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第十話 鬼の宴

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 3,620文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

夜明け前。

大江山の麓に建つ古びた社には、六人の山伏が集っていた。

源頼光。

渡辺綱。

卜部季武。

碓井貞光。

坂田金時。

そして桃華。

墨染めの衣に身を包み、頭には頭巾を巻いている。武具はすべて笈や衣の下へ隠され、一見しただけでは都から修行に来た一行にしか見えない。

桃華も聖剣桃光を布で包み、杖のように背負っていた。

「よく似合っておるぞ、桃華殿」

同じく山伏姿となった金時が、感心したように頷く。

「ありがとうございます。でも、金時さんは少し目立ちますね」

「何故じゃ」

「その大きさで普通の修験者を装うのは、無理があるかと」

金時は自分の身体を見下ろした。

頭巾を被っていても、広い肩と太い腕までは隠せない。

「山には大きな坊主もおろう」

「限度があります」

渡辺綱が呆れた声を挟んだ。

「せめて道中では、斧を振り回すなよ」

「分かっておる」

「お前の『分かった』ほど信用ならん言葉もない」

緊張を解すような二人のやり取りを聞きながら、桃華は社の外へ目を向けた。

朝靄の向こうに、大江山がそびえている。

山頂付近には黒い雲が渦を巻き、朝日さえ近づくことを拒んでいるようだった。

あの山のどこかに、さらわれた娘たちがいる。

そして、酒呑童子がいる。

桃華の追う朱天と同じ者なのか。

それとも、ただ名が似ているだけなのか。

「桃華殿」

頼光の声に、桃華は振り返った。

「緊張しているか」

「少しだけ」

「恐れることは恥ではない。恐れを知らぬ者は、守るべきものまで見失う」

頼光は穏やかにそう言うと、一行を見回した。

「もう一度、策を確認する」

全員の表情が引き締まる。

「我らは山伏を装い、酒呑童子の住処へ入る。目的は二つ。さらわれた者たちの所在を確かめること。そして、鬼どもにこの酒を飲ませることだ」

頼光の傍らには、封を施された酒壺が置かれていた。

昨夜、三柱の神が姿を現し、頼光たちへ授けたものだ。

住吉明神。

八幡神。

熊野権現。

人を飲ませれば力を与え、鬼が口にすればその身を痺れさせる霊酒――神便鬼毒酒。

桃華は、その壺から漂う清らかな気を感じ取っていた。

「地上には、これほど多くの神々が残っているのですね」

「人の信仰がある限り、神は完全には消えぬ」

頼光が答える。

「姿を現さずとも、どこかで人の営みを見守っておられる」

桃華は天界を思った。

古き時代に天を離れ、人とともに暮らすことを選んだ神々。

キクニが探せと言った者たちも、その中にいるのだろう。

「戦いは、娘たちの安全を確かめてからだ」

頼光は続けた。

「鬼が酒を飲み、力を失うまで剣を抜くな。どれほど挑発されようともだ」

「承知しました」

桃華は頷く。

戦いに勝つことより、人を救うこと。

それが頼光の選んだ策だった。

     ◇

一行は険しい山道を登っていった。

谷底には白い霧が満ち、木々の間からは獣とも人ともつかぬ声が聞こえる。

道の脇には、折れた矢。

割れた籠。

そして時折、女物の簪や衣の切れ端が落ちていた。

桃華は赤い布片を拾い上げる。

まだ新しい。

「連れ去られた娘の物でしょうか」

「おそらくな」

季武が周囲を見回す。

「だが妙だ。この辺りには、鬼の足跡が多すぎる」

土の上には、大小さまざまな足跡が残されていた。

人里を襲うにしても、これほど多くの鬼が山を出入りしているのは異常だという。

「近頃、地上の鬼どもの動きが活発になっておる」

頼光が低く言った。

「かつては人目を避けて暮らしていた者まで、里へ下りるようになった」

桃華は大地へ手を触れた。

微かな瘴気。

鬼神族が纏う黄泉の気と同じものが、地の底から滲み出している。

「要石が壊れた影響です」

一同が桃華を見る。

「黄泉との境が弱まり、地上へ瘴気が流れ出している。その力に引かれ、もともと地上にいた鬼たちまで力を増しているのでしょう」

「では、酒呑童子が近頃になって娘をさらい始めたのも」

「無関係ではないと思います」

金時が大斧を隠した笈を背負い直す。

「ならば、なおさら放ってはおけぬな」

「ええ」

桃華は遠くの山頂を見上げた。

朱天が要石を砕いた影響は、天界だけでは終わっていない。

地上でも、すでに多くの者が苦しんでいる。

その事実が、桃華の胸を重くした。

     ◇

日が高くなった頃。

一行の前に、巨大な岩壁が現れた。

岩肌には鬼の顔を模した門があり、その両脇には鉄棒を持つ二体の鬼が立っている。

「止まれ」

鬼の一体が唸った。

「人間どもが、ここへ何の用だ」

頼光は一歩前へ出ると、合掌した。

「我らは都より参った山伏。諸国を巡り、修行を重ねております」

