義父が来る
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
大学2年生の橘ひなたは、ごく普通の女子大生。ある日、学校一のイケメンと噂される林武蓮と同じゼミになったことで、自然と彼を意識するようになる。 しかし蓮は恋愛に全く興味がなく、女の子から告白されても断り続けるクールな男。ひなたが話しかけても素っ気ない態度ばかり。 それでも一緒にいる時間が増えるうちに、ひなたは彼の不器用な優しさに少しずつ惹かれていく。 恋愛に無関心なイケメンが、初めて「恋の病」にかかるまでのドキドキラブコメ!
本文
バレンタインの翌週、ひなたは母親からメッセージを受け取った。
『今週末、健一さんが会いに来るから、時間作れる?』
健一さん、というのは母親の再婚相手だった。ひなたが高校に入った頃に再婚して、今は母親と二人で実家に住んでいる。悪い人ではない。むしろ、穏やかで気が利く人だ。でも、やっぱりどこか気を遣ってしまう。
『わかった、行く』
返信してから、ひなたは少しため息をついた。
土曜日の昼過ぎ、ひなたは実家に帰った。玄関を開けると、母親がエプロン姿で出迎えてくれた。
「ひなた、久しぶり。痩せた?」
「ダイエット中だから」
「無理しないでよ」
リビングに入ると、健一さんがソファに座っていた。ひなたを見て、にこりと笑った。
「ひなたちゃん、久しぶり。元気だった?」
「はい、元気です」
健一さんはひなたより二十センチほど背が高い、がっちりとした体型の男性だった。年齢は四十代半ばで、仕事は建設関係だと聞いていた。口数は多くないが、笑顔が穏やかで、話しかけやすい雰囲気がある。
昼ご飯を三人で食べながら、健一さんがいくつか近況を聞いてきた。
「大学の方はどう?」
「まあ、普通に楽しいです」
「友達はできた?」
「います、一人仲いい子が」
「そっか。彼氏は?」
「いないです」
即答したら、母親がくすりと笑った。なんだかばつが悪かった。
「健一さんは最近どうなんですか」
「俺は変わらずだよ。現場が忙しくてね。でも、ひなたちゃんに会えてよかった」
健一さんはそう言って、お茶を一口飲んだ。ひなたは相槌を打ちながら、この人と話すのが少し前より楽になってきたな、と思った。最初の頃は、何を話せばいいかわからなくて、ひたすら緊張していた。でも今は、そこまでではない。
食事の後、母親が席を外した隙に、健一さんがひなたに話しかけてきた。
「ひなたちゃん、最近なんか楽しいことある?」
「えっと……まあ、友達と出かけたりとか」
「そっか。顔が前より明るくなった気がするよ」
「そうですか?」
「うん。なんかいいことあったのかなって」
ひなたは少し戸惑った。健一さんに、そんなことを言われるとは思っていなかった。
「別に、特に何もないですけど」
「そっか。まあ、楽しそうならいいよ」
健一さんはそれ以上聞かなかった。ただ穏やかに笑って、テレビの方に視線を向けた。
その後、三人でしばらくテレビを見て、ひなたは夕方に実家を出た。
帰り道の電車の中で、ひなたは健一さんの言葉を思い返した。
顔が前より明るくなった気がする。
自分ではあまり意識していなかったけれど、そう言われると、確かに最近は悪くない気分で毎日を過ごしている気がした。林武のことで悩んだり、どきどきしたり、そういうことが増えたけれど、それでも全体的には、生活が少し明るくなった気がしていた。
好きな人がいるって、こういうことなのかな。
ぼんやりとそう思いながら、ひなたは窓の外の景色を眺めた。
家に着いて、バッグを置いてから、ひなたはスマートフォンを取り出した。林武からのメッセージは来ていなかった。特に用事もないのだから、当たり前だ。
でも、なんとなく送りたくなって、ひなたは画面を開いた。
『今日、実家帰ってた』
すぐに既読がついた。
『……どうだった』
『まあ、普通に。ご飯美味しかった』
『そうか』
『林武くんは実家帰ったりするの?』
少し間があった。
『……たまに』
『お母さんと仲いいの?』
また間があった。今度は少し長かった。
『……普通だ』
その返信が、どこか引っかかった。普通、という言葉の裏に、何かある気がした。でも、ひなたはそれ以上聞かなかった。
『そっか。じゃあおやすみ』
『……おやすみ』
ひなたはスマートフォンを置いて、天井を見つめた。
林武のお母さんの話。以前、匂わせるように話してくれたことを思い出した。誰かと深く関わることに踏み込めない、という言葉。
まだ、全部はわからない。でも、いつかちゃんと話してくれる日が来るといいな、とひなたは思った。
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