【17番外】打ち止め札が泳ぐ午後
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
昼下がりの時環遊技場。店内には、羽根モノ、一発台、CRデジパチ、それぞれの島から昔ながらの遊技音が重なっていた。その中で、181番台の「わんぱく大将」が、ひときわ元気な声を響かせた。
『よっしゃー!!』
V入賞を知らせる、わんぱく大将おなじみの声だ。台の前に座っていた常連客が笑う。
「今日も元気だなあ」
その少し離れたところでは、186番台の「天下一番」を打っていた常連ロボが、じっと盤面を見つめている。さらに192番台では、CRスターダストの液晶に星が流れていた。
しばらくして、181番台の玉が予定数に達した。店内スピーカーが鳴る。
『ピンポンパンポン――181番台、181番台、予定数終了しました』
従業員アンドロイドが羽根モノコーナーへ向かい、181番台のガラスに打ち止め札を差し込んだ。札を差し終えると、店内マイクを取る。
「羽根モノコーナーより、181番台、わんぱく大将、予定数終了、お疲れ様でした」
すると、わんぱく大将がまた叫んだ。
『よっしゃー!!』
常連客たちから笑い声が起こる。
「もう終わってるぞ!」
店主もカウンターの中で肩を揺らした。
「最後まで元気ですねえ」
その少し後、186番台の一発台「天下一番」で、玉が見事に入賞した。
店内スピーカーが鳴る。
『ありがとうございます。186番台、186番台、ラッキーチャンス、スタートいたしました』
従業員アンドロイドが一発台コーナーへ向かう。186番台の台上にあるスタート札を起こした。
「一発台コーナーより、186番台、天下一番、ラッキースタート、おめでとうございます!予定数終了まで張り切ってお出しください!」
常連ロボは盤面を見つめたまま、静かに頷いた。
しばらくして、186番台から玉の音が途切れた。
店内スピーカーが鳴る。
『ピンポンパンポン――186番台、186番台、予定数終了でございます』
従業員アンドロイドが一発台コーナーへ戻ってくる。台の前でマイクを取った。
「186番台、天下一番、予定数終了、お疲れ様でした」
そして、台のガラスに三角の打ち止め札を差し込んだ。
三台目は192番台だった。
『ピンポンパンポン――192番台、192番台、予定数終了しました』
今度は店主がカウンターを離れた。CRスターダストの前まで歩いていき、きらめく液晶を見上げる。流れていた星が静かに消え、店主は台のガラスに打ち止め札を差し込んだ。札を差し終えると、胸元のマイクを手に取る。
「CRコーナーより、192番台、CRスターダスト、予定数終了、お疲れ様でした」
店内に店主の声が響いた。三台の前に、三枚の札が並ぶ。
「今日は珍しく続きますねえ」
店主がマイクを戻した、そのときだった。
181番台の打ち止め札が、ふわりと揺れた。
風はない。それなのに札はガラスからすっと抜け、そのまま宙へ浮かんだ。
「……?」
従業員アンドロイドが見上げる。札はひらひらと店内を横切っていった。
「店主。札が飛んでいます」
「ええ。飛んでいますね」
店主が手を伸ばす。しかし、札は指先をすり抜けた。
その直後、186番台と192番台の札も、ふわりと浮かび上がった。三枚の札が店内をゆっくり旋回する。
「なんだ、これ?」
常連客たちが顔を上げる。誰かが手を伸ばした。
「捕まえよう!」
従業員アンドロイドも追いかけ、店主も笑いながらその後を追った。
ところが、札は島と島の間へ逃げ込んだ。そのとき、島の間に取り付けられた札入れが、かすかに揺れる。
次の瞬間、そこから何枚もの札が飛び出した。ひらり、ひらり。別の札入れからも札が舞い上がり、さらに従業員アンドロイドの胸ポケットまで、もぞもぞと動き始めた。
「……店主」
「はい?」
「私のポケットからも、札が出ようとしています!」
ばさっ。
胸元から札が何枚も飛び出した。
「おやおや」
店内のあちこちから、打ち止め札が舞い始める。三角、四角、横長。昔ながらの味のある札が次々と宙へ飛び出し、その数はどんどん増えていった。
