?」
一人の男学生が、冗談半分、本気半分でそう漏らした。
「……おい、お前。冷静になって、あれを見てから言え」
ジョシュアが溜息をつきながら、廊下の先を指差す。
そこには、講義室の前でシュドーを待ち伏せていたメルティがいた。
「シュドーーー! お疲れ様! 寂しかったよぉ!」
メルティはシュドーの姿を見つけるや否や、全速力で突進し、その小さな少年の身体を力一杯抱きしめた。
「ぐえっ!? ……おい離せって言ってんだろ! さっさと自分の寮に戻れボケッ!」
「やだー! 補充させて! シュドー成分が足りないのぉ!」
シュドーの顔面はメルティの豊かな胸の谷間に完全に埋まり、彼はジタバタともがきながらも、結局はその巨大な愛に包み込まれている。
やがてシュドーは深く息を吐き、抵抗を諦めたようにされるがままになった。
「…………割り込めると思うか?あれに」
ジョシュアの乾いた指摘に、先ほどの男学生は無言で首を横に振った。