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第九話 大江山へ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 2,797文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

桃華と金時は、並んで山道を進んでいた。

金時の歩幅は大きい。

本人は桃華に合わせているつもりらしいが、一歩ごとにぐんぐん先へ進んでしまう。

「金時さん、少し待ってください」

「む?」

振り返った金時は、桃華との間がすっかり開いていることに気づき、豪快に笑った。

「すまん、すまん。急ぐ癖が抜けんでな」

「仲間の方々に追いつきたいのは分かりますけど」

「なにせ、頼光様を待たせておるからのう」

「頼光様?」

「わしの主よ。源頼光様と申す」

その名を口にしたとき、金時の表情がわずかに引き締まった。

先ほどまで、きびだんごを頬張って喜んでいた男と同じ人物とは思えない。

そこには、主君への深い敬意があった。

「立派な方なのですね」

「うむ」

金時は一度、大きく頷いた。

「武勇に優れ、知略にも富み、それでいて弱き者を見捨てぬ御方じゃ。わしが命を預けるに足る、ただ一人の主よ」

その言葉を聞き、桃華は旅立ちの日に受けた神託を思い出した。

――犬、すなわち忠義。

金時が犬の姿をしていないことなど、もはや問題ではなかった。

この男の中には、確かに揺るがぬ忠義がある。

「どうした?」

「いえ。あなたに出会えた理由が、少し分かった気がします」

「妙な娘じゃのう」

金時は笑い、再び前を向いた。

しばらく進むと、山道の先に小さな集落が見えてきた。

だが、そこには人の営みを感じさせる声がない。

畑には鍬が放り出され、家々の戸は固く閉ざされている。

道端にいた老人が、二人の姿を見るなり慌てて家の中へ逃げ込んだ。

「様子がおかしいですね」

「鬼の噂が広まっておるのじゃろう」

金時は眉をひそめた。

二人が集落の中を進んでいると、一軒の家からすすり泣く声が聞こえてきた。

戸口の前には、千切れた赤い組紐が落ちている。

桃華がそれを拾い上げると、戸がわずかに開いた。

中から顔を出したのは、疲れ切った表情の女だった。

「その紐は……こちらの物ですか?」

女は震える手で組紐を受け取る。

「娘の物です」

「娘さんは?」

「昨夜、さらわれました」

声を絞り出すと、女はその場に崩れ落ちた。

「物音がしたと思ったら、屋根の上に大きな影が……。追いかけたけれど、わたしには何もできなくて」

桃華は女の傍らへ膝をつく。

「どちらへ向かったか、分かりますか?」

女は山の向こうを指した。

「大江山です」

「やはりか」

金時の声が低くなる。

「その鬼は、若い娘ばかりをさらっていくと聞いておる。名は酒呑童子」

「酒呑童子……」

桃華は、その名をゆっくりと繰り返した。

朱天ではない。

少なくとも、金時の追う「しゅてん」は、そのような字を書くらしい。

だが、同じ呼び名を持つ以上、無関係とは言い切れない。

「わたしも行きます」

桃華の言葉に、女が顔を上げる。

「娘さんを、必ず連れ戻します」

「しかし……」

女は桃華の細い身体を見つめた。

「あなたまで、さらわれてしまったら……」

「大丈夫です」

桃華は腰の聖剣へ手を添える。

「私は、鬼から逃げるために旅をしているのではありません」

金時は何も言わず、桃華の横顔を見ていた。

やがて、満足そうに笑う。

「よし。急ぐぞ」

二人は集落を後にした。

     ◇

日が傾き始めた頃。

山中の古びた社の前で、三人の武者が待っていた。

一人は大柄な身体に豪壮な髭を蓄えた男。

一人は鋭い眼光を持つ痩身の武者。

もう一人は、弓を携えた物静かな男。

「遅いぞ、金時」

髭の男が呆れたように腕を組む。