やがて札の群れが、ひとつの形を作り始める。横一列に並んだかと思えば、ぐるりと渦を巻き、次の瞬間には大きな魚の形になった。
「魚だ!」
常連客が声を上げる。
ホログラムメダカが、その魚の周りを泳いでいた。札の魚がメダカを追い、メダカが逃げ、札がまた追う。
よく見ると、札の絵柄まで妙に楽しそうだった。ある札のキャラクターは、札そのものを板のようにして魚の背中を滑っている。別の札では、描かれた男が両手を広げ、風を受けているようにも見える。女の子の絵が描かれた札は、メダカの群れの真ん中でくるくる回っていた。
もちろん、そんなことを誰かが説明するわけではない。ただ札が好き勝手に飛び回っているようにしか見えなかった。
「なんだか楽しそうですねえ」
店主が笑う。
従業員アンドロイドが両手を広げた途端、魚の形が一気に崩れた。札がばらばらになる。
「そっちです!」
「右!」
「いや、上です!」
常連客も追いかけ、常連ロボたちも加わった。札は渦になり、鳥のような形になり、今度は見たことのない生き物の形になる。
「今の何ですか!?」
「私にも分かりません!」
誰かが笑った。
札の群れはまた魚になった。ホログラムメダカが、その中をすり抜けていく。その魚の背中に乗っているように見える札が一枚あった。描かれたキャラクターが両手を広げている。まるでサーフィンでもしているようだった。
店主がそれを見て、ふっと笑う。
「みなさん、楽しそうですねえ」
札は答えない。ただ魚の形のまま、店内をぐるりと一周した。
その中に、一枚だけ妙な札があった。
古びた札に描かれた少年。笑っているようにも見える。泣いているようにも見える。
その少年の目が、すっと動いた。ホログラムメダカを追うように、視線だけが動いたのだ。
店主が目を細める。
「……?」
けれど、札はすぐに群れの中へ消えた。店主も追う。従業員アンドロイドも追う。常連客も、常連ロボも追った。
「待ってください!」
札の魚が大きく旋回する。店主が先回りした。一瞬、少年の描かれた札が群れから外れる。
「今です!」
店主が両手を伸ばした。
パチン。
札を両手で挟んだ。
「捕まえました!」
その瞬間だった。
空中を飛んでいた札が、一斉に落ちてきた。ばらばら、ひらひら。床へ、遊技台の上へ、椅子の上へ。さっきまで巨大な魚だった札の群れが、ただの札に戻っていく。
店内が静かになった。
店主は、まだ両手を合わせたままだった。従業員アンドロイドが覗き込み、常連客たちも集まってくる。常連ロボまで首を伸ばした。
ゆっくりと、両手を開く。
そこにあったのは、一枚の札だった。
大きく、「まいった!!」と書かれている。その下には、あの少年の絵。笑っているようにも見える。泣いているようにも見える。
「……この子、いい顔してますね」
従業員アンドロイドが札を覗き込んだ。
「笑っているのでしょうか。それとも泣いているのでしょうか」
「どちらでしょうねえ」
店主も楽しそうに眺める。
そのとき、一匹のホログラムメダカが札の前を泳いだ。
少年の目が、ほんの少しだけ動いた。
店主は札を見つめる。
「……遊びたかったんですかね」
その瞬間、札が店主の手からふわりと浮いた。
「あっ!」
「またです!」
札はひらひらと宙へ舞い上がり、ホログラムメダカがその後を追う。店内のあちこちから、また笑い声が上がった。
「待てー!」
「今度こそ捕まえてください!」
店主も笑いながら追いかける。
そのとき、札の少年が一瞬だけ口を開いたように見えた。
「――あそぼ!」
店主が足を止める。
しかし、もう札は群れの中だった。ひらひら舞う札と、青白く光るメダカが、再びひとつの大きな魚になっていく。その魚の背中では、いくつもの札のキャラクターが、今度も楽しそうに風を受けていた。
店主は笑った。
「……まだ遊ぶんですか」
時環遊技場の昼下がり。札の魚は、しばらく店内を泳いでいた。
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