第7話 お嬢様、初めて本音を言う

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/20 📚 シリーズ: 高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 📝 2,123文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 - 第7話 お嬢様、初めて本音を言う

本文

朝露の残る庭で、エミリアは背を向けたまま立っていた。

 振り返らない。

 けれど、逃げもしなかった。

 ヴィオレッタは乱れた息を整え、数歩離れたところで足を止めた。

「少し、お話しできるかしら」

「もうすぐ授業が始まります」

「十分だけ。いいえ、五分でも構いませんわ」

 エミリアの肩がかすかに動く。

「……はい」

 ようやく向き直った顔には、いつもの柔らかな笑みがなかった。

 ヴィオレッタは、用意してきた言葉を頭の中で探した。

 昨夜は何度も考えたはずなのに、どれも急によそ行きに思える。

 だから、最初に浮かんだことをそのまま口にした。

「ごめんなさい」

 エミリアが目を見開く。

「実習の時、わたくしは怒ることしか考えていませんでしたの。あなたがどうしてほしいのか、聞きもしませんでしたわ」

「ヴィオレッタ様、私は――」

「怖い思いをさせたのでしょう?」

「違います」

 返事は、思いがけないほど強かった。

 ヴィオレッタが言葉を止める。

 エミリアは胸元で両手を握り、もう一度繰り返した。

「違うんです。ヴィオレッタ様が怖くて、離れたのではありません」

「では、なぜ?」

「私がそばにいるからです」

 意味が分からず、眉を寄せる。

「わたくしが、あなたと一緒にいたいことと何の関係がありますの?」

「私といるせいで、ヴィオレッタ様がもっと一人になってしまうと思ったからです」

 エミリアの声が震えた。

「あの日から、皆様がヴィオレッタ様を避けています。私が失敗したから。私のために、ヴィオレッタ様が怒ってくださったから……」

「それで、わたくしから離れましたの?」

「そばにいなければ、もうヴィオレッタ様が怒るようなことも起きないかもしれないと――」

「起きますわ!」

 エミリアがびくりとする。

 また声が大きくなった。

 ヴィオレッタは一度息を吸い、今度はゆっくり続ける。

「あなたがいなくても、困っている方を笑う人を見れば腹は立ちます。きっと口も出しますわ。わたくしのこの性格を、全部あなたのせいになさらないで」

「でも……」

「それに、わたくしが一人になるかどうかを、あなた一人で決めないでくださいませ」

 言い切ると、エミリアの瞳が揺れた。

「周りの方が離れていったのは、もちろん悲しかったですわ」

 廊下で止まる会話。空いたままの席。拾わせてもらえなかった筆記具。

 何も感じなかったわけではない。

 けれど――。

「あなたが向かいにいないことの方が、ずっと寂しかったの」

 初めて、自分の寂しさを言い訳せずに口にした。

 エミリアの目に、みるみる涙が浮かぶ。

「泣かないでくださいまし。わたくし、また何か間違えましたの?」

「いいえ……嬉しくて」

「前にも思いましたけれど、嬉しい時に泣かれると分かりにくいですわ」

「すみません」

 エミリアは笑おうとして、うまくいかずに俯いた。

「あの時も、嬉しかったんです」

「実習の時?」

「はい。失敗した私の隣に立ってくださったことも、『ここにいる』と言ってくださったことも。私のために怒ってくださる方なんて、今までいませんでした」

 一粒こぼれた涙を、エミリアが慌てて指で拭う。

「でも、嬉しいと思った分だけ、ヴィオレッタ様が一人になっていくのが怖くなって……。私が我慢すればいいと思いました」

「我慢して、わたくしの前からいなくなるのはおやめになって」

 ヴィオレッタは一歩近づいた。

「わたくし、あなたを助けたかったの。でも、友達の守り方を知りませんでしたわ」

 怒るだけでは、届かない。

 黙って離れることも、相手のためにはならない。

 二人とも、初めてのことばかりだった。

「今度は、あなたがどうしてほしいのか聞きます。ですから、あなたも勝手に決めず、わたくしに話してくださいませ」

「……はい」

「それから」

 ここまで言っても、まだ怖かった。

 何度も一緒に過ごした。エミリアから明日もと言ってくれた。それでも、肝心な言葉だけは一度も交わしていない。

 ヴィオレッタは震えそうになる指を握り、エミリアの目を見た。

「わたくしと、友達になってくださいませんか」

 若草色の瞳から、また涙が落ちる。

 今度はその中に、はっきりと笑みがあった。

「はい。私も、ヴィオレッタ様と一緒にいたいです」

 胸の奥に詰まっていたものが、一気にほどけた。

「では、今度から勝手に離れるのは禁止ですわ!」

「それは少し、命令みたいです」

「で、では……お願いですわ。もう勝手に離れないでくださいませ」

「はい」

「わたくしも、勝手に決めませんから」

「怒る前に、私の顔を見てくださいね」

「約束しますわ」

「大きな声を出す前にも?」

「それは努力しますわ!」

 エミリアが涙を拭いながら笑った。

 つられてヴィオレッタも笑う。

 校舎から、授業の予鈴が聞こえた。

「大変、五分どころではありませんわ!」

「十分と少しです」

「走りますわよ、エミリア!」

「廊下は走ってはいけません」

「では、可能な限り速く歩きますわ!」

 二人並んで庭を出る。

 その途中、エミリアが思い出したように言った。

「氷晶湖は、百八十二頁です」

「なぜ今、教えますの?」

「前に聞かれましたから」

「もう百八十頁まで読みましたわ! あと二頁だったのに!」

「少しくらいなら構わないとおっしゃいました」

「三週間前のわたくしに、文句を言いたいですわ!」

 朝の廊下に、二人分の笑い声が響いた。

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