57話:使い魔お披露目会① 可能性
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あらすじ
<p> <span style="background-color: rgba(237, 108, 2, 0.03); color: rgb(33, 33, 33);">シュドーは胸元の黒猫を撫でながら、不機嫌そうな目つきで廊下を歩いていた。</span></p><p><span style="background-color: rgba(237, 108, 2, 0.03); color: rgb(33, 33, 33);">隣ではアルとジョシュアが、それぞれの使い魔を連れている。</span></p><p>「使い魔お披露目会かぁ…めんどくせぇな。</p>
本文
シュドーは胸元の黒猫を撫でながら、不機嫌そうな目つきで廊下を歩いていた。
隣ではアルとジョシュアが、それぞれの使い魔を連れている。
「使い魔お披露目会かぁ…めんどくせぇな。
俺は怒られない程度に適当に流すぜ。目立つのも準備もダルいし」
ジョシュアは欠伸を噛み殺しながら、左腕にぴったりと張り付いている自分の使い魔であるマジックカメレオンのスティングを指先で突いた。
二週間後に開催されるという使い魔お披露目会。
一回生全員が強制参加となるこの恒例行事は、魔導士としての第一歩を踏み出した若者たちが、そのパートナーである使い魔との絆を全校生徒の前で証明する晴れ舞台だ。
「けど、優勝すれば実績として成績にガッツリ加点されるってのは魅力的だ。
将来二級魔導士への昇級審査を受ける時に大きなアドバンテージになるらしいからな」
シュドーは胸元からひょこっと顔を出している黒猫のレミを撫でながら、不機嫌そうな目つきをさらに鋭くした。
彼にとって、凡人の資質を補うための実績作りは、大魔導士という目標に近づくために避けては通れない道だった。
「優勝すれば、の話だろ? 無理無理。なんたって今年は……」
アルが苦笑混じりにそう言いかけた瞬間。
「シュドー!」
背後から明るい声が響き、間髪入れずにずっしりと重厚な、それでいてマシュマロのように柔らかな感触がシュドーの後頭部を包み込んだ。
「うげっ」
反射的に声が出るが、後頭部に押し付けられた二つの巨大な山と、首筋に触れる白いふわふわの毛の感触で、相手を確認するまでもなくシュドーは脱力した。
温かい体温と、いつもの優しい石鹸の香りが、シュドーの背中越しに伝わってきた。
ここで下手に抗えば、寂しがり屋の幼馴染はさらに力を込めて抱きついてくる。
それを学習しているシュドーは、最近ではもうされるがままに溜息をつくのが常だった。
アルとジョシュアも、もはや日常茶飯事となったこの光景に妬みの視線も送らない。
メルティの傍らには、全長五十メートルの偉容を五十センチほどに縮めた天空龍ディオスが、不遜な態度で宙に浮いていた。
「噂をすればなんとやらだな、メルティちゃん。
もう今年のお披露目会の優勝はメルティちゃんで決まりだって、学校中でももっぱらの評判だぜ」
アルがからかうように言うと、ジョシュアも肩をすくめて追従した。
「なにせ伝説の龍だからな。
いつもなら誰が優勝するかで上級生共がこっそり賭けをしてたけど、今年は結果が分かり切ってるって中止になったらしいぜ」
その言葉に、ディオスは鼻先から小さな煙を吐き出し、銀白の鱗を輝かせながらふんぞり返った。
『フン、当然だ。
有象無象の使い魔風情に、この天空龍ディオスが負ける道理などなかろう。
人間どもの見世物になるのは些か不愉快だが、我と主の偉大さを愚民どもに知らしめるにはよい機会だ』
傲岸不遜な龍の言葉を聞き流しながら、メルティはシュドーの肩に顎を乗せ、彼の胸元から同じように顔を出しているレミを覗き込んだ。
「シュドーはレミちゃんと何をやるのー?」
「……言えるわけねーだろ。大会じゃ俺たちはライバルなんだぞ」
「えー、ケチ。ずるいよシュドー。僕には教えてくれてもいいのに」
ぷくーっと頬を膨らませて不満を露わにするが、それでもシュドーを拘束する腕を緩める気配は微塵もない。 シュドーは内心で毒づいた。
実際は何も思いついていないのが本音だった。
メルティのような規格外の才能を持たない自分が、全校生徒の前で爪痕を残すにはどうすればいいか。
手元にある手札は、模倣猫であるレミの変身能力。
だが、ただ何かに化けるだけでは、ディオスの存在感には到底及ばない。
「僕、レミちゃんがダンスしてるところなら見てみたいかも。
可愛いし、絶対に人気出るよ」
メルティの能天気な提案に、シュドーは即座にイメージを描いた。
華やかなステージの上で、レミがダンスをしている横で、ただぼんやりと突っ立っているだけの自分。 …あまりにも情けない。
「……お前こそ何をやる気なんだよ、メルティ」
「僕は、うーん……こう、ぱぁーってなるのをやってみようかなって!」
「何一つわかんねぇ」
抽象的すぎる説明に呆れるシュドーの横で、ディオスが重厚な声を響かせた。
『主が望むのであれば、天空より星を降らせることなど造作もないぞ。
この大学の敷地ごと焦土に変えてやることも可能だ』
「頼むからマジでやめてくれ。苦労してここに入ったんだから」
物騒な提案をする龍にシュドーがツッコミを入れると、アルが羨ましそうに溜息をついた。
「天空龍ともあろうお方なら、本当になんでもありってことかよ。
羨ましいよなぁ、そのチート性能」
その言葉に、ディオスはさらに尊大に胸を張った。
『まぁ確かに、我のような界龍ならば大概のことは造作もないことだが、
如何に我とて、神の如き全知全能というわけではない。
そもそも使い魔というものは、主の器を超えた力を持つ存在ではないのだ。
強さは関係なく、主の資質に見合った魂が呼び寄せられる……。つまり、我が主には神龍に次ぐ資質があったからこそ、我という高貴な存在が呼びかけに応えたわけだ』
ディオスの言葉が、シュドーの脳内で激しく火花を散らした。
使い魔は、主の資質に見合ったものが来る。
主の器を超えた力を持つ存在ではない。
シュドーは、自分の胸元で「みー」と暢気に欠伸をしているレミをじっと見つめた。 もし、ディオスの言うことが真実ならば。
この一見無力な子猫が、自分の「模倣猫」として現れた意味は何だ。
「……そっか。そういう可能性もあるのか!」
パアァと目の前が開けたような感覚。
心臓が急に速く脈打ち始め、指先まで熱が駆け巡るのを感じた。
シュドーは自分を拘束していたメルティの腕を強引に外すと、弾かれたように走り出した。
「おい、シュドー!?」
「悪い! ちょっと思い付いたことが出来た!
ありがとよ、メルティ、ディオス!
おかげでなんとかなりそうだ!!」
駆け足で遠ざかるシュドーは、一度だけ廊下の角で振り返った。
不機嫌そうな目つきは消え、そこには挑戦的な、不敵な笑みが浮かんでいた。
「言っとくけどな、優勝は譲らねぇぞ! 覚悟して待ってろ!」
そう叫ぶと、彼はレミを抱え直して廊下の向こうへと消えていった。
アルとジョシュアは「なんだありゃ」と訳が分からないといった様子で顔を見合わせていたが、メルティだけは、遠ざかる背中に向かって嬉しそうに大きく手を振った。
「うん! 頑張ってね、シュドー!」
パタパタパタ
シュドーの足音が階段の向こうへ消えていく。
彼の脳内では、自分とレミにしかできない、とっておきの「可能性」が急速に形を成し始めていた。
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