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第6話 断罪夜会、令嬢と令嬢もどきは笑って去る

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/22 📚 シリーズ: 悪役令嬢と薄幸ヒロインの華麗なる手切れ金計画 📝 4,794文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

加害者と被害者を演じる悪役令嬢とヒロインの正体は、手切れ金を狙う対等な共犯者だった。バカ王子への静かな復讐と平穏を賭けたコンゲーム、開幕。

本文

王立ヴァルドレア学院、大講堂。

三百近い蝋燭とシャンデリアの魔導灯が、磨き抜かれた床に幾重もの光の輪を落としていた。学期末を締めくくる夜会――名目はそうだが、集った顔ぶれの多くは、公爵家と王家の動向にこそ聡い者たちだった。楽団の音は控えめに流れ、談笑の声がその隙間を埋めている。

エレノアは会場のやや奥、人の流れが自然と集まる位置に立っていた。銀髪は隙なく編み上げられ、濃紺のドレスの襟元には公爵家の紋章ブローチ。誰の目にも、婚約者としての体面を保った令嬢の姿だった。

視線の先、扉に近い壁際にマリアがいる。伊達眼鏡、地味な色のドレス、俯きがちな肩。「可憐で健気な特待生」の顔のまま、彼女はそこに立っていた。

一瞬だけ、目が合う。

言葉はない。ただ、互いの位置と間合いを確かめただけの一瞥だった。

エレノアは扇を閉じた。

ぱちん、と乾いた音が、思いのほか大きく響いた。

「――マリアさん」

声は大きくない。だが、天井の高い講堂によく通った。近くの会話がさざなみのように引いていく。

「先日の階段でのこと、忘れたとは言わせませんわよ」

マリアの肩が、びくりと震える。両手を胸の前で握り、視線を斜め下へ落とす。

「エレノア様……わたし、そんな、皆さんに迷惑をおかけするわけには……」

震える声。片目にだけ、薄く涙の膜が張る。左目は乾いたままだった。

「そんな怪我、自分でつけたのではなくて? ――同情を引くための、安い演出」

最後の一言に、明確な嘲笑を乗せる。九日間の稽古で染み込んだ抑揚だった。

周囲がざわめき始める。何人かが足を止め、扇の陰からこちらを窺い始めた。加害者と被害者の、公然の対立。誰もが、続きを見たがっている顔だった。

マリアは後ずさり、壁際に追い詰められるように身を寄せた。

「わたし、そんなつもりじゃ……ただ、殿下が心配してくださって……」

「殿下が?」

エレノアの片眉が、わずかに上がる。

「わたくしの婚約者が、平民の特待生ごときにそこまで肩入れなさる理由が、聞きたいものね」

その一言が、投げ込まれるべき場所へ正確に落ちた。

「――エレノア嬢!」

講堂の反対側から、声が飛んできた。

アスターだった。金の飾緒をつけた礼服姿で、周囲の視線を一身に集めながら、大股でこちらへ歩いてくる。その足取りには、迷いも躊躇もない。

「見損なったぞ。婚約者がありながら、こんな場所でマリアを追い詰めるとは」

「殿下」

エレノアは振り返り、扇を開いて口元を隠した。貴族的な微笑――口角だけが上がり、目は少しも笑わない、あの顔だった。

「わたくしはただ、事実を確認しているだけですわ」

「事実だと? 彼女がこれまで、どれだけ心無い扱いを受けてきたか、僕は知っている」

アスターがマリアの前に立ち、庇うように片腕を広げた。マリアは怯えた仕草でその陰に半歩隠れる。逃げる小動物ほど追いたくなるものだと、旧算術教室でエレノアが指導した通りの位置取りだった。

