第2話
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「グッド毎日〜!今日も『レン♡ノアちゃんねる』見てくれてあんがと!みんなのスマイル担当、レンとぉ〜?」オリジナルの口上が毎回スベっていることにレンは気付いていない。「ときめき担当ノアだよ!よろしくね!」
本文
「グッド毎日〜! 今日も『レン♡ノアちゃんねる』見てくれてあんがと! みんなのスマイル担当、レンとぉ〜?」
オリジナルの口上が毎回スベっていることにレンは気付いていない。
「ときめき担当ノアだよ! よろしくね!」
高くなりすぎない声に、ほんの少しの舌足らず。
配信を重ねるたびに研究した、男性リスナーの庇護欲を掻き立て、女性リスナーに反感を持たれないギリギリのキャラ作りだ。
『ノアたや~』『グッ毎~』『たすかる』
自分の顔を覆いつくす勢いでコメントが流れていく。
レンより先に自分の名前が出ることが、いつもノアには嬉しかった。
「今日はいつもの部屋を飛び出してある場所に来てるんだけど、みんなどこか分か――」
「I県のS町にあるI山だよね!」
言葉を遮る。
「いや食い気味! 謎かけさせろ~!」
『wwwww』『草』『出オチ』
心の中でほくそ笑む。
空気を読まないサバサバ彼女に、シナリオをぶち壊される不憫な彼氏。
リスナーの反応からたどり着いた一番ウケのいいスタイルだ。
「空気めっちゃおいしくて最高なんだけど、ここで何するの?」
画面の中でレンが『※またしても何も知らされてないノアさん』のテロップを入れる。これも恒例の流れだ。
「じ・つ・はですねえ!」
もったいぶってポーズを決めるレンに『はよしろ』のコメントがかぶさる。
「洒落怖伝説スレ『I山地下トンネル』の謎に迫ってみようと思います!」
間髪入れず、寸止めのビンタ。かわすレン。
「うわっあぶね!」
「あ、ごめん! ムリすぎて叩いちゃうとこだった」
『何回やるんw』『レンの反射神経www』『コントすな』
手の出るツッコミは炎上も起きやすいが、実際にノアの攻撃がレンに当たったことはない。
可愛いのに意外と狂暴な彼女というギャップと受け入れるくらいには、リスナーたちも慣れ切っている。そのように仕向けたからだ。
「私こわいのムリって言ってるよね! オバケ案件なら一人で行ってくださ~い!」
「オバケ案件じゃねえし! え、ノア地下トンネルの話読んだことあるんだよね?」
「トンネルの中に謎の影と誰かの声が聞こえて、真っ白でクネクネしてて口が裂けてて上半身しかない女の人に異世界に引きずり込まれるってやつでしょ?」
「いや都市伝説全部盛り! 地下トンネルっていうのは――」
『口裂け女さんチッス』『テケテケかな?』『混ぜるな自然』
レンが地下トンネルの話について解説する中、コメント欄は大喜利で盛り上がっている。
「っていう話なんだけど……ってリスナー誰も聞いてないじゃん! 大喜利やめて?」
画面が『w』で埋め尽くされる。
リスナーによるレンいじりも毎回恒例だ。
どうやらレン自身、この空気感が嫌いではないらしい。
しばしリスナーとじゃれ合う彼にノアが笑みを漏らした時、背後からカサリと音が聞こえた。
「ん……?」
振り向いた先、そこは、ただの何もない山道だ。
少し肌寒い風が、髪をさらう。
「ってわけで、早速行ってみたいと思いま~す!」
レンの明るい声に、顔を『作って』返事をする。
「ちょっと! まだ行くって言ってないんだけど!」
(気のせいだよね……)
連れ立って歩きだした二人のリュックサック、お揃いのマスコットが、小さく揺れた。