61話:使い魔お披露目会⑤ 打ち上げ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「かんぱーい!」弾けた声とともに、掲げられたコップが一斉にぶつかり合う。A組の机は中央に寄せられ、購買で買い占めた甘い菓子と果汁ジュースの匂いが、机の上に賑やかに漂っていた。
本文
「かんぱーい!」
弾けた声とともに、掲げられたコップが一斉にぶつかり合う。
A組の机は中央に寄せられ、購買で買い占めた甘い菓子と果汁ジュースの匂いが、机の上に賑やかに漂っていた。
今回の主役は、誰が何と言おうとシュドー・クラフトだった。
誰もがメルティの優勝を疑わなかった中で、平民且つ凡人の少年が、その相棒と共に頂点に立ったのだ。
そのジャイアントキリングにクラスメイトたちは大いに沸き、教室内には称賛と、そして少しばかりの不満の声が入り混じっていた。
「あーもう悔しいわ!メルティが二位なのは百歩譲っていいとして…私とルビーの煌びやかで高貴な演舞が、三位にすら入っていないなんて!
教官たちの目は節穴もいいところよ! あんなに練習したのに!」
金髪のツインテールを揺らしながら、マリン・ペルナンドが不機嫌そうにコップのジュースを一気に飲み干した。
傍らでは、額に赤い宝石を埋め込んだ幻獣カーバンクルのルビーが、飼い主に同調するようにキューキュー!と不満げな鳴き声を上げた。
「まぁまぁ、マリン。
お披露目会は使い魔との絆が評価対象だったんだから。
それにしても、まさかシュドーが優勝しちゃうなんてね」
ポニーテールを揺らすアリシアが苦笑いしながらマリンを宥める。
教室の中央、上座のような位置に据えられたシュドーとメルティを囲み、クラスの面々は飲んで騒いでのどんちゃん騒ぎを続けていた。
そこから少し離れた窓際の席では、かつての栄光を懐かしむ龍の声が響いていた。
周囲には、歴史や伝記に目のない生徒たちが、目を輝かせて詰めかけている。
「で、では、あの『グラウ戦記』に記されている、たった一撃のブレスで峡谷のヒュドラ数十体を葬り去ったという伝説は真実なのですか、ディオス様!」
興奮を抑えきれない生徒の問いに、銀白の鱗を光らせたディオスが、鼻先からふんと誇らしげな煙を吐き出した。
「それはよくある吟遊詩人の誇張だが、それほど遠くはないな」
「おおお……!」
関心の溜息が教室の隅に広がる。
お披露目会で一位を逃した直後は、鼻息荒く機嫌を悪くしていたディオスだったが、こうして若者たちから生きる伝説として畏敬と憧れの眼差しを向けられるうちに、ようやく自尊心が満たされたらしい。
その後、ますます得意げに語るディオスの武勇伝に、生徒たちは感嘆の声を上げて聞き入っていた。
一方、もう一人の主役であるレミは、女子生徒たちの間で文字通りのアイドルと化していた。
「や~ん、可愛い! やっぱり近くで見ると目がクリクリしてて最高!」
「もふもふだわぁ。いいなぁ、うちでも一匹欲しいかも」
喉元や耳の後ろを代わる代わる撫でられ、レミはゴロゴロと喉を鳴らして目を細めている。
模倣猫としてのサービス精神が芽生えたのか、レミは女子たちのリクエストに応え、次々と姿を変え始めた。
ポンッ!
クラスメイトの女子の姿に化け、あるいはそれぞれの使い魔の姿になって見せる。
「きゃー、すごい! 本物そっくり!」
「次は私の姿になってみて!」
賑やかな変身ショーに、女子たちの黄色い声が絶え間なく響く。
そんな賑わいの中心で、シュドーは悪友たちに肩を組まれ、手荒い祝福を受けていた。
「お前、本当にすげぇよ!