「――もう、こんな婚約は続けられない」

アスターの声が、講堂中に響くよう張り上げられる。

「僕は、エレノア・フォン・グランツとの婚約を、この場で破棄する!」

どよめきが波のように広がった。誰かが小さく息を呑む音。扇の陰で交わされる囁き。エレノアはそのすべてを、表情を変えずに受け止めた。

「そして――マリア・ローレン。君は、僕が守る」

アスターがマリアの肩に手を置く。マリアが小さく身をすくめた。

「もう誰にも、君を傷つけさせはしない。彼女には、然るべき保護と支援を約束しよう」

割れんばかりの拍手めいたどよめきが起きた。「さすが殿下」と誰かが声を上げる。アスターの胸が、これ以上ないほど張り出されていた。

――ここまでは、台本通り。

エレノアは胸の内でそう確認しながら、一歩も動かなかった。

「殿下、それはあまりに軽率な――」

背後から、公爵家に近い年配の貴族が割って入ろうとする。だがアスターはそれを片手で制した。

「僕の意志は変わらない。――エレノア嬢、婚約解消の慰謝料と、マリア嬢への支援金。すぐに手続きを進めさせる」

侍従が、あらかじめ用意されていた二枚の羊皮紙を捧げ持って進み出た。これらは事前の手はずの通り、署名誘導の段取りに合わせて侍従の手へ渡されていたものだった。婚約解消金十二万枚の契約書と、被害者保護契約による支援金八万枚の契約書。どちらの隅にも、複雑な紋様の魔導契約印が刻まれている。

エレノアは、それを見た瞬間だけ、内心でわずかに息を整えた。

――ここまで、想定通りに来た。

侍従が羊皮紙を広げ、アスターの前に差し出す。書記官が羽根ペンとインク壺を用意した。

アスターは羊皮紙を受け取り、目を落とす。

その視線が、条項の並んだ文字列の上を、ほんの二秒ほど滑った。

目が滑り、意味を捉えきれていないのは、隣で見ているマリアにもエレノアにも分かった。

エレノアの心臓が、その二秒の間だけ、わずかに速さを増した。

「――殿下」

エレノアは一歩、前に出た。

扇を開き、口元だけを隠しながら、目だけで笑う。

「まあ、お読みになれませんの?」

一言。

講堂の空気が、ぴんと張り詰めた。

アスターの頬が、かすかに赤くなる。周囲の視線が、彼の一挙一動に注がれていた。ここで文字を追う仕草を見せることは――立ち止まることは――彼にとって、婚約破棄の宣言そのものより重い恥だった。

「――読めるに決まっている!」

彼は羽根ペンを、乱暴なほどの勢いでインクに浸した。

「僕の決意は、変わらない」

一枚目、婚約解消の合意書に、迷いのない筆致で署名が刻まれる。

「これで、僕は――」

続けて、二枚目。被害者保護契約の支援金証書にも、内容を確かめる素振りひとつ見せず、ペンが走った。

魔導契約印が、淡い光を帯びる。二つの紋様が、それぞれの契約の成立を示すように、静かに輝いた。

「――僕は、彼女を救ったんだ」

満足げな声。周囲へ視線を巡らせ、拍手を待つような顔をしていた。

「これで僕は、英雄だ」

その言葉には、契約の中身への関心が、欠片も残っていなかった。

署名が終わった瞬間、講堂の空気が破裂したように動き出した。

「殿下、支援金八万枚だと? そのような額、財務局は把握して――」

複数の声が、同時にアスターへ押し寄せる。名代の貴族が血相を変えて割り込み、書記官が慌てて別の書類を取り出す。侍従たちの間にも、明らかな動揺が広がっていた。

その混乱の中心で、アスターだけが、まだ胸を張ったまま立っていた。取り巻きたちが次々と彼を取り囲み、口々に称賛の言葉を浴びせる。誰もが彼の周りに群がり、視線は完全にそちらへ吸い寄せられていた。

エレノアは、その隙を見逃さなかった。

「――マリアさん、こちらへ」

短く囁き、署名済みの羊皮紙の一枚へ手を伸ばす。侍従の腕から、静かに、しかし迷いなく抜き取った。

マリアも、怯えた被害者の顔のまま、もう一枚を素早く自分の懐へ収める。周囲の誰も、その動きを止める余裕を持っていなかった。

――復讐ではない。実務だ。

エレノアは胸の内でその言葉を繰り返しながら、羊皮紙を胸元にしっかりと収めた。指先に、右手中指の古傷の感触がかすかに触れる。

「風紀委員会には、すでに証拠を提出しておりますわ」

声だけは、はっきりと講堂に響かせた。近くの風紀委員が小さく頷く。型抜き、コンテスト名簿の写し、転倒演技の目撃証言――それらはすでに数日にわたって、別々の日、別々の経緯で提出済みだった。今この場で新たに動かす必要はない。証拠は、既に静かに積まれている。今夜の宣言と符合する裏付けとして、それは正当性を補強する役目を果たしていた。