「修行だと?」

「険しき大江山にて一夜の宿を賜りたく、参上いたしました」

二体の鬼は顔を見合わせる。

やがて、下卑た笑い声を上げた。

「人間が自ら食われに来たか」

「ちょうどよい。今宵は宴だ」

門が開く。

その奥には、岩をくり抜いて造られた巨大な館が広がっていた。

篝火が燃え、無数の鬼が行き交っている。

人の骨を飾った柱。

血のように赤い敷物。

奥からは、笑い声と酒の匂いが流れてくる。

桃華は怒りを押し殺しながら歩いた。

館の一角。

格子の向こうに、数人の娘たちが閉じ込められている。

皆、顔色を失い、身を寄せ合って震えていた。

桃華と目が合った一人が、助けを求めるように口を開く。

だが声は出さない。

桃華もまた、僅かに頷くだけに留めた。

――必ず助けます。

声に出さず、そう誓う。

     ◇

館の最奥には、大広間があった。

数十もの鬼が酒を酌み交わし、人間の肉を肴に騒いでいる。

その最上段。

巨大な虎皮の上に、一人の鬼が座っていた。

赤い髪。

額から伸びる二本の角。

人の数倍はあろうかという巨体。

その身体から放たれる瘴気は、他の鬼とは比べものにならない。

「ほう」

鬼が酒盃を置いた。

「珍しい客だ」

頼光たちは一斉に頭を下げる。

「都より修行に参りました山伏にございます」

「都か」

鬼は舌なめずりをする。

「都の女は美しい。肉も柔らかく、血も甘い」

桃華の拳が僅かに震える。

頼光の視線が、それを制した。

「我こそは、大江山を統べる酒呑童子」

鬼は両腕を広げる。

「せっかく来たのだ。今宵は我らの宴に加われ」

「ありがたき幸せ」

頼光は頭を下げたまま答えた。

その傍らには、四体の鬼が控えている。

星熊童子。

熊童子。

虎熊童子。

金熊童子。

酒呑童子に仕える、四人の悪鬼。

その中でも星熊童子は、桃華たちを鋭い目で観察していた。

「頭領」

「何だ、星熊」

「その娘から、妙な香りがいたします」

桃華の背筋に緊張が走る。

星熊童子が鼻を鳴らした。

「桃の花のような……」

酒呑童子の目が細くなる。

「桃だと?」

桃華は静かに答えた。

「山を巡るうち、桃の林を通りました。その香りが衣に残っているのでしょう」

沈黙。

やがて酒呑童子は、大声で笑った。

「桃か!」

「我ら鬼が最も忌むものを身にまとい、鬼の山へ来るとは面白い娘よ」

「お許しください」

「よい。今宵は客だ」

酒呑童子は盃を掲げた。

「酒を持て!」

鬼たちが次々と徳利を運んでくる。

盃に注がれたのは、血のように濁った赤い酒だった。

金時が僅かに顔をしかめる。

頼光は平然と盃を口へ運んだ。

飲んだふりをしながら、袖の中へ流している。

桃華も同じように酒をかわした。

「都の山伏どの」

酒呑童子が頼光へ呼びかける。

「お前たちも、珍しい酒を持っておるのではないか?」

「ございます」

頼光は待っていたとばかりに、神便鬼毒酒の壺を差し出した。

「山中で神々より賜りました霊酒にございます」

「神の酒か」

酒呑童子の目が輝く。

「面白い。注げ」

頼光は自ら立ち上がり、酒呑童子の盃へ酒を満たした。

続いて四鬼へ。

他の鬼たちにも次々と振る舞っていく。

酒呑童子は香りを嗅ぎ、一息に飲み干した。

「うまい!」

広間に歓声が上がる。

「もっと持て!」

鬼たちは競うように酒を飲み始めた。

一杯。

二杯。

三杯。

やがて鬼たちの顔が赤く染まり、次々と床へ倒れていく。

四鬼も膝をつき、苦しげに息を吐いた。

「これは……何だ……」

星熊童子が呻く。

頼光の手が、衣の中に隠した刀へ伸びる。

桃華も聖剣の柄を握った。

酒呑童子は俯いたまま動かない。

霊酒が効いた。

誰もがそう思った、その時だった。

「クク……」

低い笑い声が響いた。

酒呑童子の肩が震えている。

「人間どもよ」

ゆっくりと顔を上げる。

赤い瞳が、先ほどまで以上に禍々しく輝いていた。

「ずいぶんと面白い酒を飲ませてくれたな」

酒呑童子は立ち上がった。

足元は僅かにふらついている。

だが、全身から噴き上がる瘴気は衰えるどころか、さらに膨れ上がっていた。

「近頃はな」

酒呑童子が笑う。

「地の底より、力が湧いてくるのだ」

館全体が震える。

「まるで黄泉が、我ら鬼に力を与えているかのようにな!」

頼光が刀を抜く。

四天王も一斉に武器を構えた。

桃華は布を解き、聖剣桃光を手に取る。

酒呑童子は巨大な鉄棒を持ち上げた。

「正体を現したな、人間ども」

その一振りが、宴の膳を吹き飛ばす。

「ならば今度は、我らがもてなしてやろう」

酒呑童子の咆哮が、大江山を揺るがした。

鬼の宴は終わった。

そして、鬼退治が始まろうとしていた。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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