まさかあのメルティちゃんを抑えて、最高評価をもぎ取っちまうなんてな!」
アルが、嬉しそうにシュドーの背中を叩く。
すると、なぜかシュドーの隣に座っていたメルティが、自分のこと以上に誇らしげに、豊かな胸を張り出した。
「そうだよ、シュドーはすごいんだよ! 僕の自慢の幼馴染なんだから!」
「いや、なんでお前が威張ってんだよ」
シュドーが即座にツッコミを入れる。
「そもそもお前、悔しいとか思わないのかよ。
優勝筆頭って言われてて、結局俺に負けたんだぞ。
もっとこう…なんか無いのかよ」
シュドーが呆れたように問いかけると、メルティは屈託のない笑顔で首を振った。
「ぜんぜん! もちろん、一等賞になれなかったのはちょっと残念だけど、それよりも……シュドーが皆に認められたのが、僕はすごく嬉しいんだ!」
メルティはシュドーの瞳を真っ直ぐに見つめ、その想いを言葉に乗せる。
「僕はね、シュドーのこと、ずっと前からすごいって思ってたもん。
努力して、絶対に諦めないシュドーのこと。
やっとみんながそれに気づいてくれたから、僕が優勝するより、何倍も嬉しいよ!」
その純粋すぎる信頼と肯定の言葉に、シュドーは一気に顔を耳まで赤く染めた。
耐えきれずに視線を逸らし、ジュースの入ったコップを不自然に握りしめる。
「お、おう……」
シュドーはそれだけ呟くとジュースを喉に流しこむ。
アルやジョシュアをはじめとする周囲の学生たちは、「はいはい、ご馳走様」と、呆れたように肩をすくませた。
その時、レミを取り囲んでいた女子たちの間で、一段と大きな悲鳴のような歓声が上がった。
「きゃあ! 見て、これ!」
見れば、レミがお披露目会で見せた、あの猫耳と尻尾を装備した「シュドーの姿」に化けていた。
「きゃあぁ! やっぱり改めて見ると、この格好のシュドーって可愛いわよね」
女子が黄色い声を上げる中、アリシアが無造作に、シュドーに化けたレミの顔を両手で挟み込み、至近距離で見つめる。
「ふーん。シュドーってさ、普段は眉間に皺寄せてばかりで分かりづらいけど、こうやって見ると結構目鼻立ちも悪くないじゃん。
仏頂面と口の悪ささえ直せば、意外とモテるんじゃない?」
「言われてみればそうかも。ちょっと小生意気なマスコットみたい」
周りの女子たちも賛同し始め、そのうちの一人がレミの喉元を指先で優しく撫でてみた。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。
「きゃー、可愛い! 喉鳴らしてる!」
「私も撫でさせて!」
傍から見れば、シュドーの姿をした存在が女子たちに囲まれ、もみくちゃにされているという奇妙なハーレム状態。
本物のシュドーからすれば、それは辱めでしかなかった。
「おいこら、やめろ! レミ、その姿で喉を鳴らすんじゃねぇ!
俺の尊厳をこれ以上殺す気か! あと、アリシアも勝手に顔をいじるな!」
シュドーの必死の抗議も、女子たちの狂乱にかき消される。
一方で、それを見ていたメルティの頬が、ぷーっと大きく膨らんだ。
「もー、ダメだよ! シュドーは僕のなんだから!」
メルティは嫉妬を剥き出しにすると、本物のシュドーを背後から力任せに抱き寄せた。
逃げ場を失ったシュドーの頭は、再びメルティの柔らかな、そして圧倒的な質量の谷間へと埋もれる。
「いいもん! 偽物がどれだけ可愛くても、僕には本物のシュドーがいるもんね!」
メルティは慈しむような表情で、シュドーの首筋や喉元を指先でゆっくりと撫で回した。
「ほーら、シュドー。ゴロゴロしていいよー、よしよし。ゴロゴロ~♪」
「やめろぉー!!俺は猫じゃねぇっつのー!」
ジタバタと足を動かして抵抗するが、メルティの規格外の力になすがままである。
その様子を見て、爆笑するクラスメイトたち、女子から撫でられ喉を鳴らし続けるレミ、そして自慢話を続けるディオス。
外の夜空には満天の星が瞬き、ステラ・マリス魔法大学の夜は、騒がしくも温かなカオスのまま更けていった。
こうして楽しい打ち上げは終わり――地獄の期末テストまで、あと二週間。