【18番外】 心を読む台
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
時環遊技場には、常連たちの間で妙な噂のある羽根モノが一台あった。
打つ人間の気分によって、玉の流れが変わる。
「俺、あの台は打つ人間の気分で玉の流れが変わると思うんだよ」
昼下がり、常連の一人がそう言うと、隣の男が呆れたように笑った。
「ま〜た始まったよ」
「いや、本当だって。この前、仕事でムカつくことがあってさ。イライラしながら打ったら、玉が全然落ち着かなかったんだ」
「それ、お前がハンドル強く握りしめてただけじゃない?」
「……!それはあるかもしれない」
「あるんかい!」
二人が笑う。
そこへ玉箱を運んできた従業員アンドロイドが通りかかった。
「台がお客様の心理状態を読み取る、ということでしょうか?」
「そうそう。そんな感じ」
「興味深いですね」
「お前、信じるの?」
「現時点では判断できません。観察してみます」
真顔で答えるアンドロイドに、二人はまた笑った。
夕方、その羽根モノに常連の男が座った。
仕事で嫌なことがあった。上司に言われた一言が頭から離れず、気分は晴れない。
ハンドルを握ると、玉が次々と打ち出されていく。
いつもなら気にも留めないような跳ね方なのに、今日は妙に落ち着かない。玉はあちらこちらへ弾かれ、羽根が開いても、なかなか拾われない。
「今日はダメだなあ」
隣の常連が笑った。
「台が?」
「……分からん」
それでも打ち続ける。
しばらくして。
一定のリズムで玉を送り出しているうちに、少しずつ頭の中のもやもやが薄れてきた。
最初は、なんであんな言い方をされたんだ、と腹を立てていた。
けれど、玉の音を聞いているうちに、ふと別のことを考え始めた。
――あのとき、俺も言い方が悪かったかもしれない。
そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。
昨日、ああ言えばよかったのかもしれない。だったら、明日はこう話してみよう。
気がつくと、さっきまでせわしなく感じていた玉の流れが、少し穏やかになっていた。
開いた羽根に、玉が一つ吸い込まれるように拾われた。
「おっ」
役モノの中へ入った玉が、左右に揺れながら転がっていく。
常連は無意識に身を乗り出した。玉は一度弾かれ、もう一度転がる。
そして、今度はすっと中央へ寄っていった。
「……なんか、台が急に素直になったな」
隣の常連が笑う。
「お前が素直になったんじゃない?」
「それもあるかもな」
少し離れたところで見ていた従業員アンドロイドが、店主に声をかけた。
「店主。先ほどから、玉の軌道に変化があります」
「そうですか」
「お客様の表情も、先ほどより穏やかです」
「でしょうね」
「台が心理状態を読み取っている可能性は?」
店主はしばらく盤面を眺めた。
「あるかもしれませんね」
「店主は信じているのですか?」
「さあ」
店主は小さく笑った。
「台の気持ちが分かれば、苦労しないんですけどね」
常連はその後もしばらく打ち続けた。
仕事で嫌だったことも、自分の悪かったところも、明日どうすればいいかも、少しずつ整理されていく。
そして、羽根がまた開いた。玉が拾われ、役モノへ入る。
さっきよりも長く転がる。
右へ寄り、弾かれ、今度は左へ。もう駄目だと思ったところで、玉が中央へ戻ってくる。
コトン、とVに入った。
「よっしゃ!」
思わず声が出た。
常連は笑っていた。さっきまで険しかった顔は、もうすっかり晴れている。
「今日はいい日だなあ」
「ずいぶん機嫌よくなったな」
「だって当たったんだもん!」
「現金だなあ〜」
「いーんだよ。こういうのでいいんだよ!」
従業員アンドロイドも、その様子を眺めていた。
「先ほどより、さらに機嫌が良くなりました」
「そりゃ当たったからな」
常連は笑いながら、またハンドルを握った。
パチン、パチンと、玉が連続して打ち出される。
さっきまでとは違い、釘に当たりながらも、どこか素直に盤面を流れていく。
常連はその動きを眺めながら、ふと思った。
台が自分の心を読んでいるのか。
それとも、自分の心が落ち着いたから、玉の流れまで穏やかに見えているだけなのか。
「……やっぱり、この台、俺のこと分かってんのかな〜?」
隣の常連が笑う。
「知らねえよ」
「だよな」
二人は笑った。
店主は何も言わず、その様子を眺めていた。
パチン、パチン、と玉の音が続いている。
常連は、すっかり機嫌の良くなった顔で、楽しそうに打ち続けていた。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。