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コンシェルジュ(五)~別棟編

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/22 📚 シリーズ: 明日のラブレター 📝 1,880文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

長編&連作 作品集

本文

コンシェルジュ(五)~別棟編

【ミッドナイト・マスカレードと、夜の貴人たち】

深夜二時。本館の賑わいから少し離れた「別棟」のエントランスホールは、深い静寂と気品に満ちていた。

純は、フロアの中央に飾られた巨大な魔銀の燭台のキャンドルに、一つずつ丁寧にあかりを灯していく。

「佐藤、今夜の別棟は一段と空気が引き締まっているな」

支配人補佐・魔王が、静かにカウンターに寄りかかりながら声をかける。その手には、琥珀色のブランデーグラスが揺れていた。本館の華やかなナイトライフとは対照的に、ここ別棟は「夜の紳士淑女」のための聖域。

「今夜は、特別なナイト・マスカレード(仮面舞踏会)が予定されております。昼の光を嫌うアンデッドの貴族様方から、人間界の政争に疲れた要人の方々まで、種族を超えた夜の貴人たちが集う夜会にございます」

純の言葉に応じるように、別棟のエントランスの自動扉が、音もなく開いた。

そこから現れたのは、漆黒のベルベットのコートを纏った長身の男――かつて夜の闇を統べたアンデッドの貴族。彼の纏う空気は冷ややかで、周囲の気圧をわずかに下げるほどの威圧感を放っている。さらにその背後からは、人間界から秘密裏に招待された、仮面を着けた高名な音楽家や貴族たちが、静かに足並みを揃えて入場してきた。

「ほう……本館から離れたこの別棟に、これほど上質な香木を焚いているとはな」

貴族は冷徹な瞳を細め、純を見据えた。

「人間界のどんな高級ホテルでも、これほど洗練された夜の空間は滅多にお目にかかれぬ。だが、余の退屈を紛らわせるだけの夜会が、この別棟に用意されているのだろうな?」

純は一切の動揺を見せず、完璧な角度でお辞儀をした。

「ようこそお越しくださいました。夜の帳(とばり)を愛するお客様のために、当館の別棟最上階『ムーンライト・サロン』にて、ミッドナイト・マスカレードの準備を整えております」

純は手にしたシルバーのトレイから、一輪の蒼い薔薇と、特製の「冷製ブラッドオレンジ・カクテル」を差し出した。

「長年の眠りから覚めたばかりのお身体にも、昼の重圧に疲れた人間界の方々のお身体にも、まずは月光のエネルギーを凝縮したこの一杯を。別棟をご利用いただく皆様にしか味わえない、極上の口当たりにございます」

ゲストたちはグラスを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。

その瞬間、冷徹だったアンデッドの貴族の瞳に、わずかな驚きの光が宿る。

「……これは。冷たさの奥に、芳醇な果実の甘みが広がる……見事だ」

「お気に召して光栄にございます。さらに今夜は、アンデッドの皆様には懐かしい『古典の調べ』を、魔界と人間界の著名な音楽家に生演奏で再現していただくよう手配しております」

純の言葉に、貴族の表情が完全に緩んだ。彼は数百年前に失ったお気に入りの舞踏会の雰囲気を誰よりも愛していた。その好みを、純は事前のわずかなプロフィールから完璧に読み解いていた。

「私の……お気に入りの夜会だと? 愚問だな、佐藤。お前という男は、客の心の奥底をどこまで見通しているのか」

「コンシェルジュにとって、お客様の『懐かしい思い出』に寄り添うことは、何よりも大切な務めにございます。さあ、別棟のサロンへどうぞ。今夜は、夜明けまで誰にも邪魔されることのない、優雅な舞踏会の時間をお約束いたします」

重厚な両開きの扉が開き、その奥に広がる「ムーンライト・サロン」の全貌が姿を現した。

そこは、夜空の星々を映し出す魔法の天蓋の下に、漆黒の魔石のダンスフロアが広がる幻想的な空間。仮面を着けたアンデッドの貴族たちと、人間界の要人たちが、互いの種族の垣根を越えて自然に言葉を交わし、グラスを傾けている。

音楽家の奏でる繊細な弦の音が響き渡ると、フロアでは静かに舞踏会が始まった。

漆黒のコートを纏った貴族が、人間界の貴婦人と手を取り合い、見事なステップで光の描く軌跡を描いていく。死者と生者が同じ音楽に合わせ、夜の美しさに身を委ねる光景は、まさにこのホテルでしか見られない奇跡の夜会だった。

その様子を遠くから眺めていた魔王が、感心したようにため息をつく。

本館とはまた違う、この別棟ならではの静かで深い夜の演出……。

「お前は本当に、生者と死者の心を同時に解きほぐす天才だな」

「お客様が求めているのは、ただの宿泊場所ではなく『忘れかけていた自分を取り戻す静寂と華やぎの空間』にございますから」

純はカウンターに戻り、次の夜のゲストのためのスケジュール帳を優雅にめくる。

グランド・マオ・ホテルの別棟は、夜の闇の中でも、完璧で美しいおもてなしの時間を紡ぎ続けていた。

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JJ

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