58話:使い魔お披露目会② 星と竜の演舞
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あらすじ
ステラ・マリス魔法大学が誇る大講堂は、熱狂と興奮の坩堝と化していた。高い天井には幾千もの魔導灯が輝き、雛壇に並ぶアルドリック学長やデボラ教官を始めとする審査員たちの視線が、舞台上の一回生たちを射抜くように見つめている。舞台袖で汗を滲ませた拳を握るシュドーやカタカタ震えてシュドーの服の袖を握るメルティを余所に、名前を呼ばれた学生が次々に壇上へあがり、使い魔を紹介していく。
本文
ステラ・マリス魔法大学が誇る大講堂は、熱狂と興奮の坩堝と化していた。
高い天井には幾千もの魔導灯が輝き、雛壇に並ぶアルドリック学長やデボラ教官を始めとする審査員たちの視線が、舞台上の一回生たちを射抜くように見つめている。
舞台袖で汗を滲ませた拳を握るシュドーやカタカタ震えてシュドーの服の袖を握るメルティを余所に、名前を呼ばれた学生が次々に壇上へあがり、使い魔を紹介していく。
ある者は使い魔に覚えさせた曲芸を、またある者は使い魔の能力を披露する中、時々見学者である上級生達の席から歓声や失笑が講堂を埋め尽くした。
デボラ教官達の手元の羊皮紙に、鋭いペン先が滑り、何らかの評価が書き込まれていく。
「次、メルティ・アルフィリオ!」
そして、ついにその名前が呼ばれた。
それまでどこか学芸会の様な和やかな講堂内の空気が張り詰めた物へと一変し、全校生徒の目が舞台袖へと集中する。
そこから現れたのは、あろうことか右腕と右足が同時に出る不自然な歩き方で、ガッチガチに緊張した様子のメルティだった。
彼女は羊の角を震わせながら、どうにか壇上の中央まで辿り着き、深呼吸を繰り返す。
静まり返った講堂に、彼女の呼吸音だけが微かに響く。
メルティは胸元で拳を握りしめ、顔を真っ赤にしながら精一杯の声を張り上げた。
「は、はじめまして! 一回生の、メルティ・アルフィリオです!
そして、こちらが僕の使い魔……ディオスです!」
彼女が傍らで浮遊する五十センチほどの銀色の龍を指差すと、客席の上級生たちから失笑が漏れた。
「おいおい、あれが噂の天空龍か? ただの小さいドラゴンにしか見えないぞ」
「期待外れだな。あの程度の魔力反応なら、俺の使い魔の方がマシだ」
そんな野次を切り裂くように、メルティが真っ直ぐに前を見据えた。
その瞳には、先ほどまでの臆病な少女の影はなく、一世紀に一度の逸材と謳われる魔導士の片鱗が宿っている。
「いくよ、ディオス」
『主の望みのままに』
ディオスの重厚な声が講堂の隅々にまで染み渡った。
メルティが両手を天に掲げ、朗々と詠唱を開始する。
「星の瞬き、銀河の渦、我らが頭上に悠久の帳を――
『星界展開(アストラル・フィールド)』!」
パァッ!
瞬時にして、大講堂の天井が消失したかのような錯覚が全員を襲った。
そこには深い紺青の夜空が広がり、無数の星々が川のように流れ、巨大な星雲が渦巻いている。
先ほどまで揶揄していた生徒たちは、あまりにも広大で精密な魔法の余波に圧倒され、言葉を失った。
「これ、幻覚魔法か!? 一回生がやっていい規模じゃねぇ!」
驚愕の声が上がる中、ディオスが咆哮した。
ゴォォォォォ!
銀白の光が膨れ上がり、五十センチだったその姿が急速に膨張していく。
全長十メートル。本来の半分以下の大きさとはいえ、壇上を埋め尽くさんばかりの巨躯となった天空龍が、七色の翼を広げて滞空した。
その圧倒的な質量感と神々しさに、先程まで揶揄していた学生達も口を閉ざし、講堂全体が凍りついたような静寂に包まれる。
メルティが指揮者のように腕を振るう。
それに呼応し、天井の星空から流れ星が降り注ぎ、ディオスの咆哮と共に雷鳴が轟いた。
ゴオオオ!! カッ!! ビシャアアアン!!
嵐が吹き荒れ、閃光が幾重にも炸裂するが、客席の手前でメルティの完璧な魔力制御によって遮断され、観客には心地よい風と光の粒だけが届く。
最後。
メルティが両手を力強く合わせると、全ての星々とディオスが放ったエネルギーが一箇所に収束した。
キィィィィィン!
まばゆい超新星爆発のような光が講堂を埋め尽くし、次の瞬間。
すべてはメルティの小さな掌の中に吸い込まれるようにして消え去り、元の大理石の講堂の風景へと戻った。
「お、おわりです……」
メルティがぺこりとお辞儀をすると、一瞬の沈黙の後、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。
アルドリック学長は満足げに深く頷き、デボラ教官もまた、その鋭い眼光の奥に確かな驚嘆を滲ませている。
(わかっちゃいたけど…やっぱりすげぇな。あいつは…)
舞台裏の暗がりから、メルティに小さく拍手をするシュドー。
その口元は、何かをこらえるように固く引き結ばれていた。。
舞台裏まで戻ってきたメルティは、そこに立っていたシュドーの姿を見つけるなり、我慢できずに飛びついた。
「やったぁ、やったよぉシュドー! ちゃんと出来てたかな!?
僕、足が震えちゃって……!」
ガタガタと膝を震わせ、今にも泣き出しそうな笑顔でしがみついてくるメルティ。
シュドーはその重みを受け止めながら、半ば投げ遣りに彼女の白い頭をポンポンと叩いた。
「あー、はいはい。えらいえらい。大したもんだよ、お前は」
「えへへ……シュドーに褒められちゃった……!」
ご満悦の様子でシュドーに顔を擦り付けるメルティの隣で、元のミニチュアサイズに戻ったディオスがふんぞり返る。
『見たか小僧。あれが我と主の真なる力よ。
貴様には悪いが、優勝はもはや我らが頂いたも同然だ』
ディオスの言う通り、会場内はメルティの話題で持ち切りであり、もはや優勝は確定したかのような空気が漂っている。
そんな圧倒的な余韻の中、次なる名前が読み上げられた。
「次、シュドー・クラフト!」
シュドーは自分にしがみつくメルティの肩を軽く押し、客席の方を顎で指した。
「ほれ、いつまでもベタベタしてんじゃねぇ。さっさと客席に戻れ」
「うん! 頑張って、シュドー! 応援してるからね!」
メルティは名残惜しそうに手を振りながら、ディオスを連れて客席へと向かった。
一人、舞台の袖に立つシュドー。
そして、準備を済ませると彼は胸元で大人しくしていた黒猫のレミを、そっと自分の掌の上へと乗せた。
「さぁ……やるぞ、レミ。俺たちの実力を、あいつら全員に見せつけてやれ」
「みー!」
レミは自信満々に鳴くと、シュドーの瞳を見つめ返した。
シュドーは不機嫌そうな目つきのまま、不敵な笑みを口端に浮かべ、光り輝く舞台へと一歩を踏み出した。