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知る過去

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/28 📚 シリーズ: イケメンにも恋の病は必要だよね! 📝 2,216文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

大学2年生の橘ひなたは、ごく普通の女子大生。ある日、学校一のイケメンと噂される林武蓮と同じゼミになったことで、自然と彼を意識するようになる。 しかし蓮は恋愛に全く興味がなく、女の子から告白されても断り続けるクールな男。ひなたが話しかけても素っ気ない態度ばかり。 それでも一緒にいる時間が増えるうちに、ひなたは彼の不器用な優しさに少しずつ惹かれていく。 恋愛に無関心なイケメンが、初めて「恋の病」にかかるまでのドキドキラブコメ!

本文

夕食を終えた後、仲居さんに「足湯がございますよ」と教えてもらった。旅館の庭の端に、小さな足湯スペースがあるらしかった。

「行ってみない?」とひなたが林武に言うと、林武は少し間を置いてから頷いた。

「……わかった」

二人で浴衣姿のまま、廊下を抜けて庭に出た。夜の空気は冷たかったが、空が澄んでいて、星がよく見えた。足湯スペースは石造りの小さな浴槽で、お湯がほんのりと湯気を立てていた。周りに他の客はいなかった。

二人並んで腰を下ろして、足をお湯に入れた。

「……温かい」

林武が珍しく先に言った。ひなたはそれが少し意外で、思わず笑った。

「温かいね。来てよかった」

「……ああ」

夜の山は静かだった。虫の声もなく、風が時々そっと吹くだけだった。遠くに街の明かりがぽつぽつと見えて、空には星が広がっていた。

「星、きれいだね」

「……そうだな」

林武が空を見上げた。その横顔に、旅館に着いた時よりも力が抜けている気がした。温泉に入ったからか、それとも夕食の時に少し話せたからか。いつもの静かな存在感はあるけれど、どこか柔らかくなっていた。

しばらく何も言わずに、二人でお湯に足を浸けたまま、空を眺めた。

「……母さんのことは、昨日電話があった」

ふと、林武が言った。

ひなたは驚いたが、表情には出さなかった。ただ、静かに聞いた。

「春休みに帰ってこいって?」

「……ああ。それと、就職のことをそろそろ決めろと」

「まだ三年生なのに」

「……母さんは早めに動かないと気が済まない人だから」

林武はお湯の表面をじっと見ながら続けた。

「小さい頃から、そういう人だった。門限も、勉強も、友達付き合いも。全部、細かくルールがあって」

「大変だったね」

「……大変、とは思っていなかった。それが普通だと思ってたから」

ひなたは何も言わずに、続きを待った。

「でも、ある時から気づいた。父親が、何も言わなくなってることに」

「……お父さんが?」

「最初は庇おうとしてた。でも、だんだん、母さんには何も言わなくなって。黙って頷くだけになった」

林武の声は、いつもと同じ平坦なトーンだった。感情を乗せているわけではなかった。でも、ひなたにはその言葉の重さが伝わってきた。

「それを見てて……付き合うとか、結婚するとか、そういうことになったら、ああなるのかなと思った」

「女の人が、お母さんみたいになるって?」

「……全員がそうとは思っていない。でも、踏み込む前に、そういう考えが出てきてしまう」

ひなたはしばらく黙っていた。足湯のお湯が、静かに温かかった。

林武がこんなに話してくれたのは、初めてだった。匂わせる程度ではなく、ちゃんと言葉にして。旅館という非日常の場所だからなのか、それとも今夜の星空のせいなのか、理由はわからなかった。でも、話してくれたことが、ひなたには嬉しかった。

「……変な話をした」

「変じゃないよ」

「……そうか」

「そういう経験があったら、そう思うのは当たり前じゃないかな」

林武がひなたを見た。

「……お前は、そういうことをすぐ言うな」

「本当のことだから」

「……そうかもしれない」

林武は視線を空に戻した。ひなたも同じ方向を見た。

「でも」とひなたが続けた。

「……何だ」

「お母さんがそういう人だったとしても、全員がそうじゃないってことは、林武くん自身もわかってるんでしょ」

「……ああ」

「じゃあ、いつかはちゃんと踏み込める気がする」

林武は何も言わなかった。否定もしなかった。ただ、少しの間があってから、小さく息を吐いた。

「……楽観的だな、お前は」

「そうかな」

「……そうだ。でも」

林武が少し間を置いた。

「……悪くない」

ひなたはその言葉を聞いて、胸の奥がじんと温かくなった。悪くない。この人がそう言う時は、本当にそう思っている時だということが、今はわかっていた。

「林武くんさ、ここに来てよかった?」

「……ああ」

「本当に?」

「……本当に。来てよかった」

今度はあっさりと言った。いつもなら「悪くない」で留めるところを、今日ははっきりと言ってくれた。それがなんだか嬉しくて、ひなたは足湯の中で足をそっと動かした。

「また来ようね、いつか」

「……また三人か」

「さくら、次は来れると思うし。でも」

ひなたは少し迷ってから、続けた。

「二人でも、悪くないけどね」

言ってしまってから、少し恥ずかしくなった。林武の反応が怖くて、ひなたは空を見上げたまま視線を逸らした。

林武はしばらく黙っていた。

「……そうだな」

それだけだった。でも、否定しなかった。ひなたはそれだけで十分だった。

「そろそろ上がろうか。のぼせたら嫌だし」

「……ああ」

二人で足を拭いて、立ち上がった。旅館の中に戻る廊下を並んで歩きながら、ひなたはちらりと林武の横顔を見た。

さっきまでの、少し重たかった空気はもうなかった。完全に晴れたわけではないかもしれないけれど、少なくとも今夜は、ここにいることを楽しんでくれている気がした。

「おやすみ、林武くん」

「……ああ、おやすみ」

それぞれの部屋のドアの前で別れた。ひなたは部屋に入って、ベッドに横になった。

天井を見つめながら、さっきの足湯でのやり取りを思い返した。林武が過去のことを話してくれたこと。悪くないと言ってくれたこと。二人でも悪くないという言葉に、否定しなかったこと。

全部が、じわじわと温かく胸に広がっていった。

好きだな、ほんとに。

ひなたはそっとつぶやいて、目を閉じた。山の夜は静かで、遠くで風が吹く音だけが聞こえていた。

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作者について

たかの岳

毎日1話投稿! AI連載作品をたくさん出したいなと思います!

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