「済まぬ、綱。頼まれていた用は果たしたぞ」

「それはよいが、その娘は誰だ」

渡辺綱と呼ばれた男の視線が、桃華へ向けられる。

「道中で拾った」

「拾われてはいません」

桃華が即座に訂正すると、金時は声を上げて笑った。

「冗談じゃ。こちらは桃華殿。わしらと同じく、しゅてんを追っておる」

「同じく?」

痩身の武者が目を細める。

「酒呑童子を?」

「それは、まだ分かりません」

桃華は正直に答えた。

「私が追っているのは、朱天という神です」

三人の武者の間に、わずかな沈黙が流れた。

「神、だと?」

弓を持つ男が静かに問い返す。

「はい。暁を司る化身でした」

「ずいぶんと途方もない話を持ち込んだものだ」

渡辺綱は警戒を隠そうともしなかった。

「そのような娘を、なぜ連れてきた」

「この娘は強い」

金時は迷いなく答える。

「それに、攫われた者を救いたいという気持ちは、わしらと同じじゃ」

「強いかどうかは、お前の勘か」

「うむ」

「相変わらず当てにならん」

「だが外したこともなかろう」

金時は胸を張った。

綱は深いため息をついたが、それ以上は言わなかった。

そのとき、社の奥から足音が聞こえた。

現れたのは、白い狩衣をまとった男だった。

年の頃は四十ほど。

穏やかな顔立ちをしているが、その眼差しには人を従わせる静かな力があった。

三人の武者と金時が、一斉に姿勢を正す。

「頼光様」

源頼光。

金時が命を預けると語った主君。

頼光は金時へ頷いた後、桃華を見た。

「事情は聞こえていた」

その視線が、桃華の腰にある聖剣へ移る。

「不思議な気を宿した剣だ」

桃華は思わず柄へ手を添えた。

「これは、大切な友が打った聖剣です」

「そうか」

頼光はそれ以上を尋ねなかった。

「我らの目的は、酒呑童子にさらわれた者たちを救うこと。そして今後、都や里を襲わせぬことだ」

「私も同じです」

「ならば、力を借りよう」

あまりにあっさりと受け入れられ、桃華は目を瞬いた。

頼光はわずかに笑う。

「金時が人を見る目だけは、信じている」

「だけは、とは何ですかな」

「食い物を見る目まで信用してはおらぬ」

「これは手厳しい」

金時は頭を掻く。

桃華の口元にも、自然と笑みが浮かんだ。

「我らはこれより山伏に姿を変え、大江山へ入る」

頼光は社の中に用意された装束を示した。

「正面から攻めれば、さらわれた娘たちが危険にさらされる。まずは鬼の懐へ潜り込み、人質の所在を確かめる」

「山伏に扮して、鬼を欺くのですか?」

「正面から斬り込むだけが戦ではない」

頼光の言葉に、桃華は小さく頷いた。

力だけでは救えない者がいる。

それは、天界での戦いを通して桃華自身も知ったことだった。

「出立は夜明け前だ。それまで身体を休めよ」

一同が社の中へ入ろうとしたとき、金時が桃華へ顔を寄せた。

「ところで、桃華殿」

「何ですか?」

「きびだんごは、まだ残っておるか?」

「ありますけど……皆さんの分まで足りますかね」

「ならば、わしはもう一本だけでよい」

「先ほども一本食べたでしょう」

「腹が減っては戦はできぬからのう」

その声を聞いた綱が振り返る。

「お前は先ほど兵糧丸を食っていただろう」

「あれは腹を満たす物であって、心を満たす物ではない」

あまりに堂々とした言い分に、誰からともなく笑いがこぼれた。

だが、笑いの向こう。

夕闇に沈みゆく山の奥には、黒々とした大江山がそびえていた。

そこに棲む鬼が、桃華の探す朱天なのか。

それとも、同じ名を持つだけの別人なのか。

答えは、あの山の中にある。

桃華は遠くの峰を見つめ、聖剣の柄を静かに握った。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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