64話:期末試験④ 打ち破れない壁
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
貴族のみが魔法を使える世界。平民でありながら大魔導士を目指す少年シュドーは幼馴染の羊の半獣人メルティと共に、老魔導士ナザルに魔法の素養を見込まれ魔導士としての修行を続ける。しかしある時起きた災害『大異変』によって、メルティは女の子になってしまった。そして大異変をきっかけに、世界は大きく変わり始めた…
本文
ガヤガヤ
ザワザワ
石造りの廊下には、試験後の喧騒が渦巻いていた。壁一面に貼り出された巨大な羊皮紙の成績表を囲むようにして、学生たちの熱狂と落胆が入り混じる中、
「おぉ~すげぇ!シュドー、お前学年で総合一位じゃねぇか!」
アルが人だかりを掻き分け、一番上の行に記された名前を指さして叫んだ。
周囲の視線が一斉にシュドーに集まる。当の本人は、眉間に皺を寄せたまま掲示板を凝視していた。
「う~ん、魔導回路の反発作用に於ける記述回答でいくらかミスったから減点されてたな。魔法史や薬草学もどれも満点取れなかったか。ヤマを外しちまったな」
不満げに独りごちるシュドーに対し、ジョシュアが呆れたように肩をすくめた。
「いやいや、お前一位取ってるだけですげぇからな?マジで。どんだけ目標高いんだよ」
「~~っ悔しい!私が3位だなんて!こんなの納得いかないわ!」
地団太を踏んで悔しがるマリンの隣で、アリシアが困ったように笑いながら彼女の肩を叩く。
「も~いいじゃないの充分立派よ?マリン」
「やったねダヤン!30位以内に入ってるよ!」
ニックが弾んだ声で報告すると、ダヤンは膝の力が抜けたように深く溜息をついた。
「あ、ああ……良かったよ本当に。これで教官達に睨まれないで済んだよ。生きた心地がしなかったからな」
「……つーか、テスト一週間前はマジでスパルタだったからなぁ、シュドーの勉強会」
アルが当時の光景を思い出したのか、急に顔を青くして呟いた。
「うん……お陰でテストの点はすごく上がったけど、ファリナがだいぶ涙目になってたよね……」
ニックの言葉にジョシュアも苦笑いを浮かべる。
間違いなく、あの鉄拳と怒号飛び交う監禁同然の学習期間がなければ、自分たちの成績は悲惨なものになっていただろう。
「くそっ、平民風情が……」
その時、人混みの隙間から不快な囁きが漏れ聞こえた。他クラスの貴族育ちらしき数名が、シュドーの背中を忌々しげに睨みながらヒソヒソと話し合っている。
ギロ
シュドーが鋭い視線でそちらを射抜くと、学生たちは怯えたように肩を震わせ、そそくさと逃げ去っていった。
「ケッ、喧嘩する度胸もねぇならもうちょっと聞こえない所で言いやがれっての」
「カカカッ、入学初日で貴族のコリン達ボコボコにして、挙句に二回生に喧嘩売って決闘に勝ったって噂、お前が思ってる以上に広まってるみたいだな。特に貴族連中からは狂犬みたいな扱いされてるらしいぞ、シュドー」
「犬扱いかよ。まぁナメられるよりかはマシだけどな」
不機嫌そうに鼻を鳴らすシュドーに、ジョシュアがニヤリと笑いかけた。
「お陰で平民だのなんだの見下されてた俺達も今じゃ堂々と歩けるようになったし、ある意味シュドー様々だな。流石は未来の大魔導士様だな、大将!」
「うるせーよ、デカい声で言うな!」
図星を突かれたのか、シュドーの耳まで真っ赤に染まる。
その時、廊下の向こうからドスドスと大きな足音が近づいてきた。
「シュドー!シュドー!みてみてー!」
メルティがその巨体を揺らしながら、満面の笑みで走り寄ってくる。彼女の手には、シワだらけになった数枚の答案用紙が握られていた。
「テストで全科目50点以上取れたんだー!赤点全部回避出来たからこれで夏休みの補習も無くなったよ!シュドーのお陰だよ!」
誇らしげに突き出された答案用紙には、どれもギリギリ50点を超えた程度の、しかしメルティにとっては奇跡に近い数字が並んでいる。
「………………毎日あれだけやって、この点数かよ……」
ガックリ
シュドーは深い絶望に打ちひしがれ、その場に膝をつかんばかりに肩を落とした。寝る間を惜しんで叩き込んだシュドーの熱血指導をもってしても、メルティの底知れないおバカの壁を打ち破ることは叶わなかったのだ。
周囲にいたアルやニックは引き攣った笑いを浮かべ、マリンやアリシアですら「あんなに頑張ったのにね……」と憐れみの視線をシュドーに送る。ジョシュアは何も言わず、ただ黙ってシュドーの肩にポンと手を置き、その心中を察した。
『ふん、テストの数字如きで主の偉大さなどわかるわけが無かろうが!くだらぬ!』
皆の頭上で、ディオスが腕を組んで浮遊しながら不機嫌そうに鼻息を鳴らしていた。
こうして、賑やかすぎる一学期の幕が、静かに下りようとしていた。。