第4話 お嬢様、少しだけ近づく

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/20 📚 シリーズ: 高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 📝 1,879文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 - 第4話 お嬢様、少しだけ近づく

本文

約束の昼休みを迎えるまでに、ヴィオレッタは時計を十二回見た。

 食堂へ着いたのは、鐘が鳴るより前だった。

「少し早すぎたかしら」

 窓際の卓には、二人分の食器が整っていた。花瓶の向きも、椅子の位置も問題ない。給仕には、今日のスープに苦手な香草が入っていないことまで確認した。

 エミリアの苦手なものは知らないので、三種類ある昼食から選べるようにもしてある。

 抜かりはない。

 友達との昼食に、ここまで準備が必要なのかは分からなかった。

「ヴィオレッタ様」

 呼ばれて振り返る。

 エミリアが、淡い緑のリボンを髪に結んで立っていた。

「お待たせしてしまいましたか?」

「今来たところですわ!」

 嘘ではない。今とは、どこまでを指すかが曖昧な言葉だ。

 エミリアが時計を見たが、何も言わず向かいへ座った。

「今日は鶏肉のパイと白身魚、それから野菜の煮込みがありますの。お好きなものを選ぶといいですわ」

「ずいぶん詳しいのですね」

「たまたま給仕に確認しただけですわ」

「三つとも?」

「……たまたま三つともですの」

 エミリアは一度目を伏せた。笑いをこらえたようにも見えたけれど、ヴィオレッタには確信が持てない。

 二人とも鶏肉のパイを選び、食事が始まった。

 最初の数分は、ナイフと皿の触れ合う音ばかりが続いた。

 昨日のように失敗してはいけない。

 話しすぎてもいけないし、黙りすぎてもいけない。相手がどう感じるかを考えて――。

 考えれば考えるほど、何も言えなくなる。

「あの」

 先に口を開いたのは、エミリアだった。

「旅行記のこと、お好きなのですか?」

「ええ。ですから、今朝借りてきましたわ」

 ヴィオレッタは鞄から一冊の本を取り出した。昨日、エミリアが持っていたものと同じ青い装丁だ。

「もう借りたのですか?」

「お話しするなら、読んでおいた方がよいでしょう」

「もしかして、全部?」

「さすがに二十頁ですわ!」

「それでも、昨日の今日ですよ」

 エミリアが、今度こそ声を立てて笑った。

「な、何かおかしくて?」

「いいえ。嬉しくて」

「嬉しい?」

「私が好きだと言った本を、すぐに読んでくださったので」

 胸の奥がくすぐったくなる。

「まだ二十頁ですけれど」

「では、私が先のお話をしてしまわないように気をつけますね」

「少しくらいなら構いませんわ。氷晶湖は、どの辺りで出てきますの?」

「それを言ったら、読む楽しみが減ってしまいます」

「昨日は挿絵を見せてくださいましたのに!」

「挿絵とお話は別です」

 譲らない返事がおかしくて、ヴィオレッタも笑った。

 気づけば、パイはすっかり冷めていた。

 それから二人は、少しずつ一緒にいるようになった。

 図書室では、同じ卓で別々の本を読む。授業の合間には、課題の難しい箇所を見せ合う。

 毎日ずっと、というわけではない。会えば挨拶をして、どちらからともなく隣へ座る。それだけの変化だった。

 ヴィオレッタにとっては、その「どちらからともなく」が、毎回胸を弾ませるほど嬉しかった。

 ある日の茶会実習では、二人一組になるよう教師から指示が出た。

 ヴィオレッタは反射的に立ち上がる。

「エミリア、わたくしと組みますわよね!」

 周囲へ響いた声に、何人かが振り返った。

 またですわ。これでは断る余地のない命令ですわ。

「……組んでいただけます?」

 言い直すと、エミリアは目を丸くしたあと、柔らかく笑った。

「はい。喜んで」

 実習では、互いのために茶を淹れることになった。

「お砂糖はいくつ?」

「入れません。薄く切ったレモンを一枚だけ」

「覚えましたわ」

「今日の実習で必要なだけですよ」

「一度聞けば十分ですもの」

 ヴィオレッタは本当に覚えていた。

 次の昼食で紅茶が出た時、給仕が砂糖を置くより先に、レモンの皿をエミリアの前へ寄せた。

 最後に一つ残っていた杏のタルトも、迷わずそちらへ置く。

「こちら、お好きでしたわよね」

「どうして……」

「先週、最初に選んでいましたわ」

 エミリアはタルトとヴィオレッタを交互に見る。

「よく見ていらっしゃるのですね」

「当然ですわ!」

 何が当然なのかは、自分でも分からない。

 エミリアはレモンを紅茶へ浮かべ、カップを両手で包んだ。

「ヴィオレッタ様」

「何かしら」

「明日も、お話ししてよろしいですか?」

 ヴィオレッタは危うく、膝を卓へぶつけるところだった。

 今日は、自分から誘っていない。

 エミリアの方から、明日もと言ってくれた。

「ええ。もちろんですわ」

 声が裏返らなかったことを、誰かに褒めてほしい。

「では、明日もこちらで」

「席を空けておきますわ!」

「一人分で大丈夫ですよ」

「分かっていますわ!」

 エミリアがまた笑う。

 窓から差し込んだ光の中で、紅茶に浮かぶレモンが明るく透けていた。

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