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第十七話 旅立ち

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 2,422文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

東の空が白み始める頃。

廃寺を包んでいた夜の闇は静かに薄れ、境内には鳥たちのさえずりが響いていた。

兄弟鬼の亡骸は、朝日に照らされると黒い霧となって風に溶けていく。

桃華はその姿を静かに見送った。

「鬼も……還るのですね。」

蜜秋は小さく頷く。

「黄泉へね。」

しばらく沈黙が流れる。

やがて金時が大きく伸びをした。

「さて。」

腹をさすりながら笑う。

「旅籠へ戻って飯にしよう。膳がそのままじゃ。」

桃華は思わず目を丸くした。

「一晩経ってますよ? お腹を壊します。」

金時は豪快に笑う。

「人の身なら腹も壊そうものじゃが、我らは人にあらず。一晩程度なら何ともあるまい。」

そう言って親指を立てる。

「何より、もったいない。」

蜜秋が思わず吹き出した。

「そんな理由で戻るの?」

「飯を粗末にする方が罰当たりじゃ。」

桃華は苦笑しながらため息をつく。

「……では、急ぎましょう。」

三人は山を下り、宿場町へ戻っていった。

旅籠へ戻ると、主人は一行の姿を見るなり駆け寄ってきた。

「ご無事でしたか!」

「ああ。」

金時が笑って頷く。

「鬼は退治してきた。」

主人は深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。本当に……ありがとうございます。」

その日の宿場町は、久しぶりに安堵の笑顔で満ちていた。

昨夜の料理は温め直され、三人はようやく食卓を囲む。

金時は豪快に飯をかき込みながら笑った。

「やはり飯はうまいのう。」

蜜秋は呆れたように肩をすくめる。

「一晩経っても、本当に平気なんだ。」

「申したであろう。」

金時は胸を張る。

「我らは人とは少々できが違う。」

桃華は思わず笑みをこぼした。

戦いの緊張が、ようやく解けていく。

一行はその日一日を宿場町で休養にあてた。

桃華は刀の手入れをし、

金時は宿の薪割りを手伝い、

蜜秋は町の子どもたちに囲まれ、小猿たちと木登りを競っていた。

鬼の噂は瞬く間に町中へ広がり、人々は三人へ何度も礼を述べた。

その夜は誰も戦いの話をしなかった。

久しぶりに穏やかな夜だった。

   ◇

夜。

旅籠の屋根の上。

蜜秋は月を眺めていた。

瓦の音を立てぬよう、桃華が隣へ腰を下ろす。

「眠れないのですか。」

蜜秋は夜空から目を離さない。

「あんた、世界の果てを見たことがあるかい?」

桃華は首を振る。

「ありません。」

蜜秋は静かに笑った。

「そうだろうね...僕も見たことはない。」

少しの沈黙。

「でもね...。

 斉天大聖様は、仏となられて地上を離れる前に、一度だけ世界の果てまで飛んだそうだ。」

桃華は耳を傾ける。

「昔、斉天大聖様は筋斗雲でどこまでも飛び、お釈迦様の手のひらを飛び出したと思っていた。

 でも、本当は指の根元から一歩も出られていなかった。」

蜜秋は夜空を見上げる。

「あれほどの御方でも届かなかった世界の果てへ、最後には本当に辿り着いたんだ。

桃華は小さく息を呑む。

「世界の果てとは……空の果てさ。」

蜜秋は空へ指を向ける。

「そこから見た世界は、青く丸かったそうだ。

 空は思っているよりずっと薄く、紙みたいに細い青い帯が、黒い宇宙との境を包んでいた。

 世界は丸く、静かに浮かんでいた。」

しばらく二人は黙って月を見上げる。

「天界とは違うのですか。」

「全然違う。」

蜜秋は笑う。

「天界は世界の上にあるんじゃない。」

「別の理にある世界だ。」

そして立ち上がる。

「いつか世界の果てから、この世界を見てみるといい。

 きっと、自分がどれだけ小さくて、この世界がどれだけ美しいか分かる。」

   ◇

翌朝。

朝露に濡れた街道へ、三人は並んで立つ。

宿の主人と町の人々が見送りに集まっていた。

「どうか道中、お気をつけて。」

桃華は深く頭を下げる。

「ありがとうございました。」

金時も片手を上げる。

「世話になった。」

蜜秋も軽く笑って手を振った。

「また近くまで来たら寄るよ。」

三人は街道を歩き始める。

山道へ差しかかった頃だった。

道端の大岩に、一人の老人が腰を下ろしていた。

白い髭を蓄え、一本の杖を手にしている。

旅人とも仙人ともつかぬ、不思議な老人だった。

桃華は、その姿を見た瞬間、小さく目を見開く。

「……また、お会いしましたね。」

老人は穏やかに笑みを浮かべる。

「うむ。どうやら、無事に知を供につけられたようじゃのう。」

金時も老人へ目を向ける。

「相変わらず、いつ現れたのか分からぬ御仁じゃ。」

老人は笑うだけで答えない。

桃華は一歩前へ進み、静かに頭を下げた。

「以前は、お礼も申し上げられませんでした。

 あなたは一体、何者なのですか。」

老人は杖をつきながら立ち上がる。

「ただの旅人じゃ。」

そう言って空を見上げる。

「旅とは面白いもの。

 歩む者が道を選んでいるようでいて、実は道に選ばれておることもある。」

桃華はその言葉を静かに聞いていた。

老人は三人へ視線を向ける。

「この先、汝らを導く者が待っておる。

 その出会いが、旅の行く末を大きく変えるじゃろう。」

桃華が何かを尋ねようと口を開く。

「それは──」

その時だった。

一陣の風が吹き抜ける。

木々の葉が大きく揺れ、桃華は思わず目を細めた。

再び前を見る。

老人の姿は、もうどこにもなかった。

「……また消えおった。」

金時が苦笑する。

「風より気配が薄いとはのう。」

蜜秋だけが老人の消えた場所を見つめていた。

「あの爺さん、一度見たことがある。」

桃華が振り返る。

「どこでですか。」

「西王母の庭。」

蜜秋は静かに答える。

「仙桃を実らせる巨木の下に、あの爺さんは立っていた......。

 誰なのかは知らない。

 でも、あの庭には、美猴王様も西王母様もおられた。

 なのに、誰一人としてあの爺さんを追い払おうとはしなかった。

 それどころか、まるで昔からそこにいるのが当たり前みたいだった。」

しばらく誰も口を開かなかった。

ただ、風だけが静かに吹き抜けていく。

桃華は老人が立っていた場所を見つめ、小さく息を吐く。

「……参りましょう。」

三人は再び歩き始める。

三つの影は朝日に照らされ、ゆっくりと街道の彼方へ伸びていく。

彼らを待つ新たな出会いを知らぬまま――。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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