第八話 旅の武人
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。
本文
桃華は山道を歩いていた。
老夫婦の家を出てから数日。
聖剣を背負い、ただ一つの名を胸に刻みながら。
――朱天。
鬼神族を率い、天界を襲った神。
必ず見つけ出し、止めなければならない。
そんな思いで歩き続けていると、不意に地面が震えた。
ドォン。
ドォン。
大木を担いだような大男が、山道の向こうから歩いてくる。
肩には巨大な斧。
筋骨隆々の身体。
それでいて、その顔には豪快な笑みが浮かんでいた。
「おお? 旅の娘か。」
男は気さくに笑う。
「こんな山奥で会うとは珍しいのう。」
桃華も一礼する。
「旅の途中です。」
「そうかそうか。」
男は腰を下ろすと、肩から水筒を外し、一息に水をあおった。
「娘子よ。何か食い物を持ってはおらぬか」
あまりに率直な物言いに、桃華は目を瞬いた。
「食べ物、ですか?」
「ああ。急ぎの用で出てきたゆえ、手持ちは兵糧丸ばかりでな」
金時は懐から、黒く固められた小さな丸薬を取り出す。
「これはこれで腹は満たされる。だが、何せ味気がない」
そう言って、豪快に笑った。
「武士は食わねど高楊枝、と申すがな。わしは腹が減っては戦はできんのじゃ」
桃華は思わず口元を緩める。
「それなら、きびだんごがあります」
「ほう。きびだんごか」
差し出したのは、普通の丸い団子ではない。
きびの粉に水飴と餡を練り込み、細長い板のように固めたものだった。旅の途中でも傷みにくいよう、ばあさんが工夫して作ってくれた団子である。
男は一本受け取ると、ためらいなくかじった。
「……む」
噛むほどに、きびの香ばしさと餡の甘みが広がる。
男の目が見開かれた。
「うまい!」
さらに一口。
あっという間に一本を平らげる。
「こいつはただの団子ではないな」
「そうでしょうか」
「間違いない」
男は大きく頷いた。
「このきびだんご、日本一の団子に違いない!」
桃華は思わず笑みをこぼした。
「祖母が作ってくれたものです」
「ほう。よい祖母を持ったな」
男は満足そうに頷いた。
「礼を言う。」
そして立ち上がり、大斧を肩へ担ぐ。
「そういや、まだ名乗っとらなんだ。
わしは坂田金時。ある武将に仕えておる。」
桃華は驚く。
坂田金時⋯⋯どこかで聞いたような名だった。
「近頃、この辺りでは若い女子がさらわれる事件が相次いでおってな。」
「調べたところ、"しゅてん"という鬼の仕業らしい。」
その名を聞いた瞬間。
桃華の表情が変わる。
「……しゅてん?」
「ああ。」
金時は頷く。
「討伐隊はすでに大江山へ向かっておる。
わしだけ別な用を仰せつかって、遠方まで出向いておった。今から急いで合流するところじゃ。」
桃華は立ち上がる。
胸が高鳴る。
「実は……。」
静かに口を開く。
「私も、しゅてんという者を追っています。」
金時が目を細めた。
「ほう。」
「もしや、私の探す朱天と同じ者なのか……。」
「確かめさせてください。」
金時は豪快に笑った。
「面白い娘だ、ならば来るがいい。
鬼退治に向かう道は、一人より二人の方が心強い。」
桃華は力強く頷く。
「よろしくお願いします。」
こうして二人は並んで歩き始める。
一人は、鬼神族を討つために。
一人は、民を守るために。
まだ二人は知らない。
互いの追う"しゅてん"が、同じ名でありながら、全く異なる存在であることを。
そして、
互いの運命が、この日を境に大きく交わることを。
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