「――失礼いたしますわ、殿下」

エレノアが優雅に一礼する。誰も引き止めなかった。むしろ「潔い」とさえ囁かれた。

マリアも、アスターに向かって小さく頭を下げる。

「殿下……本当に、ありがとうございました」

震える声。伊達眼鏡の奥で、目だけが一瞬、素の色を覗かせた。アスターはそれに気づかず、ただ満足げに頷いていた。

「マリア、心配は要らない。困ったことがあれば、いつでも――」

その声を背に、二人は人垣を抜けた。

大講堂を出ると、灯りの数が急に減った。石造りの回廊を、ドレスの裾を持ち上げながら二人は早足で進む。ヒールの音が、静かな廊下に規則正しく響いた。誰も追ってはこない。会場の喧騒は、扉一枚を隔てるだけで、遠い波音のように薄れていった。

「――型抜きと名簿の写し、目撃証言、ちゃんと届いてる?」

マリアが小声で確認する。歩幅は速いが、乱れてはいない。

「昨日と一昨日、別々の子に頼んで提出済みよ。転倒の目撃証言も、今日の分がさっき出ているはず」

「時間差、忘れてない」

「忘れるわけがないでしょう」

裏門近く、木々の陰。

一台の馬車が、灯りを絞って待っていた。御者は、あらかじめ手配していた者だった。

「――エレノア様、マリア様。お待ちしておりました」

エレノアが懐の契約書を確かめるように胸に手を当て、踏み台へ足をかける。マリアも続いた。

扉が閉まる。車輪が、ゆっくりと動き出した。

窓の外を、学院の灯りが遠ざかっていく。

シャンデリアの光は、まだ煌々と輝いていた。あの光の下で、アスターはまだ自分の英雄譚を語り続けているのだろう。誰も、二枚の契約書が消えたことにさえ、まだ気づいていない。

しばらく、二人とも無言だった。馬車の揺れだけが、車内を満たしていた。

マリアが懐から契約書を取り出し、確かめるように広げた。魔導契約印の紋様が、月明かりの下で淡く光っている。

「――本物」

「本物よ」

エレノアも自分の一枚を取り出し、皺を伸ばすように指で撫でた。

「殿下、内容、本当に何も読んでなかったね」

「読む必要がなかったのよ、殿下にとっては。自分が英雄でいられれば、それで満足なんだから」

「怖いくらい、台本通りだった」

「台本通りに動く人だから、選んだのよ」

ドレスの裾に付いた砂埃、走ったせいで乱れた三つ編み、握りしめすぎて皺の寄った契約書。それぞれの膝の上に、今夜の痕跡が残っていた。

エレノアがふと呟いた。

「……事業計画があるの。追い追い、話すわ」

「え?」

マリアが振り返る。

「独り言よ」

マリアは怪訝そうな顔をしたが、深くは聞かなかった。今夜は、それでいいと思った。

窓の外の学院が、少しずつ小さくなっていく。灯りの群れが、やがて一つの光の塊になり、木立の向こうへ滲んでいった。

「――さて」

マリアが、契約書を丁寧に畳みながら口を開いた。

「これからが、本番ね」

「ええ」

エレノアが頷く。口元に、貴族的な微笑ではない、素の笑みが浮かんでいた。

「馬車が国境を越えるまでは、まだ気を抜けないけれど」

マリアは契約書を懐にしまい、座席に深くもたれた。

「殿下、今頃どんな顔してるだろうね」

「知る由もないわ。それに、興味もない」

エレノアの声には、もう波風がなかった。ただ静かな、平坦な確信だけがあった。

しばらくして、マリアがふと口を開いた。

「――ねえ。裏庭の隅、レモングラスの向こう側」

「何?」

「小さい温室、作れないかな。あたしの型抜き、そこに飾りたい」

エレノアは少し考え、頷いた。

「――悪くないわね。ローズマリーの隣に置きましょう」

「決まりだ」

マリアが小さく笑う。窓に映る二人の顔が、ようやくいつもの、旧校舎で見せていた顔に戻っていた。

馬車が街道の緩やかな坂を上り、学院の灯りはもう、地平線の向こうに沈む寸前だった。

車輪の音だけが、しばらく規則正しく響いていた。

「あとは、国境まで大人しくしていればいい」

エレノアが窓の外を見つめたまま、静かに言った。

マリアは、鞄の上にそっと手を置いたまま、契約書の在り処を確かめるように押さえた。それから窓の外へ視線を向け、まだ見ぬ土地の輪郭を思い描くように、目を細めた。

「次に降りる場所が――あたしたちの店の国」

馬車は、灯りの消えた学院を遠く背に、闇の中をまっすぐに進んでいった。

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作者について

ぽいたん

自作のAI執筆ソフトで作成しています。 想像を創造出来るように...。 ※作品はAI生成作品です。

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