第3話 お嬢様、第一声を間違える

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📅 公開日: 2026/7/20 📚 シリーズ: 高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 📝 1,783文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 - 第3話 お嬢様、第一声を間違える

本文

「あなた、いつもお一人ですわね!」

 完璧な発声だった。

 図書室の端まで、実によく響いた。

 そして、言葉だけが完璧に間違っていた。

 エミリアが目を見開く。近くの席にいた生徒まで本から顔を上げた。

 どうしましょう。

 ごきげんようは? 十七回の練習はどこへ消えましたの?

「あの……はい」

 エミリアの指が、膝の上の本をきゅっと押さえる。

「違いますの!」

「違うのですか?」

「一人でいらっしゃるのは違いませんけれど、そこを責めたいのではなくて!」

 言い直すほど、深みにはまっている。

 ヴィオレッタの頬が熱くなった。

「わたくしも、一人ですから!」

 とうとう、自分の孤独まで図書室へ響き渡った。

 静寂のなか、誰かが慌てて咳払いをする。

 もう寮へ帰りたい。

 できることなら、荷物をまとめて領地へ帰りたい。

 けれど、エミリアは笑わなかった。

「ローゼンベルク様が?」

「そんなに驚くことかしら」

「いつも、堂々としていらっしゃるので」

「一人でも姿勢は正せますわ」

 答えると、エミリアの目元がわずかに和らいだ。

「それは……そうですね」

 小さな声に、ほんの少し笑いが混じっている。馬鹿にされた感じはしなかった。

 ヴィオレッタの肩から、力が一つだけ抜けた。

「その本は、何をお読みになっているの?」

 今度こそ、練習どおりの言葉が出た。

 エミリアが表紙を見せる。古い旅行記だった。

「北方を旅した学者の記録です。挿絵がきれいで」

「まあ、氷晶湖が載っている本?」

「ご存じなのですか?」

「ええ。湖が凍ると、朝日で薔薇色に輝くのでしょう」

 好きな場面を思い出して、つい身を乗り出す。

 その拍子に、エミリアの膝から本が滑った。

 二人同時に手を伸ばし、指先が触れる。

「ご、ごめんなさいませ!」

 ヴィオレッタは本を拾い上げた。傷がないことを確かめてから、両手で差し出す。

「わたくしが急に近づいたからですわ」

「いいえ、私がきちんと持っていなかったので」

「では、二人とも少しずつ悪かったということにしましょう」

「はい」

 エミリアは本を受け取ると、今度ははっきり微笑んだ。

 その笑顔を見た途端、ヴィオレッタの頭から用意していた言葉がすべて飛んだ。

 次は何でしたの?

 本の話の後は? お天気? いいえ、それは朝に諦めた話題ですわ!

「明日!」

 また大きな声が出た。

「明日、ですか?」

「わたくしと昼食をご一緒しませんこと?」

 言えた。

 命令ではなく、尋ねられた。たぶん。

 けれど、エミリアはすぐには答えなかった。

「どうして、私を?」

 責める口調ではない。ただ、本当に分からないという顔だった。

 ヴィオレッタは扇を持ってくればよかったと後悔した。そうすれば、熱くなった頬を隠せたのに。

「あなたと、お話ししてみたいと思ったからですわ」

 飾る余裕もなく、そう答えた。

 エミリアがまばたきをする。やがて、本を抱く腕から力が抜けた。

「私でよろしければ」

「もちろんですわ!」

「では、明日」

「ええ。明日!」

 ヴィオレッタは優雅に一礼した。

 そのまま書架の角を曲がるまでは、完璧な侯爵令嬢だった。

 エミリアから見えなくなった途端、両手で顔を覆う。

 嬉しい。

 恥ずかしい。

 最初の言葉から、全部やり直したい。

 三つの気持ちで、胸の中が大混雑だった。

 その夜、ヴィオレッタはリゼットへ一部始終を報告した。

「お昼のお約束ができたのは、大きな前進でございます」

「でしょう!」

「ですが、なぜ初手で相手の孤独を指摘なさったのですか」

「それは……」

 勢いよく答えかけて、ヴィオレッタは口を閉じた。

 卓上のカップへ視線を落とす。林檎茶の表面が、かすかに揺れていた。

「わたくし、自分が話しかけることで頭がいっぱいでしたの」

 エミリアが本を押さえた指を思い出す。

「一人でいるところを急に指摘されたら、困りますわね」

「はい」

「……次は、気をつけますわ。わたくしが言いたいことだけでなく、エミリアがどう感じるかも考えます」

 リゼットは何も茶化さず、静かに頷いた。

「それがよろしいかと存じます」

 一方、その頃。

 エミリアは自室で、青い旅行記を開いていた。

 同じ頁から先へ進めずにいる。

 ――わたくしも、一人ですから!

 あれほど堂々とした人が、耳まで真っ赤にしていた。

 自分を笑いに来たわけではないらしい。むしろ、笑われることを恐れていたのはヴィオレッタの方かもしれない。

「不思議な方……」

 呟いた声は、少しだけ弾んでいた。

 エミリアは本を閉じ、明日の昼食に着けていくリボンを選び始めた。

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